リコーは2018年7月23日、全天球カメラ「THETA(シータ)」向けの拡張ソフトウエア配信サービス「RICOH THETA プラグインストア」を開設した。同ストアは、最新機種「RICOH THETA V」に機能拡張のソフトをインストールできる。サービスの開始当初は無料ソフトの提供から始める。今後、有料ソフトの提供や課金の仕組みを整えて、開発者から手数料を徴収するプラットフォームモデルへ育てる。

7月23日に開設した「RICOH THETA プラグインストア」
7月23日に開設した「RICOH THETA プラグインストア」

 スマートフォンにアプリをインストールするような感覚でTHETAに拡張ソフトをインストールできるプラグインストアは、リコー版「App Store」と言える。利用者はTHETAとパソコンを接続した状態でプラグインストアを訪れ、目的のソフトのインストールボタンを押すだけで完了する。前編で紹介したTHETAのビジネスモデル転換の最後のピースだ(リコーが広告事業参入 「THETA」で生み出す新収益)。

 リコーは同サービスの展開を見据えて、最新機種のRICOH THETA VのOS(基本ソフト)にグーグルのAndroidを初めて採用した。自社開発のOSからの切り替えには葛藤もあった。「ファームウエアをアップデートすることで、改善の努力は続けているものの、他社のOSをカスタマイズして搭載するためどうしても使い勝手が悪い部分が出る。一方で既に定着しているAndroidを採用した方が、開発者はソフトを開発しやすく拡張性も高い。長期的に見ればソフトで価値を提供することの方が重要と踏み切った」とリコー執行役員の大谷渉SmartVision事業本部長は決断の背景を語る。

「RICOH THETA プラグインストア」は開発者から広くソフトの提供を募る
「RICOH THETA プラグインストア」は開発者から広くソフトの提供を募る

 Androidの採用により、プラグインストアでは第三者から広くソフトの提供を募ることが可能になった。リコーはTHETAの動作を制御できるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)とSDK(ソフトウエア開発キット)を提供するなど、ソフトの開発環境を整えた。ストアの開設に先駆け、18年6月から開発者の募集を開始した。THETAはグローバルで販売していることもあり、海外の開発者からも登録の申請が寄せられているという。

3つの方向性で「THETA」を拡張

 リコーは提供されるソフトによって、大きく3つの方向性でTHETAの使い勝手を拡張できると考えている。1つ目が「カメラ機能の拡張」だ。例えば、リコーはAndroidの顔認識機能を活用して、自動で顔を判別してぼかしを入れられるソフトを開発した。ジャーナリストなど、不特定多数の人が写る写真を公開する際に、プライバシーに配慮する用途などを想定している。

 また、リコーは年内に「タイムラプス撮影(コマ落とし撮影)」を可能にするソフトも提供する。今後、スマホ向けカメラアプリで人気を集めている料理の撮影に特化したソフトや、人の顔に動物の耳などを合成できるソフトがTHETA向けに提供される日も近そうだ。

 次に「外部デバイスとの連携」を挙げる。ソニーのブロック型のIoT機器「MESH」とTHETAを連携するソフトはその一例だ。MESHは「ボタン」「人感」「明るさ」「動き」といった全部で7つの機能ごとのブロックが販売されている。このブロックと対応する機器、あるいは「LINE」などのネットサービスを組み合わせて利用する。販売価格は5980円から。

 まずは「ボタン」と「人感」の2種類をTHETAに対応させる。連携方法は簡単だ。MESHのスマホ向けアプリ上で、ブロックとTHETAを選んで線でつなぐだけでよい。例えば、シャッターのボタンとして使ったり、人の気配を察知したら自動撮影する簡易的な防犯システムに利用したりできる。

ソニーはブロック型IoTデバイス「MESH」とTHETAを連携できるソフトを開発した
ソニーはブロック型IoTデバイス「MESH」とTHETAを連携できるソフトを開発した

 最後が「クラウドとの連携」だ。NTTドコモはパソコンやスマホのブラウザーからTHETAを操作して、撮影やファイルの管理などができるソフトを開発した。同社は開発環境や仕様が異なるさまざまなスマートデバイスを、スマホのブラウザーから操作できるようにする「デバイスコネクトWebAPI」を提供している。その一貫として、THETAにも対応した。また、リコーが開発したソフト「無線ライブストリーミング」を使えば、360度撮影の動画を「YouTube」にライブストリーミング配信できる。こうしたクラウドサービスと連携したソフトも増えていきそうだ。

BtoB用途の対応範囲を拡大

 提供されるソフトの増加によって、THETAのビジネス用途の広がりにも期待がかかる。THETAの発売後、リコーにはビジネス活用の相談が殺到しているという。想定の範囲では不動産、観光、建築現場が挙げられ、想定外の用途では医療機器に360度撮影の機能を搭載して検査に使いたいという要望も寄せられた。ところが広範囲にわたる要望のすべてにリコーが応えることは難しい。

 そこで、第三者の開発力を借りることで、幅広いニーズへの対応を見込む。例えば、建設現場のプロジェクト管理ツールを提供する米ホロビルダーは、自社のツールとTHETAを連携するソフトを開発。同社のツールの管理画面上から、建設現場に設置したTHETAを操作して360度動画で確認できるようにした。「将来的にはこうしたビジネス用途に対して、APIの利用料に応じた従量課金の仕組みを作るなどして、新たな収益にしていきたい」と大谷氏は言う。

 とはいえストアの開始時点では第三者の開発したソフトはまだ少ない。ドコモ、ソニーなどが開発した数種類にとどまっている。これにリコーが開発した3種類が配信されている。リコーは開発の支援を目指し、自社開発したソフトのソースコードをすべてソフト開発のプラットフォーム「GitHub」上で公開する。

 ストアの成功にはソフトの充実が必要不可欠。リコーがソフト開発者の意欲を高められるかどうかは、THETAの販売台数に左右されるだろう。ソフトがきちんと使われて、開発者自身も対価を得られるユーザー基盤が求められるからだ。米アップルや米グーグルは圧倒的なユーザー基盤を武器にプラットフォームとしての地位を確立した。ソフトの提供でTHETAの魅力を高め、販売台数が増え、さらに提供されるソフトが増える。そうしたエコシステムを構築できるかどうかに成否がかかっている。

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