北米では、店舗をショールーム化してオンラインで販売する動きが加速しているのはご存じの通り。その動きの中で、全く新たな価値を消費者とメーカーの双方に提供し、急成長しているのが「Software-based retailer」を標榜するb8ta(ベータ)である。

b8taは2015年12月、シリコンバレーに最初の店舗をオープンした。その後、17年に11店舗、18年に80店舗(7月現在)と、店舗数を増やし続けている。その内訳は、路面店が10店舗、ショップ・イン・ショップの形でオープンしている店舗が70店舗である。今年6月には米百貨店大手のメイシーズに一部株式を譲渡し(金額は非公開)、今後メイシーズの店舗内に、「The Market@Macy’s」という、b8taの仕組みを使ったショップ・イン・ショップをオープンさせていく計画もある。大手百貨店が、このように店舗のショールーム化に積極的である理由は、そのb8taの魅力にある。
魅力は集客力とデータ
b8taがメーカーから注目されている理由は大きく2つある。
1つめは、その集客力だ。店頭には、実際の製品はもちろんのこと、簡単に製品説明などを閲覧できるタブレット端末が製品前に並ぶ。店頭を訪れた消費者は、その説明を見ながら気軽に製品を試すことができる。最新の製品を試用できる、エキサイティングな体験の場として、消費者からもとても人気がある。
b8taのショップ・イン・ショップの店舗は、住宅リフォームや家電を扱う米ロウズやメイシーズなど、もともと消費者の往来が多い場所にオープンさせている。マンハッタンにあるメイシーズの旗艦店では、1階のメイン入り口付近に、巨大なフロアスペースを確保してストアをオープンさせ、かなりの集客力を持つ。
2つめの魅力は、b8taからメーカーに提供されるデータである。店内の天井などにカメラが設置してあり、そのカメラが消費者の動きを検出する。消費者がどの製品の前にどのくらいの時間立っていたか、どの製品を手に取って試したか、どれくらい購入されたかなどの定量的なデータが、すべて自動的に集約される。また、店員と消費者の会話や、購入に至らなかった理由、質問など定性的なデータも同様に集約できる。
消費者テストを実店舗内で
この、店内で集められた消費者の定量的・定性的データが、24時間以内にメーカーにダッシュボードにて提供される。つまり、消費者テストが実店舗内でリアルに行われているということだ。b8taでは、製品を販売して収益を上げるだけでなく、マーケティングなどに必要なデータを、ほぼリアルタイムに得ることができるのだ。

b8taの店舗オープン当初は、ベンチャー企業のIoT製品の販売が中心であった。製品のユーザーテストができるという利点が浸透するにつれ、大手メーカーも利用するようになってきた。さらには商品のカテゴリーも広がり、化粧品やスポーツ用品など生活に密着した製品も増えている。

b8taのビジネスモデルは当初、リテールモデル+広告販促モデルであった。消費者が購入すればそこから収益が入る。購入せずに店頭で商品を手に取ったり体験したりするだけでも、消費者が製品を見ている時間などのデータに基づき、広告効果としての手数料をメーカーに課金していた。
18年7月からは、月額固定の料金体系になり、よりシンプルな課金モデルになっている。定量的・定性的レポートなどもすべて月額料金に含まれる。このようにb8taは、店舗を増やすことと並行して、ビジネスモデルも変化させてきた。
b8taモデル店舗の量産へ新サービス
そして現在、b8taのビジネスモデルは、さらなる進化を遂げている。
Software-based retailerの技術を生かし、「Built by b8ta」という新サービスを開始した。b8taが提供するパッケージを使って、簡単に実店舗がオープンできるというサービスである。このパッケージには、b8taで用いられているデータ分析に必要な設備や店舗運営をするためのプラットフォームなどがすべて含まれている。
ソフトの面だけではなく、不動産のサポートや、店舗の内装デザインといったハード面のサポートもパッケージに含まれているようだ。米国の業界内では、ECサイトを簡単に開設できるようにした「Shopify」の実店舗版のようだと評価されている。ショップ・イン・ショップの形から、フラッグシップストアまで、大小さまざまな規模の実店舗に対応し、実店舗の開店までの時間やコストを大きく減らせる。ネットワーク製品の米ネットギアが、シリコンバレーにBuilt by b8taを使った最初の店舗をオープンさせている。
b8taの成長と成功の理由は、提供すべき消費者価値(エキサイティングな買い物体験)は変えず、メーカーやリテーラーのニーズに合わせて、ビジネスモデルと技術を進化させ続けていることであろう。Built by b8ta によって、米国ではb8taモデルの店舗が量産されていくことになりそうだ。今後のさらなる変化と躍進が楽しみな注目企業である。