丸井グループが投資するベンチャー企業と共同で取り組む、新たなマーケティング施策が始まった。2018年6月15日、東京・渋谷にある商業施設「渋谷マルイ」1階の一角に小さなアパレルショップがオープンした。出店する「ALL YOURS」はこれまでネット通販を中心に展開してきた。丸井の商業施設に同ブランドが店舗を構えるのは初めてのこと。ただし出店期間はわずか5日間だ。5坪程度のスペースではあるものの、小さなブランドでも数日単位から渋谷の一等地に出店できる。丸井はそんなサービスの提供を始めた。

丸井グループは投資するECベンチャーと共同で、中小企業を店舗に誘致する新たな取り組みを始めた
丸井グループは投資するECベンチャーと共同で、中小企業を店舗に誘致する新たな取り組みを始めた

 ALL YOURSが出店した、渋谷マルイのその一角は「SHIBUYA BASE」と名付けられている。小規模の事業者向けに、ネットショップを構築できるサービスを提供するBASE(東京・渋谷)と共同運営していることがその名の由来だ。丸井は18年4月17日にBASEとの資本業務提携を発表。同社はBASEと密に連携しながら、SHIBUYA BASEを運営していく。

 具体的には、BASEのサービスを使いネットショップを運営する50万店舗を対象に出店を呼びかけて渋谷マルイに誘致する。出店するブランドには、丸井が商品の陳列に必要な什器やレジなどの機器を貸し出す。「渋谷という立地でありながら、什器やレジまわりの機器のレンタルをすべて込みで1日当たり3万5000円という破格」(BASE)の値段で借りられる。なお、3万5000円は7月末までのキャンペーン価格になるという。

 BASEとの取り組みで丸井が期待するのは「施設の価値を高めること」。SHIBUYA BASEを通じて、渋谷マルイにさまざまな企業を誘致することで、いつ来ても新しい、他の施設にはないブランドや商品との出合いがある店作りにつなげる。

 丸井はこの取り組みにより、特に通常の営業活動ではアプローチしづらかった中小企業と接点を作ることを狙う。「人気の高い定番ブランドばかり集めた商業施設は、どこも同じようなラインアップになりがちだ」と丸井グループ経営企画部経営企画担当の新原一雄チーフリーダーは言う。その先には、将来的に渋谷マルイに常設店を設置できる可能性のある、成長株の企業の発掘に期待がかかる。

 今回出店したブランドもこれまで丸井とは接点がなかった。オールユアーズ(東京・世田谷)営業の大林正隆氏は「当社のブランドは丸井の顧客層が好むデザインとは異なる。今回、提案を受けなければそもそも出店しようとも考えなかった」と言う。

 BASEを通じて出店の提案を受けて、初めて丸井に店舗を構えられることを知った。丸井の顧客層とブランドのテイストが違うからこそ、「逆に初めてブランドと接点を持つ人が多く見込めるのではないかと考えた。また、ネットでブランドを知っていたものの、実際に商品を手に取って見たかったという層にも渋谷という立地であれば来店してもらいやすい」と大林氏は出店を決めた狙いを語る。

 丸井はそうした新しいブランドを誘致することで、既存の来店客に対して価値提供をするだけではなく、普段は丸井で買い物をしないような新しい顧客の開拓にもつなげたい考えだ。BASEに出店するブランドの中には、SNSやクラウドファンディングなどをうまく活用して、ファン作りに力を入れるブランドも多い。ALL YOURSはクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を巧みに使う。同サービスを使って隔月で企画を実施して、これまでに4400万円以上の支援金を集めるなど、クラウドファンディングを通じてブランドを応援してくれるファンを拡大している。丸井はそうした強いファンを持つブランドを誘致することで新たな顧客層の来店にもつながる可能性がある。

BASEのサービスを活用してALL YOURSが開設したネットショップ
BASEのサービスを活用してALL YOURSが開設したネットショップ
ALL YOURSはクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を活用してファンを集める
ALL YOURSはクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を活用してファンを集める

 当初はネットから店舗へブランドを誘致することから始めるが、今後はブランド側の要望次第で店舗をショールームとして活用し、BASE上のネットショップへと誘導するショールーム型店舗などにも取り組んでいく。

丸井からBASEに社員が出向

 丸井がBASEとの取り組みに本腰を入れるきっかけとなったのが、17年に実施したポップアップストアのイベントだ。新宿マルイ本館、マルイファミリー溝口、有楽町マルイ、博多マルイの4店舗でそれぞれ2日間にわたり、試験的にBASEの出店者を誘致するイベントを実施した。手作り雑貨や、ドライフラワーの専門店など、丸井に入居するテナントでは取り扱いの少ない商材のブランドを選んだ。

 結果としては「多少ではあるが想定を上回る集客につながった」(新原氏)。短期間でも一定の効果が期待できる手応えを得た。そこで、丸井はBASEに資本を入れ、ポップアップストア用の常設スペースを設置することを決めた。

 丸井は中期経営計画において、技術革新を取り入れるためのベンチャー投資など、企業価値の向上につながる投資を実施していくことを明らかにしている。投資領域としては「フィンテック」「シェアリング」「EC」に焦点を当てる。BASEはECへの投資という位置付けだ。丸井は資本投下にとどまらず、この資本提携を人材育成にもつなげる。既に丸井からBASEに社員を出向させている。既存の枠組みを超えた事業アイデアの創出と、小回りの利くベンチャー企業ならではの実行スピードを伴う人材を育てるのが狙いだ。

 逆にBASEは今回の常設店舗の設置など丸井の持つリソースを活用できる。このような事業のイノベーションや人材育成を目的として、大企業とベンチャー企業が手を組む事例は今後も増えそうだ。

(写真/新関 雅士)

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