通信機能を備えたスマート自転車を月額2500円(税込み。以下同)で貸し出すサービスが登場した。ユーザーは自転車を占有できるので、シェアサイクルのように、駐輪ポートに止める必要はないのが利点。月額料金には、盗難防止や無料メンテナンスなどが含まれる。果たして新しい自転車レンタルサービスは普及するだろうか。

Vanmoof(バンムーフ)のスマート自転車「Smart X」(変速タイプは3段と8段の2種類)。同社は3段変速タイプと8段変速タイプをそれぞれ月額料金2500円、3000円で貸し出す。太いフレームの中に、バッテリーや通信モジュール、照明を組み込こむことで配線や固定用のネジなどが露出しないシンプルなスタイルを実現している。購入する場合の価格は12万円から
Vanmoof(バンムーフ)のスマート自転車「Smart X」(変速タイプは3段と8段の2種類)。同社は3段変速タイプと8段変速タイプをそれぞれ月額料金2500円、3000円で貸し出す。太いフレームの中に、バッテリーや通信モジュール、照明を組み込こむことで配線や固定用のネジなどが露出しないシンプルなスタイルを実現している。購入する場合の価格は12万円から

 2018年4月24日、月額2500円(3段変速タイプ、初期費用3万5000円)で高性能スマート自転車を貸し出すサービスがスタートした。オランダの自転車メーカー、Vanmoof(バンムーフ)の自転車レンタルサービス「VANMOOF+」だ。

 レンタルの対象となる自転車は、「Smart X」「Smart S」。バッテリーを搭載し、通信機能を備えるのが特徴。施錠、解錠には、専用アプリをインストールしたスマートフォンを使う。3段変速と8段変速の2タイプがあり、後者の月額料金は3000円(初期費用は3段変速タイプと同じ)。

 安心、安全に乗れるサービスにも特徴がある。自転車には盗難の不安がつきものだ。通常はユーザーが頑丈なチェーンで施錠するなどして自衛していた。これに対して、Smartシリーズでは、自転車に搭載したGPS(全地球測位システム)機能によって位置情報を把握。万一、自転車が盗難された場合は、同社が位置情報から自転車の所在を特定し、「バイクハンター」と呼ばれるスタッフが盗難車を回収する。

 故障に対するサポートも手厚い。東京・原宿にある同社ブランドショップでは、部品の交換などのメンテナンスを無料で提供する。盗難車の回収と無料メンテナンスは、定額料金に含まれる。

 同社は、モーターを搭載した電動自転車「Electrified」シリーズも販売している。同車は、250Wのモーターと418Whのバッテリーを搭載し、フル充電すると、約150km走行できる。19年には、同シリーズをVANMOOF+のラインナップに加え、月額3700円(初期費用14万円)で提供する考えだ。

18年6月7日に発売した最新の電動自転車「Electrified 2」。フレームにディスプレーを搭載し、各種情報を表示する。418Whの大容量バッテリーと250Wのモーターのほか、Smartシリーズと同じ通信機能を備える。購入価格は43万円。今後、VANMOOF+に対応する予定
18年6月7日に発売した最新の電動自転車「Electrified 2」。フレームにディスプレーを搭載し、各種情報を表示する。418Whの大容量バッテリーと250Wのモーターのほか、Smartシリーズと同じ通信機能を備える。購入価格は43万円。今後、VANMOOF+に対応する予定

長期・頻繁な利用ならメリット大

 VANMOOF+が成功するかどうかを考える際の参考になるのが、最近都市部で急速に拡大している電動自転車のシェアサービスだ。公共施設やビルの一角に、設けられた専用の駐輪スペースに統一したスタイルの自転車を頻繁に目にするようになった。都内では、ビジネスパーソンらが移動に使用するケースが目立つ。

 代表格のドコモ・バイクシェアは、30分150円の時間貸しのほか、1500円で1日乗り放題のパス、月額2000円を支払えば30分以内は無料で何度でも利用できる料金プランも用意している。目的地近くに駐輪ポートがあるなら、乗り捨てできて便利。そのため地下鉄などの公共交通機関の代わりに利用できる点が支持されている。

 仮にドコモ・バイクシェアを1日30分、1カ月に30日利用した場合、最も安価な料金は2000円。一方、VANMOOF+は、ユーザーが1台の自転車を専有する点がバイクシェアと異なる。乗り捨てはできないが、どこにでも自由に移動できて、駐輪場所を選ばない。こうした利便性を魅力に感じるなら、Smartシリーズで月額2500円、Electrifiedシリーズで3700円という価格設定は妥当だろう。

 ただし、初期費用(3万5000円、14万円)は、ライトなユーザーにとっては高額過ぎる。これらを考えると、高性能な自転車を頻繁に、ある程度長期に渡って使用したいユーザーに適したサービスと考えられる。

 同社の共同創業者でCEOのティーズ・カーリエ氏によると、米国では民泊サービスのAirbnbが福利厚生の一環として、同社の自転車を社員に支給しているという。社員はこの自転車で通勤する。「米国では、自転車を社員に支給する動きが、ITベンチャーを中心に広がりを見せている」(カーリエ氏)。最先端の自転車を支給するという条件が、求人を有利にする面もあるようだ。

オランダの自転車メーカー、バンムーフの共同創業者でCEOのティーズ・カーリエ氏。兄のタコ・カーリエ氏と09年に同社を創業。自転車に使用する部品の大半を自社で開発したオリジナリティーの高い自転車に特徴がある
オランダの自転車メーカー、バンムーフの共同創業者でCEOのティーズ・カーリエ氏。兄のタコ・カーリエ氏と09年に同社を創業。自転車に使用する部品の大半を自社で開発したオリジナリティーの高い自転車に特徴がある

 国内でもバンムーフに追い風が吹いている。武田薬品工業は、18年3月に完成した本社ビルの地下に40台分の自転車置場を設置した。健康促進の目的で社員の自転車通勤を支援する狙いがある。国内でもベンチャー企業などを中心に自転車通勤を推奨したり、支援したりする例がこれまでもあった。大手企業にもこの流れが波及し始めた格好だ。企業が駐輪場を設置したり、補助を出したりする流れがさらに拡大すれば、通勤用途で高額の自転車を購入しやすくなる。

 地球環境にも健康にもメリットがある自転車の活用推進には行政も積極的だ。東京都は、オリンピックを開催する20年に向けて。約400㎞の自転車走行用レーンを整備する準備を進めている。

 「東京は人口密度が高いので、専用レーンなどの環境が整うことで自転車市場として成長を期待できる」とカーリエ氏は期待する。

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