セブン&アイ・ホールディングス(HD)が消費者データの収集、統合、活用へ急加速している。2018年6月にはスマートフォン用アプリを刷新し、リアル店舗でのIDにひも付く購買データの収集を開始。同月には大手企業10社とデータ活用の研究会を立ち上げて社外データ連係を視野に入れる。19年春にはスマホ決済サービスを開始し、さまざまな決済データの収集に乗り出す。グループの総力を挙げて“アマゾンエフェクト”への対抗を急ぐ。

 データ収集、統合の鍵を握るのが、18年6月にセブン-イレブンとイトーヨーカ堂で提供を開始した新しいスマホアプリだ。グループの総合通販サイト「オムニ7」の登録に使う「7iD」をスマホアプリに登録してもらうことで、ネットとリアル店舗の購買履歴を統合できる。

アプリは350万人超が利用

セブン-イレブンの公式アプリは購買に応じてランクアップするロイヤルティプログラムを採用
セブン-イレブンの公式アプリは購買に応じてランクアップするロイヤルティプログラムを採用

 6月末時点で、すでにアプリ利用者数はセブン-イレブンで312万人、イトーヨーカ堂で46万人で合計358万人に達している。18年秋にはそごう・西武、19年春にはロフトや赤ちゃん本舗などでも提供を始め、最終的には、セブン&アイグループの国内店舗に来店する1日約2300万人の購買データを収集することを目指す。

 アプリの役割について、セブン&アイHDの執行役員デジタル戦略部シニアオフィサー清水健氏は、「コミュニケーションツールの役割も重視している」と話す。アプリは、購買状況に応じてグループ共通のマイルがたまり特典を受けられる。購買状況に応じたクーポンも配信する。

 清水氏は「(電子マネー)nanacoは板カードなので、使ってポイントがたまっても、こちらからその方にふさわしい情報も伝えられなかった」と課題を説明。「データを集めるのはもちろんだが、お客さまも得するものにしてお返ししたい」(同氏)と狙いを話す。

セブン&アイ・ホールディングスの執行役員デジタル戦略部シニアオフィサー清水健氏
セブン&アイ・ホールディングスの執行役員デジタル戦略部シニアオフィサー清水健氏

19年春にスマホ決済を提供

 しかし、同アプリはUX(ユーザー体験)上で大きな弱点が残る。アプリに決済機能がないため、スマホを提示した後にnanacoカードなどで決済する必要がある。消費者にとっては二度手間になり、店舗運営上は対応時間が余計にかかってしまう。

 そこで、アプリでの決済まで可能にすべく、新会社セブン・ペイを18年6月に設立。19年春のサービス開始に向けて準備を進めている。清水氏は「お客さまが望んでいるものを取り込んでいく」と語り、QRコード決済だけでなくさまざまな手段を視野に入れる。グループ外部にも広げることができれば、さらに多くの決済データが入手可能になる。

ラボは社外データ連係の第一歩

 オムニ7によるネット通販の購買データ、アプリやスマホ決済によるリアル店舗の購買データに次いで収集を目指すのが社外の購買以外のデータだ。

 その布石となるのが、18年6月に設立したデータ活用の研究組織である「セブン&アイ・データラボ」。ANAホールディングス、NTTドコモ、ディー・エヌ・エー、東京急行電鉄、東京電力エナジーパートナー、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産など10社と設立した。

 「幅広い業界の参加企業それぞれが保有する豊富な統計データから得られる知見を相互活用し、そこから生じる新たな知見によって生活課題や社会課題を解決する」ことを目的に、当初は、「個人情報は扱わない」「(共有するのは)個人を特定しないような統計データの情報」「1社対1社でやる」といった原則で、互いの課題を持ち寄りデータで解決することを目指す。

 限られたデータだが、例えば、清水氏は「位置情報から買い物困難地域を探る」ことができるという。具体的には、多くの人が週末になると10km先のスーパーマーケットに移動する地域があれば、そこは平日に生鮮品を買いにくい地域の可能性がある。セブン&アイとしては、生鮮ネットスーパー「IYフレッシュ」の積極展開を検討できるわけだ。

 セブン&アイにメリットがあるのはもちろん、位置データを提供した企業にも新たなデータビジネスの創出につながるという。こうした成果を、ラボの参加企業間で共有する。

 まずは1年間と期間を区切って実施し、複数の課題に関して成果を出していく。「我々が対応できる人数に限界があるため100社、200社に増やすつもりはない」(清水氏)と言うが、当初の10社に加えて、既に保険会社や不動産会社も加わった。

 こうした活動内容はラボの第一歩。清水氏は「将来的にはID連携でのデータ統合も想定している」と構想を語る。実現すれば購買以外のデータも7iDにもひも付くことになる。

