ホンダは新ビジネスの戦略策定とオープンイノベーションを加速している。2017年11月から18年2月にかけて沖縄県那覇市を中心に実施したAI(人工知能)を活用した音声応答技術による活用観光案内の実証実験で得た知見をベースに「安心・安全」などに関する新ビジネスの開発に着手した。

 「疲れが出てくる夕方以降の時間帯に『疲れた、眠い』などの発話が多くなることが分かった」。こう話すのは本田技研工業(ホンダ)ビジネス開発統括部ビジネス開発戦略部戦略課の栗原匡氏だ。

ユーザー発話の多いジャンルのランキング(時間帯別)
ユーザー発話の多いジャンルのランキング(時間帯別)
「疲れた、眠い」などの発話が多くなることから、音声サービスに対する安心・安全機能のニーズがあるものと想定できる

 ホンダは、AIスタートアップ企業のNextremer(東京・板橋)と共に17年11月から18年2月にかけての約4カ月間、沖縄県那覇市を中心に30台のレンタカーを使って、「AI音声応答技術を活用した観光案内」の可能性を探る実証実験を実施。ドライバーの発話データを分析した結果、上記のことが判明したのだ。

 実証実験の概要はこうだ。トラベルレンタカー那覇空港店のクルマに専用の車載ナビゲーションとスマートフォンを搭載(冒頭の写真)。専用アプリを起動して、AIがクルマが走行している位置や方向に合わせて観光案内を行った。3人のAIキャラクター(下写真)が観光案内人になって、ラジオ放送のように一方的に情報を提供した。ドライバーや助手席に座っている人が観光案内に興味を抱いたら、興味を持ったキーワード(店名や地名などの固有名詞)を使って「○○って何?」「○○って何時まで開いている?」などと聞くと詳しく答えてくれる。

3人のAIキャラクター
3人のAIキャラクター

 例えば、名護市に地元で評判のそば屋「二見そば」に誘導するシナリオを作って検証した。クルマが走行している位置や方向を考慮して、AIキャラクターによる観光案内の中に「二見そば」というキーワードを盛り込んで、ドライバーなどの関心を引くようにした。信号が赤になってクルマが止まると、ハンドルの左脇にあるナビゲーションに「二見そば」の紹介画面を映し出した。ドライバーがそのそば屋に興味を抱いて、ナビゲーション画面の「目的地へ設定」ボタンを押すと、現地までガイドしてもらえるというものだ。

クルマが止まると、ハンドルの左脇にあるナビゲーションに「二見そば」の紹介画面を映し出す
クルマが止まると、ハンドルの左脇にあるナビゲーションに「二見そば」の紹介画面を映し出す

 AI音声応答技術の活用による観光案内を体験したのは、一般の観光客。コンパクトカーを予約している観光客が配車カウンターに来た際に、用意した簡単なリーフレットで説明してホンダの実証実験に協力を仰ぎ、使い方の説明は最小限にとどめた。実証実験を通じて、延べ467組、1129人が体験した。

ドライバーの音声をテキストに変換したログを蓄積

 ドライバーがどう反応したのか音声をテキストに変換したログを蓄積し、音声データは破棄している。ちなみに、テキスト保管のみを被験者に同意をもらった。音声ログ(テキスト)解析を行ってシナリオ通りに誘導できたのか、毎日見直した。

 今回、ドライバーの発言内容や、ドライバーがAI音声応答でどんなインタラクティブコミュニケーションを取っていたのかにも注目。例えば、「自分のホテルまで案内してくれ」という要望や「眠いんだけれど、何とかしてほしい」という要望が目立った。

 実証実験後に、発言内容などを時間帯ごとに整理したところ、夕方以降の時間帯に「疲れた、眠い」などの発話が多くなったという結果になった。そこで、眠くなったドライバーに対処する「安心・安全」サービスの開発に着手した。

 ビジネス開発統括部ビジネス開発戦略部戦略課技術主任の中島慶氏は「サービスの内容については公表できないが、例えば、眠くなったドライバーが耳を傾ける内容で話しかけることなどが考えられる」と説明する。

 ホンダは今年4月1日付で組織運営体制を変更した。その一つが中島氏や栗原氏が所属するビジネス開発統括部にあった次世代ソリューション企画部の名称をビジネス開発戦略部に変更。「新ビジネスの戦略策定とオープンイノベーションを加速する」(ホンダのニュースリリースより)。現在、ホンダの研究所などが持つ「安心・安全」ノウハウと音声対話技術を掛け合わせた新ビジネス化を推進している。

 那覇市での実証実験はまさにオープンイノベーションの一環だと言える。「Nextremerと組んだことによってホンダでは考えられないほどのスピードでプロジェクトが進んだ。昨年のお盆明けぐらいから動き出し、11月に実証実験をスタートできた。AIスタートアップ企業との共同プロジェクトでないとこれだけの短期間ではできなかっただろう」と、中島氏はオープンイノベーションの効果を実感した。

 ホンダは4月1日付でコネクテッド事業企画部コネクテッド開発部も発足させて、ハードウエア(四輪)×ソフトウエアで価値を生み出すプロセスを強化した。ビジネス開発統括部は、コネクテッドサービスなどの既存事業(二輪・四輪・汎用・航空機)に縛られない新ビジネスを開拓する部門という位置付けであり、ホンダの強みと他社の強みを生かせるオープンイノベーションが、新ビジネス開拓に有効な手段と捉えており、加速させているという。

 中島氏は「沖縄の実証実験を通じて、ホンダの『安心・安全』ノウハウは既存事業だけでなく、既存事業に縛られない新ビジネスとしても付加価値を生み出せる可能性を見いだすことができた。顧客ニーズをいち早くサービスに反映し、ビジネスの品質を高めるために、スタートアップ企業の力を借りて『安心・安全』ノウハウを活用したサービスの開発を加速させている」と話す。

 ちなみにAI音声応答技術の活用による観光案内は、観光客の行動を変えさせる効果があることも分かった。例えば、「沖縄美ら海水族館」(沖縄県国頭郡本部町)のような人気観光スポットは、音声ガイドによる効果はほとんどなかったが、「備瀬のフクギ並木」(同)は音声ガイドによって誘導率が10倍以上になった。音声ガイドによって、備瀬のフクギ並木の存在を知らなかったユーザーや訪問予定のなかったユーザーの行動を変えることができた。

音声ガイドによる誘導率の変化
音声ガイドによる誘導率の変化
「備瀬のフクギ並木」は音声ガイドによって誘導率が10倍以上になった

 なお、AI音声応答技術の活用による観光案内は米アマゾン ウェブ サービスのクラウドコンピューティングサービス「AWS(Amazon Web Services)」上にある、Nextremerの音声対話システム「minarai」が自動で行っている。minaraiは人の発話に対して認識・応答することができるAIだ。

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