中国EC大手の京東集団(JD.com)は自社物流のプラットフォームを持ち、顧客にオンライン・オフラインを感じさせない「ボーダーレスリテール」(無界小売り)を目指す。そのためAI(人工知能)やビッグデータ、顔認証などの先端技術を活用して無人スーパーや倉庫の無人化、ドローン導入を急速に進めている。6月に開催された同社の大規模商戦前に、訪問の機会を得た。無人化の取り組みを中心に写真と動画でお伝えする。

京東は、EC分野でアリババに次ぐ2番手と語られがちだ。だがアリババと違うのは、自社と自社の社員で、仕入れから顧客の場所まで届ける物流の仕組みを持つところだ。最近はテクノロジー企業としてボーダーレスリテールに力を入れる。ボーダーレスリテールは同社が目指す、オンラインやオフラインの垣根を越える顧客体験、サービス提供を指す。そのために京東はAIやビッグデータ、顔認証、物流倉庫の自動化や過疎地のドローン利用など先端技術を駆使し、効率化を図っている。同社幹部は「技術の会社になる」と口をそろえる。
効率向上を求めて
本社からバスで15分ほど走ると、自社が運営する高級スーパー「7FRESH(セブンフレッシュ)」がある。延床面積5000平方メートルの広々とした店内に商品が整然と並ぶ。野菜は有機野菜で、パッケージの表示には消費されるべき曜日が明示されている。ニュージーランド産のサーモン、カナダ産のタイ……。日本のお酒もある。輸入品が30%を占めるというスーパーには、いけすやイートインもある。


同店は野菜や生鮮食品の食品履歴の開示に力を入れている。例えばいけすの魚一匹一匹にQRコードが付いており(文字通り、魚の表面に特殊加工のQRコードが貼ってある!)、消費者はスマホアプリを使い消費期限などの情報を得る。中国の顧客は食品の安全性を強く求めているとして、京東は2017年12月、米ウォルマート、米IBMそして清華大学と、中国での食品安全を認証するためサプライチェーンでの透明性を保つようブロックチェーン技術で連携したと発表している。

支払いエリアには10台ほどのレジがある。有人は1カ所。顧客は店のアプリとひも付けた銀行口座で決済する。顔認証端末も置いてあり、いったん認証されれば、商品を読み取らせるだけだ。

近隣住民からネット注文があれば、この店舗から商品をバイクで3キロ圏内なら30分以内で届ける。

京東本社内には実験1号店となる無人スーパーの店舗がある。京東のアプリ画面を改札機のようなゲートのタッチ画面にかざして入り、品物を手に取り、そのまま出るだけだ。店内の天井に並ぶカメラが顔を認証する。重さセンサーが取り付けられた棚が、人が何を取ったか、何を戻したかを測る。説明員は、RFIDで識別していたのを顔認証に切り替え2カ月ほどたっているが「売り上げには変化がない」と話した。今後アルゴリズムを改善していくという。現在の20店舗を、年内に500店舗まで広げる予定だ。

エレベーター前にあるセキュリティーゲートには顔認証端末が数台設置されており、社員が利用していた。

「技術の会社になる」
京東を支えるのは紛れもなく物流プラットフォームだ。自社だけでなく、小売企業や物流企業にもこのプラットフォーム上のサービスを使えるようにしている。例えば小売企業にとっては冷凍が必要な商品を含む配送サービスや特急サービス、一方物流企業へはドローン利用、売り上げおよび在庫管理のデータサービスなどだ。
同社の副総裁で物流サービスを担当する唐偉氏は「物流プラットフォームを他社にも開放していく。効率アップを重視しており、投資は技術向上に使いたい」と語る。
そして先端技術が矢継ぎ早に導入されているのが自動化の事業領域だ。同社副総裁で無人化事業を統括するX事業部の総裁を務める肖軍氏は、イベントで「小売りのテクノロジー企業になる」と言い、自社開発のドローンや無人販売店、無人レストランについて説明した。
無人販売店は120平方メートル以内の広さの店舗を都市部以外にもガソリンスタンドや観光地などにつくっていくとした。ガソリンスタンド内に設置して夜間運営したり、薬やデザートの品ぞろえに特化したりするというシナリオがあり得ると話し、店舗当たり月商25万元(約415万円)程度を目指すとした。京東は17年10月、中国最大の石油会社である中国石油化工と戦略的提携を結んだと発表。中国石油の持つガソリンスタンドをスマート化することで合意している。
興味深いのは無人レストラン。注文の受理、調理から配膳まで、人間の介在なしでの運営を目指す。400平方メートルほどの広さの店を8月に開店予定だ。肖氏は「有名な調理人のレシピも(再現できるので)全国展開できる」と自信をのぞかせた。
自社開発のドローンは今回のセールで、千キロメートルを飛行可能な、1トンの荷物を運ぶ大型タイプが実験飛行した。現在京東は20キロ超の荷物を数十キロメートル運ぶドローンを40台保有する。北京・中関村では自動配送車が路面を走ったという。

京東は倉庫の自動化も進めている。以下は倉庫のデモ動画だ。無人の広いフロアをたくさんのロボットが自走し、荷物を仕分けしていく。よく見ると床にはQRコードが貼られており、ロボットがこの情報を読み取って走るルートを識別しているのが分かる。動画によると1台のロボットは5キログラムの荷物を積載でき、1秒に1.5メートル走るようだ。
本社を訪れた時期はちょうど同社恒例の「6.18セール」前。同セールは、創業日に当たる6月18日を記念してほぼ3週間、同社のECサイト「京東商城」上で行われる大規模な販売キャンペーンのこと。今年は6月1~18日だった。そのためか、社内に活気が満ちていたように感じられた。
今年のセールでは出庫した注文金額が前年比37%増の1592億元(約2.7兆円)を達成。75型以上のハイエンドテレビの売上額は前年比で10倍以上、また生鮮食品の総出荷量は重量3トン以上で前年比3倍近くになった。自社の物流網を活用し、90%以上の注文を当日ないし翌日までに宅配することができたという。
よく比較されるのは、ライバルのEC企業、アリババ集団が秋に開催する「独身の日」のセールだ。17年11月11日にアリババが達成した売り上げは約1600億元。日数や売り上げ計上の仕方が違うので単純比較はできないが、数字上ではほぼ互角だ。
6.18セールの説明をした担当者は、京東は日本市場を重視しており、今後日本に仕入れセンターをつくる予定があると明かした。日本の商品、特に日用品は安心・安全に強みがあり、越境EC(海外からECサイトを通して中国の顧客が購入する)でもトップに入る人気を持つからだという。



京東の劉強東CEOは12年、社員に向けて「売り上げ1000億人民元(約1.7兆円)」の夢に向かうと述べた(『創京東』、李志剛著)。それから約6年、6.18セールだけで約1600億元に達した。
自らの名を1文字取って1998年に北京・中関村で24歳の劉CEOが始めたのは光磁気ディスクの卸売店だった。2004年にEC会社に変わり、14年には米ナスダックに上場を果たす。今、京東は約3億人の顧客を持ち、約1千万品目の商品を販売するECプラットフォームに成長した。筆頭株主の騰訊控股(テンセント)とはパートナー提携をしており、約10億人超といわれる同社の対話アプリ「微信(ウィーチャット)」利用者へのアクセスも可能だ。
京東は18年6月18日、創業記念日に米グーグルと戦略的提携を発表した。5.5億ドル(約600億円)の出資を受け、世界の複数地域でGoogleショッピングに出品していく。グーグルと組むことで、リテールのテクノロジー企業へとかじを切ったことを強く印象付けた。