特許庁がデザイン思考の手法を活用し、行政サービスの品質向上につなげようとしている。中央省庁でデザイン思考に本格的に取り組む例は初めて。既に一般職員や幹部にデザイン思考を研修し、2018年8月9日はプロジェクト発足やCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)設置を発表。8月29日にはキックオフミーティングを開催するなど、積極的に推進している。

特許庁はデザイン思考の手法を活用し、行政サービスの品質向上を狙ったプロジェクトを本格的にスタートさせた。18年8月9日には庁内にCDOとして統括責任者を設置し、その下に「デザイン経営プロジェクトチーム」を立ち上げることを発表。8月29日には公募によるチームメンバーの他、幹部やプロジェクトに関心を持つ一般職員などを集めたキックオフミーティングを庁内で開催した。今回の取り組みは、中央省庁でデザイン思考を本格的に採用した初のケースといえそうだ。
経済産業省と特許庁は5月23日に「『デザイン経営』宣言」を発表。その内容がデザイン業界や一般企業の経営者などから注目を集めている。デザイン経営とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法。意匠法の改正などを含むため、特許庁はデザイン経営の普及を推進。企業を啓発する一方で、特許庁も自ら実践する方針を掲げ、18年に入って一般職員や幹部にもデザイン思考の研修を実施してきた。一般職員の意識改革にもつながり、デザイン思考の効果を実感したため、正式なプロジェクトとして発足させ、ユーザー目線による新たな行政サービスを追求することにした。具体的には、ユーザー目線によるアプリやサイトの改善などを主なテーマに挙げている。これまでの発想とは違う視点で使い勝手などを見直していく。実はチームメンバーの公募も特許庁では初めてで、それだけ一般職員のやる気は高い。
特許庁だけでなく、経済産業省からも参加者
8月29日のキックオフミーティングは、特許庁内の意識を高めるために呼びかけたものだが、特許庁だけでなく経済産業省からも参加者が相次ぎ、約130人が集まった。コンサルティング会社であるロフトワークの林千晶氏が進行を務め、宗像直子特許庁長官とデザイン経営について対談したり、参加者によるミニワークショップを開催したりした。
ミニワークショップは、特許庁の良いところや課題などを参加者が付箋紙に書き込み、周囲の参加者とディスカッションしていくというもの。マイクを持った林氏と宗像長官が参加者に分け入り、良いところや課題などを直接に聞き出すという場面もあった。「特許庁の職員はまじめな人が多い」という前向きな意見の他に、「余計な業務が多いのでは」といった課題を話す参加者もいた。思わぬ本音の声にびっくりしたり、大きくうなずく参加者もいたりしたほどで、キックオフミーティングは大いに盛り上がった。
8月13日には、プロジェクトを支援してもらうコンサルティング会社の公募を開始した。プロジェクトのテーマごとに契約していく考えで、9月中旬には正式に決まる見込み。特許庁だけでデザイン思考を推進するのは難しいため、外部の力を積極的に取り入れるためだ。各チームが具体的に動き出すのは10月以降になる見込みだ。デザイン思考の採用によって、行政サービスの品質向上をどこまで実現できるのか。今後の動きが注目される。


