EC事業者にとって、新たな販路が広がりつつある。SNSの投稿やネット動画から直接物が売れる。そんなマーケティング支援サービスの提供が相次いでいる。新たにECの支援サービスに名乗りを上げたのが写真・動画に特化したSNS「Instagram」を運営する米インスタグラムだ。

インスタグラムは2018年6月5日、Instagramに投稿した写真から直接、商品詳細ページに誘導してそのまま購入できるようにする「ショッピング機能」の提供を日本でも始めた。米国で先行して提供していた。
Instagramといえば17年にフォロワーからの反応を得るために、より見栄えのいい写真を投稿する行動を指す「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれたことが記憶に新しい。なるべく美しい写真を撮って投稿することで、利用者が自分を表現するプラットフォームという印象が強いだろう。そのため「Instagramでショッピング」と聞くとやや違和感を覚える人も少なくなさそうだ。だが、それはInstagramを一面でしか捉えていないことになる。
Instagramは発見のプラットフォーム

インスタグラムのプロダクトマーケティングディレクターのスーザン・ローズ氏は「Instagramはハッシュタグなどで検索して写真を見ながら、商品や店舗を発見する。そんなウインドーショッピングとしての利用が広がっている」と説明する。日本はその傾向が顕著だ。他国に比べて、ハッシュタグでの検索数が3倍高い。暇な時間にInstagramで検索して、目に留まった写真の中から欲しい商品や行きたい店を見つける。そんな消費行動が広がっている。
ところが以前のInstagramはEC事業者にとってマーケティングには少々使いづらいプラットフォームだった。なぜなら商品写真を投稿する際、商品詳細ページのURLをコメント欄に記載しても、リンクとしては機能しなかったからだ。ECサイトへの直接の誘導導線はプロフィールページに記載しているリンクのみ。消費者は写真を見て商品を欲しいと思っても、自ら検索サイトやECサイトで探す必要があった。この課題を解消するのがショッピング機能だ。ローズ氏は、「ショッピング機能の提供により、情報の発見から購入までシームレスな体験の提供が可能になった」と説明する。
ショッピング機能に対応している場合、投稿された写真の左下に買い物かごのアイコンが表示される。そのアイコンをタップすると、写真に写っている商品の商品名と価格が写真上に表示される。気になる商品をタップすると、より詳細な情報が表示される。その画面で「購入する」ボタンを押すと、誘導先の商品ページが表示されてそのまま購入できる。ただし、誘導先は活用企業のECサイト上の商品ページなどになるため、会員登録が必要になる場合もある。

また、ショッピング機能を導入する企業のプロフィールページには新たに「ショップ」というページが加わる。このページは投稿された写真のうち、ショッピング機能に対応して購入可能な写真だけを一覧できる一種のカタログページだ。利用者はECサイトの商品一覧ページを閲覧するような感覚で、Instagramで好きなブランドの商品を探せるようになる。
ショッピング機能はInstagramの「ビジネスプロフィール」利用者のみ利用可能。ビジネスプロフィールとは店舗の電話番号や店舗までの道順など、ビジネス用途に特化したアカウントだ。Instagramのアカウント管理画面から設定することで、ビジネスプロフィールに移行できる。ビジネスプロフィールに移行後に商品情報、在庫、価格などのデータをFacebook上の「カタログ」機能に登録する。これによりInstagramへの写真の投稿時に、カタログの登録商品から該当商品をひも付けて投稿できるようになる。ビジネスプロフィールおよびショップ機能は無料で利用可能だ。
ショップ機能の本格展開に先駆けて、テスト導入したアパレル事業者のベイクルーズ(東京・渋谷)EC統括の馬來真知子氏は「これまでは『いいね!』やコメントだけしか得られなかったが、購入意欲が高まっているときに購入までの導線を作れるようになる。テスト導入時には他の集客策よりも新規の顧客獲得率が高かった。今後、これまでリーチできていなかった顧客を獲得できる可能性が高い」と期待を口にする。
メルカリも法人利用が可能に
株式公開を控えるメルカリ(東京・港)の基幹事業であるフリーマーケットアプリ「メルカリ」も、EC事業者の新しい販路としての門戸が開かれている。メルカリは17年12月からライブコマースサービス「メルカリチャンネル」の法人利用を可能にした。
ライブコマースはリアルタイムの動画とコメント機能、そしてEC機能を包括する動画コマースサービスだ。店舗における実演販売を、ネットを通じて実施できるサービスと言える。メルカリ事業開発部の石川佑氏は「メルカリの仕組みではこれまで『着用写真を見たい』といったニーズには応えづらかった。ライブコマースなら、視聴者の要望に応えながら商品を販売できる」と考えて開発をした。
このライブコマース機能を企業も活用できるようになった。企業はメルカリ上にアカウントを開設して、24時間いつでも動画を配信して、6000万人超のメルカリ利用者に対してアプローチできる。動画の配信中は視聴者からコメント機能で商品に関する質問や、ディテールを見たいといった要望が寄せられるので、それに応えることで購入意欲を高められる。さらに買いたいと思った消費者には、メルカリ上に在庫情報を登録できるため、その場ですぐさま購入できる。利用企業は販売額の10%を手数料として支払う。
Instagramやメルカリのように、新たな消費行動を促すサービス事業者が続々と、実購買につながる機能を提供している。現在のECの販路は検索流入や大手ECモールへの出店が主流だが、顧客獲得の新たな販路として新しいプラットフォームの利用が広がりそうだ。