楽天がグローバルで利用できる広告プラットフォームの開発を、年内の提供をメドに進めていることが明らかになった。9700万を超えるIDにひも付いて蓄積する購買データを使った広告を楽天外のサイトにも配信していき、広告事業でも“楽天経済圏”を確立させる取り組みと言える。楽天の有馬誠副社長執行役員が日経クロストレンドの取材で明らかにした。

楽天の有馬誠副社長執行役員
楽天の有馬誠副社長執行役員

 楽天は電通と共同で楽天データマーケティングを設立し2017年10月に営業を開始した。米グーグルの日本法人代表やヤフー常務取締役などネット広告分野で長年の経験を持つ有馬氏を同社社長に招聘し、楽天グループのビッグデータを軸にマーケティングソリューション開発、提供を進めてきた。楽天の広告事業は、出店者が楽天市場で展開する広告を中心に17年の広告事業の売上高は790億円に達したが、21年には2000億円まで伸ばすことを目標に掲げている。

購買データが強力な武器に

 楽天が開発する広告プラットフォームは、大きく3つの仕組みに分けられる。1つ目が楽天がグループで保有する膨大なデータを、広告配信に活用しやすい形で蓄積して管理するDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)だ。

 楽天はECモール「楽天市場」のほか、旅行予約の「楽天トラベル」、美容室やネイルサロンの予約サービス「楽天ビューティ」など、楽天グループだけでも多岐に渡るサービスを展開しており、会員の消費行動をさまざまな角度から分析できるデータ基盤が整っている。さらに、リアルの店舗での購買データも取得可能にしている。楽天は「楽天スーパーポイント」がたまる提携店舗を拡大しており日本マクドナルド、ビックカメラ、ドラッグストア大手のツルハなど多数の企業が参画する。これらの店舗で買い物をした会員に、楽天スーパーポイントを付与すると同時に購買データを取得する。

 グループサイトや提携店舗での購買データを、9700万を超える「楽天ID」にひも付けて蓄積している。この蓄積したデータを個人が特定できないように匿名化処理を施して、広告配信に活用しやすい形で保有するための仕組みがDMPだ。内製化することで、「楽天のデータを蓄積するために必要な開発がはるかに効率的になる」と有馬氏は言う。他社のシステムを利用する場合、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)によるつなぎ込みなどを独自で開発する必要がある。内製化することでデータのつなぎ込みを容易にして、広告主が活用しやすくする。

日本マクドナルドやビックカメラなどが「楽天スーパーポイント」を導入しており、リアル店舗の購買データも蓄積できる
日本マクドナルドやビックカメラなどが「楽天スーパーポイント」を導入しており、リアル店舗の購買データも蓄積できる

 楽天グループのサービス利用者は世界で12億を超えるが、その購買データについては国内に比べるとまだまだ十分とは言い難い。米国では14年に買収した米イーベイツのデータを活用する。同社は2600以上のECサイトと提携するサイトを運営する。利用者は同サイトを経由して、提携するECサイトで買い物をすると、購入金額の数パーセントが現金やポイントで還元される。アフィリエイトによるビジネスモデルだ。17年の流通総額は前年比49.6%増の99億700万ドルと急成長している。とはいえ、会員は1000万人程度にとどまる。なお、米調査会社eMarketerの調査では、17年のEC市場は4527億6000万ドルと予測されている。また、欧州では仏プライスミニスターの運営するECモールのデータを活用する。

 このDMPを使って、広告を配信するターゲットを設定する。この時に「購買データを持っていることが、精度の高いターゲティング広告の配信を可能にする」(有馬氏)。例えば、広告主が自社の商品を訴求する場合はまず、その商品を過去に購入した人を軸とする。購入者の他の商品の購買データや楽天市場の閲覧データ、楽天のサービスの利用データなどを統合的に分析して、同じ傾向を持つ未購入の会員を配信対象として設定する。これにより「高い確率で購入に結びつく会員に広告を配信できる」のが最大の特長になると有馬氏は説明する。

 DMPで設定したターゲット層が広告配信面に接触した際に、実際に広告を配信するDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)が2つ目の仕組みとなる。DSPはリアルタイムな広告取引で、ターゲット層に絞って広告を配信できる。従来の広告取引はまとめて、広告在庫を買い付けるためターゲット層以外にも広告が配信される可能性が高かった。

 楽天が開発する3つ目の仕組みがSSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)だ。これはDSPと対になる仕組みで、広告を掲載する媒体向けに提供する。SSPはサイトの訪問者が広告配信面に接触した際に、DSPに対して広告配信のリクエストを送る。SSPとDSPの取引はオークション形式をとっており、最も入札金額の高いDSPから広告配信を受け付ける。これにより、媒体社は高い収益を得られる。楽天は外部の媒体社に対して、開発したSSPを導入していく。

大手5社が楽天のSSPを導入

 楽天のSSPの導入が進めば、外部サイトでも楽天のデータをフルに活用して広告を配信できるようになる。楽天は提携サイトを拡大しており、具体名は避けたものの「大手では5社、それに準ずる媒体社でも十数社と提携している」と有馬氏は言う。

 同社はこれら3つの配信システムの自社開発を進めており、開発が完了したものから順次、現在利用しているSupership(東京・港)、ジーニー(東京・新宿)などのシステムから切り替えていく。「まずはSSPから切り替えていくことになるだろう」(有馬氏)。広告プラットフォーマーは大手ネット企業の寡占が進む。国内でもフェイスブック、グーグルの存在感は大きい。楽天は購買データと新たなプラットフォームを武器に、新たな対抗馬になれるのか。注目を集めそうだ。

(写真/山田 愼二)