大手スーパー・西友のPB(プライベートブランド)として生まれ、その後日本を代表するSPA(製造小売り)として発展を遂げた「無印良品」──。最近は商品を作って売るだけでなく、商業施設や公共施設の空間をプロデュースする事例も増えてきている。その集大成として位置付けられるのが「MUJI HOTEL」。1号店を中国・深センで開業したその狙いを、現地を訪れて探った。

世界初のMUJI HOTELができたのは、中国で最先端のトレンドが生まれる都市・深セン
世界初のMUJI HOTELができたのは、中国で最先端のトレンドが生まれる都市・深セン

 「無印良品」を展開する良品計画は、2018年に入ってから、鮮魚、果物、野菜など生鮮食品まで取り扱う世界最大規模の旗艦店「無印良品イオンモール堺北花田」を3月にオープン。4月には千葉県鴨川市で、道の駅の指定管理者として「里のMUJI みんなみの里」を開業させた。さらに年内には無印プロデュースの駅ナカまで出現する予定。現在、進んでいる京阪電気鉄道枚方市駅のリニューアル工事の監修を担当しているのだ。いずれも、「アンチゴージャス・アンチチープ」という無印良品のコンセプトを、商品だけでなく、体験を通じて伝えていこうという取り組み。その集大成として位置付けられるのが「MUJI HOTEL」だ。

MUJIの世界観をホテルを通じて訴求へ

 無印良品の商品は、衣類、食品、日用雑貨、家具、インテリアなど衣食住の多岐にわたっている。日常生活のほぼすべてを無印の商品で賄うことが可能だが、そんな“無印漬け”の生活を送っている人はそうそういないはずだ。しかしMUJI HOTELでは部屋の内装・アメニティーからレストランまですべてを無印がトータルコーディネート。「無印良品の思想を体感できるホテル」(良品計画)で、その世界観にどっぷりと浸ることができる。つまり、ホテルでの体験を通じて無印良品の世界観を広め、商品の購買につなげようという狙いが見える。

 19年春に東京・銀座にオープンする予定のこのホテル、実は中国で既に営業を始めている。中国南部の深セン市に18年3月にオープンした「MUJI HOTEL SHENZHEN」だ。世界第1号店となるこのホテルを、一足先に見てきた。

 MUJI HOTELがオープンしたのは、深センの中心部・福田区。「深業上城(Upper Hill)」という複合商業施設の中にある。これは日立製作所の工場跡地の再開発プロジェクトで、東京でいえば六本木ヒルズのようなもの(名称もよく似ている)。高層のオフィス棟やタワーマンション、ショッピングセンター、深センに多いIT・デジタル産業の展示施設などからなる。

MUJI HOTEL(左の建物)は無印良品の旗艦店と同居。周囲には高層ビルやタワーマンションが立ち並ぶ
MUJI HOTEL(左の建物)は無印良品の旗艦店と同居。周囲には高層ビルやタワーマンションが立ち並ぶ

 現在は最寄りの地下鉄の駅(蓮花村駅)から徒歩15分程度と遠いが、新路線の建設が進められており、数年後には地下鉄の駅と直結する予定。また、幹線道路を挟んで向かい側には、深セン市内を見下ろすことのできる蓮花山公園があり、道路を横断する橋の建設が進んでいた。蓮花山の頂上は深センの中心部を見下ろすことができ、深セン発展の立役者である鄧小平の銅像もある、深センでは数少ない観光スポットの一つだ。発展途上ではあるが、観光客の利用が期待されるエリアに立地している。深センは香港と隣接しており、中国本土だけでなく、消費生活では先を走る香港の消費者も気軽に泊まりやすい立地。記者が訪れた当日も、香港のナンバーを付けたクルマが止まっていた。

隣接する蓮花山からは深セン市中心部が一望できる
隣接する蓮花山からは深セン市中心部が一望できる

 MUJI HOTELは無印良品の旗艦店と同じ建物に入っている。入口は別々だが、内部でつながっており、1階のレストランの「MUJI Diner」は、宿泊客・外来客どちらも使える構造となっている。

レストランのMUJI Dinerは、無印良品の旗艦店からも出入りでき、宿泊客以外も利用が可能
レストランのMUJI Dinerは、無印良品の旗艦店からも出入りでき、宿泊客以外も利用が可能

 MUJI Dinerは日本にはない業態。17年6月に上海でオープンし、深センが2店舗目になる。6時30分~10時までは、主に宿泊客向けに78元(約1300円)の朝食が提供される。種類は和食・洋食・中華の3種類。ブッフェスペースには無印の名物ともいえるバターチキンカレーが用意されていた。11~16時がランチ、17時以降がディナータイム。さらに21時以降はバーカウンターもオープンし、カクテルなどが提供される。メニューにはリブアイステーキやラムチョップなどもあり、日本の「Cafe&Meal MUJI」とは異なり、本格的なレストランとして機能している。

朝食は和洋中の3種類を提供
朝食は和洋中の3種類を提供
ランチはガラスケースの中から好みの総菜を選ぶ形式。オープンキッチンも備える
ランチはガラスケースの中から好みの総菜を選ぶ形式。オープンキッチンも備える
夜に営業するバーカウンター
夜に営業するバーカウンター

