武田薬品工業は、東京・日本橋にある「武田グローバル本社」を2018年7月2日にオープンした。本社ビルをメディアとして位置付け、壁などに配置した漢字アートで企業姿勢を発信している。また投票でチェアとデスクを選ぶなど、社員の意向を大きく配慮しているのも特徴。「社員が働きやすいオフィス」のモデルケースになりそうだ。
グローバル本社プロジェクトの責任者、福富康浩・経営企画部長兼社長室長は「どうしたら社員が喜ぶかを常に考えて本社プロジェクトを進めてきた。社員が働きやすいオフィスにすることで、武田は変わったと実感できることを目指した」と説明する。
実際にオフィスを見ると同社が社員の意向を配慮して、設備やレイアウトを決定したことが理解できる。
例えば、社員が使うチェアとデスクは、投票により、オカムラのオフィスチェア「コンテッサ」と昇降式デスクを採用した。社員は気分に応じてデスクの高さを変えられ、立って作業することもできる。執務スペースの窓際には、社員が集まって気軽に会話できるようにソファやスツールを並べる。コーヒーメーカーも用意する。
各フロアには、性別に関係なく利用できる多目的トイレを設置。注目を集めるLGBTにも配慮を示す。
同社は、オフィス改革にとどまらず、人事制度にも手を入れる。8月にはこれまで出社と退社の時間を自由に設定できたフレックスタイム制度を改善し、昼間にオフィスを離れることも認める。本社ビルの駐輪場とシャワールームを整備し、自転車による通勤を可能にする。
企業姿勢を漢字で表現
もう一つの特徴に、壁などに取り入れた個性的なデザインがある。新オフィスのクリエイティブディレクションを佐藤可士和氏が担当した。佐藤氏は、「製薬会社として人々の生きる力をサポートしている姿勢を空間で表現した」と語る。具体的には、「日本的なエッセンスとして生、水、光、土、木、人、絆、未来の8つの漢字をモチーフとしたアートワークをビルの主要な場所にデザインした」と説明する。
例えば、エントランスの中央には、生命の源の象徴として水を張った石盤を置く。壁面には、「水」と「光」の文字をあしらった。また、社員が集まり食事をする「LIFE CAFÉ」に設置した円形のLED照明には、「絆」の文字をデザインした。
「本社ビルは、企業のメッセージを内外に発信するメディアであり、企業のブランディングにとって重要な役割を果たす」(佐藤氏)。そのため、エントランスや通路といったさまざまなスペースのデザインを通して、企業の姿勢を示すことに意味があるわけだ。
グローバル企業である武田薬品工業が新オフィスで示した社員ファーストの姿勢は、今後、多くの企業がオフィスと働き方の改革を実践する際のモデルケースとなりそうだ。
(写真提供/武田薬品工業)