2018年2月期決算が9期ぶりの減収減益に終わり、苦戦が続く衣料品専門店のしまむら。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングと共に“デフレの勝ち組”といわれ、衣料品専門店では国内2位の座を死守してきた企業だけに、低迷する業績をいかに立て直すのかに注目が集まっている。そんななか、新たな切り札として期待されているのが、寝具・インテリアに特化した専門店だ。

開拓余地のある商品部門をスピンオフ
「主力業態のしまむらで展開しているカテゴリーのなかで、フォーマルやスポーツなど開拓余地のある部門をスピンオフして新業態を開発していく。なかでも取り組みやすかったのが寝具・インテリア部門だった」
こう語るのは、しまむら 商品7部の柳沢淳一部長だ。同社では婦人衣料を中心に肌着、寝装具、紳士衣料、ベビー・子供服、洋品小物、インテリア、靴を取り扱う。そのうち寝具・インテリアの売り上げ比率は全体の約16%。32%を占める婦人衣料、24%の肌着に次ぐ規模に成長している。
さらに寝具専門チェーンが市場にほとんどないため、専門店化することで差異化できると考えたという。「うちが得意とするローコストオペレーションと低価格品の圧倒的な品ぞろえで臨めば、競合他社と十分戦えるはず」と柳沢部長。当初は少し不安もあったが、1号店をオープンしてその読みは確信に変わったという。
1号店となる「しまむら 寝具・インテリア館 Zzz... と 神戸西店」は18年5月24日、神戸市内にオープンした。ヤングカジュアル業態「アベイル」の併設店で、もとは靴の専門店「ディバロ神戸西店」。アベイルでも靴を取り扱っているうえ、不採算店だったこともあり、インテリア館に業態転換した。
売り場面積は396平方メートルで、既存売り場の約2倍。店内には、枕や布団、マットレスなどの寝具からクッション、ラグなどのインテリア用品、パジャマなどが所狭しと並び、しまむら特有の雑多感にあふれている。
オープン当日は開店時から満車状態が続き、店内もレジ待ち客の長い列ができた。店頭の特価品はすぐに完売し、計画以上の売り上げを達成。予想外だったのは、700メートルの至近距離に立地する「しまむら明石店」でも寝具・インテリアの売り上げが落ちなかったことだ。
「明石店は全店でも売り上げ上位に入る。新店舗をオープンしても売り上げに影響がなかったということは、新規客が来店しているということ」と柳沢部長。オープン後ひと月経過した時点でも両店とも好調に推移しているという。同社では、1号店をプロトタイプとし、800平方メートル規模の店舗を開発。既存売り場と比べると売り場面積で4倍、アイテム数で約2倍に拡大する予定だ。

1型で30万枚売れた接触冷感シリーズ
寝具部門でヒット商品が相次いで生まれたことも、スピンオフさせた大きな要因。今回の店舗では、PB(プライベートブランド)の「クロッシー」と高機能素材シリーズ「ファイバードライ」、そして同社仕様の別注商品を中心に展開。PB比率は全部門だと約25%なのに対し、寝具・インテリア部門では約60%を占めるという。
新店舗で特に人気を集めていたのが、ファイバードライ素材を使用した接触冷感機能商品と、高反発で寝返りしやすい健康寝具ブランド「起き楽」シリーズだ。
接触冷感とは、熱伝導性が高い素材を使用することで、寝返りのたびにひんやりと感じる機能のこと。寝苦しい夏でも快適に眠れることから競合他社もこぞって開発し、今では夏の必需品になっている。同社でも接触冷感商品をさまざまなアイテムで展開。そのうち、敷きパッドは昨年、1型で約30万枚を超えるヒット商品となった。

寝具メーカー「ライズトーキョー」とのコラボで開発したしまむら限定モデル「起き楽」は、17年12月発売。高反発力と体圧分散により、寝返りがラクで腰が沈み過ぎないのが特徴だ。価格はシングルの敷布団9800円(税込み、以下同)、セミダブル1万2800円、ダブル1万4800円。しまむらでは、1万円を超す商品自体珍しいが、開発を手がけた柳沢部長には勝算があったという。
「健康寝具といえば、4万から20万円くらいのものまであるが、しまむら価格ならきっと売れるとは思っていた。実際に、腰痛で悩む家族が使い、楽に起きられるようになったと喜んでいたのも大きな自信になった」と振り返る。ただ、しまむらのPBというだけではまだアピール力が弱い。そこで、テレビCMで有名人を起用し、認知度を高めた寝具メーカーの名前をあえて打ち出すことで、信頼も勝ち取った。起き楽シリーズではベッドの上に重ねて使えるマットレスパッドも展開。価格は5800円からだが、もともとシングルの敷布団のほうがよく売れ、在庫回転率も高いという。
こうした人気の定番商品を徐々に増やし、ラインアップを充実させながら婦人衣料、肌着に次ぐ事業の柱に育てていく。「いずれはベッドも取り扱うだろうが、まずは消耗度が高く、買い換え頻度の高い周辺アイテムからそろえていく。ニトリの商品構成に近づけていきたい」と、柳沢部長は本音を明かす。

