化学材料を扱う専門商社の長瀬産業は、プラスチック樹脂「Tritan(トライタン)」の販売攻勢をかける。ガラスのように透明で、折れそうで折れない強じん性にサイゼリヤも注目。店内のグラスなどに採用する方針だ。長瀬産業は2018年のトライタンの売り上げを17年の2倍に見込む他、20年には18年の倍増を狙う。そのための秘策が、武蔵野美術大学との共同研究だ。

トライタンで開発した製品例。ガラスのような透明性を持ちながら、強じんで割れにくい。安全性もあり、子供用の製品にも使える
トライタンで開発した製品例。ガラスのような透明性を持ちながら、強じんで割れにくい。安全性もあり、子供用の製品にも使える

 トライタンは米イーストマンケミカルが開発し、07年から長瀬産業が日本代理店として国内で販売してきた製品。ガラスのような透明性を持ちながら、強じんで壊れにくいといった特徴を備える。製品を曲げようと力を込めても、折れそうで折れない点がユニークだ。さらに製造工程で有害な化学物質を使用していないため、安全性も高いという。グラスや皿に加工されたり、キッチン家電やスポーツ飲料用ボトルの一部に採用されたりする他、安全性を重視する哺乳瓶などの幼児用品、医療機器といった幅広い需要がある。

 導入事例の一社がイタリアンレストランのサイゼリヤだ。トライタンを使用した食器を導入すると、18年6月25日に発表した。ガラス製食器の破損によるけがをなくし、安心して食事できる環境を提供したい、という考えから割れにくいグラスを構想していたという。そこでトライタンの機能を評価し、ジョッキやワイングラス、ジュースグラス、デカンタなどに仕立てて順次、導入を開始する。18年内に全店に導入する予定だ。

曲げても元に戻り、割れにくいため、グラスなどガラス製品の代替品として期待するケースが多い
曲げても元に戻り、割れにくいため、グラスなどガラス製品の代替品として期待するケースが多い

武蔵野美大とコラボ、デザイナーに認知度を上げたい

 計画を達成するには今までの市場だけでなく、デザイナーへの認知度向上や新しい用途開発が重要になると長瀬産業は判断。武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科インダストリアルデザインの田中桂太教授と18年1月から共同でトライタンの用途開発を研究してきた。プロダクトデザイナーなどを目指す4人の大学院生に、トライタンを使った製品を提案してもらうというプロジェクトで、長瀬産業にとっては初の試み。メーカーが大学と組むケースは多いが、専門商社は珍しい。「当社の独自調査の結果、まだトライタンに対する一般的な認知度が低いことが分かった。そこでインハウスのデザイナーや”デザイナーの卵”である学生にトライタンをアピールすることを狙った」(長瀬産業カラー&プロセシング事業部ポリマープロダクツ部営業三課の水科智美カラーコーディネーター)。

 18年7月25日には外部からデザイナーも招いて、「武蔵野美術大学×長瀬産業~トライタンの用途開発と新しい価値」と題した共同研究の成果発表会を開催した。大学院生に与えられたテーマは「ユーザーに新たな体験や喜びを与えるプロダクトイメージを作ること」。長瀬産業の「ナガセアプリケーションワークショップ」と呼ぶ兵庫県尼崎市の開発センターを訪問するなど、半年間にわたって研究を重ねた。発表会場では、3Dプリンターを活用した試作品も展示。映像も含めて多くのアイデアが公開された。「トライタンに関するレクチャーをはじめ、素材が実際に出来上がる過程も見学するなど、大学院生にとっても貴重な体験になった。こうした結果が最終提案に結び付いた」(田中教授)。

発表会には、デザイナーなども参加。トライタンの特性や、大学院生の提案内容に耳を傾けていた
発表会には、デザイナーなども参加。トライタンの特性や、大学院生の提案内容に耳を傾けていた

アイプロテクターから楽器まで、さまざまな用途を提案

 大学院生はいずれも留学生で、最初に登壇したオウ・カンシン氏はトライタンの透明性や強じん性を生かしたスポーツ用のアイプロテクターを提案。ウエアラブルとファッションの要素を兼ね備えた製品をデザインした。ソン・ショウ氏は、トライタンが薄いシート状になる点に注目。2枚の透明なトライタンシートの間に磁粉を挟み込み、裏面に配置した磁石に応じて文字やアイコン、さらにはデザインを変えて表示できることを発表した。バッグなどに応用すれば、表面が変化するユニークな製品になるという。

スポーツ用のアイウエアに活用した例。トライタンの透明性や強じん性を生かした
スポーツ用のアイウエアに活用した例。トライタンの透明性や強じん性を生かした
上は2枚の薄いトライタンシートに磁粉を挟み込ませたもの。ロゴやアイコン、デザインなどを表示させることが可能。中は携帯用の「花瓶」に応用したところ。常に花を持ち歩くライフスタイルを提案。下はトライタンを使った小皿で、自由に形状を変えられる点が特徴
上は2枚の薄いトライタンシートに磁粉を挟み込ませたもの。ロゴやアイコン、デザインなどを表示させることが可能。中は携帯用の「花瓶」に応用したところ。常に花を持ち歩くライフスタイルを提案。下はトライタンを使った小皿で、自由に形状を変えられる点が特徴

 リ・ジョンソプ氏は、照明をテーマにした製品を提案。例えば、トライタンの透明性や強じん性を生かしたアウトドア用の照明の他、中央の光源を何枚ものトライタンで重ねて屈折と反射を繰り返すことで光の変化を楽しむ製品なども考案している。新たなミュージックスタイル「インストライタン」を発表したのはオウ・リツナン氏だ。トライタンの透明性を生かして音楽の可視化につなげられないかと考えた。トライタンでボールの形状を作り、友人に投げると音が出るといった製品を発表した。ボールが楽器になり、遊びながらセッションしている感覚にするのが狙い。さらにトライタンを円筒状にした“楽器”も提案。上部のボタンをたたくと音が出て、同時に円筒状の内部に光と煙が出て音と入り混じり、幻想的な雰囲気になるようにした。

 発表会後、来場したデザイナーから多くの質問が寄せられるなど、今回の大学院生のアイデアは好評価だったようだ。武蔵野美大とのプロジェクトは18年度は終了したが、あと数年は継続する方針。今回の経験を踏まえて、次回からさらに内容を深めていく。さらに長瀬産業は18年7月から多摩美術大学とも同様なプロジェクトを推進中で、10月にも成果発表会を予定している。

いずれも照明をテーマにした製品で、中央の光源をトライタンで囲むことで新しい照明スタイルにつなげている。左はアウトドア用などに利用する照明、右は魚のようなプロダクトに組み込み、プールなどで稼動させて遊びに使うニーズを想定
いずれも照明をテーマにした製品で、中央の光源をトライタンで囲むことで新しい照明スタイルにつなげている。左はアウトドア用などに利用する照明、右は魚のようなプロダクトに組み込み、プールなどで稼動させて遊びに使うニーズを想定
トライタンを円筒状にした“楽器”では、音楽に応じて内部に光と煙が出る仕掛け
トライタンを円筒状にした“楽器”では、音楽に応じて内部に光と煙が出る仕掛け
今回のプロジェクトを担当した武蔵野美術大学のメンバー。左から田中桂太教授、ソン・ショウ氏、リ・ジョンソプ氏、オウ・カンシン氏、オウ・リツナン氏
今回のプロジェクトを担当した武蔵野美術大学のメンバー。左から田中桂太教授、ソン・ショウ氏、リ・ジョンソプ氏、オウ・カンシン氏、オウ・リツナン氏
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