セブン&アイHDは、消費者にまつわるデータの収集範囲を順次拡大していく
セブン&アイHDは、消費者にまつわるデータの収集範囲を順次拡大していく

 国は、こうした個人の情報を預かり、その人の意向に基づき第三者にデータを提供して便益を返す企業を「情報銀行」として認定する制度を検討している。対応については「具体的には白紙」(清水氏)とする。一方、「個人が情報を持ち歩く、個人がデータを預ける先を決めるようになると、(購買というデータの)一次発生場所がどこまで意味を持つものか」と、同社の強みが失われる可能性も認識している。消費者から信頼してデータを預けてもらえる存在として必要なら、情報銀行として認定されるよう準備を進める考えだ。

「察するデジタル」に活用

 こうして集めたデータをどう生かしていくのか。清水氏はその活用法を「察するデジタル」と表現する。

 例えば、泡タイプのハンドソープを買う人は3~4歳の子供がいる人が多いという。子供が外で遊び始めて自分で手を洗うには、固形石けんだと落としてしまい、液体タイプのハンドソープでは泡立てるのに時間がかかる。だから泡タイプを買う傾向が高いとされる。もしデータでそれが分かれば、泡タイプのハンドソープを買う人に幼稚園や保育園の情報を提供したり、先々はランドセルの提案をしたりすることが可能になる。

 「Aという商品を買っている人はBという商品を買っています」という単純な関係性に基づくレコメンドではなく、「その人のパーソナルな環境にあった提案をして、商売だけではなく価値ある情報提供で頼りになる存在になれる」(清水氏)ことを目指す。その結果、高校生になる子にはロフトの文房具を提案するなど、グループ間の店舗送客を実現して、LTV(顧客生涯価値)を高める効果も期待する。

デジタル戦略推進本部に約200人

 こうしたデータ活用を推進するのが、セブン&アイHDが18年3月に6つの本部を新設した際に作られた「デジタル戦略推進本部」だ。その下にはデジタル戦略部とシステム戦略部を置く。前者は従来、オムニチャネル管理部として約70人が所属し、後者は事業システム企画部と共通システム企画部で合計100人超が所属していた。本部には約200人が所属することになる。

 本部長には後藤克弘代表取締役副社長が就いた。代表取締役が本部長になるのは、6本部の中でデジタル戦略推進だけ。デジタル戦略を経営の中心に据えることを社内外に示した。

 本部が手がけるサービスの柱は2つあり、ここまで説明したデータ活用は「顧客との関係性、エンゲージメントを高める」こと。もう1つは「顧客の立場に立ち利便性を高めること」。こちらは、RFIDを使った店舗での検品作業の効率化のようなバックオフィスでの取り組みや、スマートスピーカーを使った新しいサービスの開発などを進めている。

 多くの企業がデジタル戦略の強化を進める中で、どこでも課題になるのが人材確保だ。セブン&アイでも同様だが、その対策の1つとしてとったのが人材の配置転換だ。

 本部設立の狙いの1つが、システム開発の理系人材と、ネット通販などデジタルを活用したビジネスを企画する文系人材を融合させることで価値を高めて、デジタルを会社全体の戦略に発展させること。

 そこで、共通システム企画部のIoTシステムというチームに所属していた理系人材を、デジタル戦略部のサービスイノベーションのチームに“文転”させた。リアル店舗のデジタル化で利便性を向上させる役割などを担う。

 また事業会社からの1年程度の短期出向も受け入れ、デジタル人材をグループ全体に広げる活動も進める。

セブン&アイ・ホールディングスのデジタル戦略推進組織の変更ポイント
セブン&アイ・ホールディングスのデジタル戦略推進組織の変更ポイント

 中途採用も積極化させている。ただ、データサイエンティスト、デジタルビジネス人材の給与水準は高騰している。「それは我々も苦労するところ。給与範囲の中で来てほしい人には上限を提示する」(清水氏)。それでもネット大手企業などと比べると、さまざまな面で待遇が異なる。データラボなども含めて、「セブン&アイという大きな舞台でこれまでにない取り組みをすることに意義を感じてもらえる」(同氏)ことをアピールして、優秀な人材を外から確保している。

 米アマゾン・ドット・コムがITの力でさまざまな産業の競争ルール、業界構造を変えていくアマゾンエフェクトの本丸は小売りの世界。アマゾンは研究開発に2017年に226億ドル(2兆4860億円)を投じ、大手製薬メーカー、自動車メーカーを上回って世界で最も研究開発投資をしている(米調査会社ファクトセット調べ)。セブン&アイグループがデジタル戦略で伍していくためには、リアル店舗網、接客、商品力という既存の強みを生かすことはもちろん、グループを超えた社外の力も生かすことが求められるだろう。個人データの新たなエコシステムをデータラボを礎に構築できるか、アマゾンが得意とするエコシステム構築に向こうを張るような巻き込み力に期待がかかる。

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