 客室は2~6階で79部屋ある。部屋タイプはTYPE AからTYPE Eまでの5種類。いずれも定員2人のダブルかツインで、料金は1室950~2500元(約1万6000~4万2500円)だ。現地の相場からすると若干高めの印象だが、「稼働率は80%といい滑り出し」(プロジェクトを担当する良品計画ソーシャルグッド事業部スペースクリエーション担当の鍋田貴久氏)という。しかも、予約は公式サイトからのみで、中国では著名な「Ctrip」といったOTA(オンライン旅行サイト)には一切出していないというから驚きだ。一体どのような部屋なのだろうか。

宿泊予約は公式サイトからのみ。中国語・英語・日本語に対応している
宿泊予約は公式サイトからのみ。中国語・英語・日本語に対応している

インテリアの多くは無印の商品

 まず見たのは、最も部屋数の多いTYPE B(1泊1085元)。客室の広さは32~35m2で、標準的な広さといえる。

 部屋に入ると、無印のカタログで見たような“MUJIが提唱するライフスタイルの手本”のような空間が広がっている。聞くと、ベッドや椅子など多くのインテリアが、無印で販売されている家具と同じデザインとのこと。ただし、業務用として使うにはより高い強度が求められるケースがあり、完全に同一というわけではないようだ。

TYPE Bの全景。無印のある生活の手本のような空間
TYPE Bの全景。無印のある生活の手本のような空間
調度品ももちろん無印デザイン
調度品ももちろん無印デザイン

 無印らしさが如実に表れているのが、部屋の隅の壁に取り付けられている「壁掛けCDプレーヤー」。セットされているのは、無印の店舗で流れているBGM集。中国の店舗では販売されていないが、日本から持ち込んだとのこと。

 アメニティー類ももちろん無印の商品だ。実はホテルの運営では、これは非常識なことという。というのもホテルで使われている業務用の備品は、一般消費者向けのものよりも極めて安価だからだ。例えばMUJI HOTELのスリッパは、日本の店舗で税込み499円で販売されているもの。これが2足あるから、これだけで1000円だ。毎晩新しいものが用意され、持ち帰りも自由という。見た目はゴージャスではないが、チープではない。まさに「アンチゴージャス・アンチチープ」な世界だ。

無印良品を代表する商品・壁掛けCDプレーヤーを設置
無印良品を代表する商品・壁掛けCDプレーヤーを設置
持ち帰り自由のスリッパ。日本の店舗では500円近い値段で売られているもの
持ち帰り自由のスリッパ。日本の店舗では500円近い値段で売られているもの

 客室面積が38~39m2とやや広いTYPE C(1泊1300元)も見たが、デザインテイストは全く変わらない。料金が高いからといって豪華になるわけではなく、無印の思想が貫かれていることがハッキリと見て取れる。

TYPE Cの部屋はゆったりとした空間だが、シンプルなデザインは変わらない
TYPE Cの部屋はゆったりとした空間だが、シンプルなデザインは変わらない

落ち着いたデザインを好む消費者が増える

 正直な感想を言えば、日本人からすると見慣れた無印の世界観で、驚きはない。それが「インスタ映えスポットとして、中国や香港の人々から注目を集めている」(鍋田氏)ことのほうに驚きを感じた。中国というと、派手好きというイメージが強いからだ。

 鍋田氏によると、まだまだ派手好きのトレンドは残っているものの、上海や深センなど中国の大都市では落ち着いたデザインやライフスタイルを格好いいと感じる消費者が増えているという。MUJI HOTELの利用者が20~40代ということからも、若い世代から受け入れられていることが分かる。

 MUJI HOTELは世界初となった深センに続き、18年夏には北京でもオープン予定。日本を差し置いて中国で開業が相次ぐ理由について、鍋田氏は「現地のパートナーから熱心な要請があり、コンセプトも理解してもらえた」ことを理由に挙げる。

 良品計画の中国法人が手掛ける店舗部分とは異なり、ホテルの運営は現地のパートナーが行う。深センであれば、デベロッパーの深業集団が運営主体だ。良品計画が関わるのはコンセプトづくりとデザインの監修、そして備品類の納入のみ。ホテルを世界観の訴求の場として利用できる一方、ホテル事業への参入に関してのリスクはなく、備品類の売り上げとロイヤリティー収入まで得られる仕組みだ。

 中国が先行したのは、無印が日本以上に「憧れのライフスタイル」であることと無縁ではなかろう。先ほど触れたように、日本人からすると、心地よさは感じても、ワクワク感があるかというとやや疑問。それなりの金額を出してまで泊まりたいと思うかは未知数だ。

ルームキーや便箋なども無印仕様。無印ファン垂涎のグッズだ
ルームキーや便箋なども無印仕様。無印ファン垂涎のグッズだ

 深センでは国内外の商業施設やホテルを手掛けるSUPER POTATO(東京・世田谷)がインテリアデザインを手掛けたが、銀座のホテルは、個性的なホテル造りに実績があるUDS(東京・渋谷)が設計から運営までを担う。「デザインのベースは同じだが、深センとは異なってくる」(鍋田氏)という。訪日外国人がこぞって訪れるのは間違いないが、日本人にも驚きを与え、泊まりたいと感じさせ、商品の購買につなげられる施設に仕上がるかどうか。来春のオープンが待ち遠しい。

その土地ごとの風土を施設に反映させるのもコンセプトの一つ。深センでは、廃船になったボロボロの木造の漁船をオブジェとして展示している。改革開放前は寂れた漁村にすぎなかった深センの歴史を想起させる
その土地ごとの風土を施設に反映させるのもコンセプトの一つ。深センでは、廃船になったボロボロの木造の漁船をオブジェとして展示している。改革開放前は寂れた漁村にすぎなかった深センの歴史を想起させる