業界の常識覆す“柄物の布団”で集客
寝具・インテリアを扱うホームファッション小売り市場は、17年度が約3兆4600億円(矢野経済研究所調べ)でここ数年、堅調に推移している。かつて寝具は、西川リビングの系列店のような昔ながらの寝具専門店とイオンリテールなど大手GMSが主戦場だった。ところが、近年はニトリやIKEA、無印良品といった、家具インテリアを扱うSPA型のチェーン店がシェアを拡大。最近では、睡眠改善をうたう高機能の寝具メーカーが存在感を増しているほか、ユニクロ、マックハウスなどアパレルの大型店も寝具市場に参入している。
そんななか、同社が目指すのは寝具を中心にインテリア用品もそろえたライフスタイル提案型の専門店だ。コンセプトは「価格に敏感、睡眠を科学する」。健康も一つのテーマに挙がっている。
「例えば、大学進学などで1人暮らしを始める学生や若い新婚夫婦が気軽に購入できてトータルコーディネートできる店にしていきたい」。狙うのは、ニトリが取り込めていない、ローカルチェーン店の顧客。「ニトリは価格でも攻めているが、ニトリに負けない価格とデザインでシェアを取っていく」と意気込む。
デザイン面では、しまむらが得意とする柄物を打ち出し、無印良品やニトリとの違いを全面にアピールする。同社では、掛け布団や敷布団にもディズニーやサンリオのキャラクター、花や星柄などをプリントした商品が多い。「通常、布団はカバリングするうえ、コストもかかるのでプリント生地を使うのは珍しい」という。寝具業界では常識外れのものづくりだが、見た目のかわいさと価格の安さが支持され、無地よりも柄物ばかりが売れている。
「価格が手ごろなので、カバーを付けるより毎年買い替えるほうがいいという意識もあるのだろう」と柳沢部長。市場には似たような無地の布団が多いなか、しまむらの寝具売り場は柄物が豊富で、他店にはないパジャマも充実。アパレル感覚で寝具を買える気軽さも、しまむらの寝具が売れる一因といえそうだ。

顧客目線の売り場改革で利益改善
同社では15年から売り場改革に取り組み、顧客にとって選びやすく買いやすい店づくりを目指してきた。売り場配置や什器の高さなどを見直し、省スペース化を図る新レイアウトを全店に導入。その際、アイテム数を絞り込み過ぎたため、しまむらの魅力でもある雑多感が薄れ、売り逃しも重なって減収減益を招いた。
ただ、売り場改革による成果は着実に表れている。寝具売り場でも、以前は売り上げを増やすために店頭やバックヤードに商品をうずたかく積んでいたが、新レイアウトを導入し、在庫量を削減。さらに、商品を圧縮梱包したり、丸めたりして形状を工夫したほか、商品ごとの棚割をして適正な陳列に変え、作業効率を上げていった。
その結果、目視で在庫数量を把握し、値下げのタイミングもコントロールしやすくなってロスが低減。柳沢氏は「かつてロスリーダーといわれた寝具の粗利益率が33.6%に増え、前年より1ポイント改善した」と胸を張る。
今期から始まる3カ年計画では、9年後の国内3000店体制に向け、さらに改革を加速するしまむら。同社の強みは、自社物流システムと、最後まで売り切る体制など徹底したローコストオペレーションシステムにある。その武器を生かした新業態開発は、新たな仕組みづくりへの布石であり、寝具・インテリア館には、これまで以上に大きな期待がかかる。
ただ、現時点では既存店の商品を増やしただけの総花的な売り場でしかなく、コンセプトに沿った新たな店舗モデルの確立が急がれる。
同社は18年7月9日にファッション通販最大手「ZOZOTOWN」での販売を開始。店舗がないエリアの顧客や来店できない顧客の獲得を狙い、いずれは自社EC開発も視野に入れているという。当面はオリジナルブランドを中心に展開する予定だ。
EC参入についてはこれまで慎重な姿勢を見せていた同社だが、その影響力を無視できない状況にあることは想像に難くない。ただ、国内約2000店舗、売上高約5600億円という事業規模を考えると、いまECを立ち上げたところで業績回復の原動力になるかどうかは未知数。それよりもリアル店舗のさらなる改革が喫緊の課題といえるだろう。

