国内IoTプラットフォームの代表的企業であるソラコム(東京・港)が、IoTデバイスから得られたデータの分析環境の充実に力を入れている。パートナー制度を用いて利用企業の分析を支援するが、2018年5月に新たにビッグデータ分析支援の日本テラデータ(東京・港)が加わった。ソラコムの玉川憲社長は日経クロストレンドのインタビューに応じ、同社のIoTデータ連係サービスに日本テラデータの分析ソリューションを早急に加えたい意向を表明した。
ソラコムの玉川憲社長
ソラコムの玉川憲社長

 ソラコムは2015年9月にサービスを開始し、17年8月にKDDIの子会社となった。当時約7000だった顧客数(法人・個人含む)は18年4月に1万を超えて急成長を続ける。IoTプラットフォームでは国内市場をけん引するソラコムであっても、ベンチャー企業であり受け入れてもらえない企業や部門もあった。それがKDDIの子会社になったことで、信頼性が高まり導入先の企業や部門の幅が広がる傾向にあるという。

IoTデータの高度な分析を実現へ

 ただ、収集したデータを分析するフェーズは、ソラコムの主戦場ではない。玉川憲社長は、「ソラコムのプラットフォームは、通信の部分を主として、どのクラウドにつなぐか、どのデータセンターにつなぐかというサービスにフォーカスしてきた。つなぐためのサービスがメインで、簡単なデータ蓄積・可視化には対応していたものの、高度な分析をするための本格的なツールは提供していない。その部分は、データ分析を主とするパートナー企業と手を組んで提供していくスタンス」だと説明する。

 そうした背景から、18年5月9日にソラコムのパートナープログラム「SORACOM パートナースペース」(SPS)に、日本テラデータがソリューションパートナーとして加わった。

 「テラデータは、金融系での利用に代表されるように高度な分析プラットフォームを持っている。ソラコムとテラデータが密に協業することで、ソラコムのIoTプラットフォームで収集したデータの高度な分析を実現しやすくなる」(玉川氏)。

 日本テラデータ シンクビッグ・アナリティクス本部 Architecture/BI Cognitive Design 部長の島田茂氏は、分析側の立場からこう語る。

 「テラデータでは、アナリティクスプラットフォームの提供を戦略として位置づけている。特に、エンタープライズレベルで、AI(人工知能)などの最先端技術を活用したアナリティクスを望む顧客に価値を提供している。そうした中で、IoTデータの分析も重要な位置を占めるようになってきている。製造業、自動車、医療、電力、小売りなどさまざまな業種でIoTデータが発生し、高度な分析を求めている。テラデータは分析の分野に集中するため、IoTデバイスからのデータを収集するレイヤーではグローバルでもパートナーと協業している。日本では誰と手を組んだらいいのかと考えたところ、ソラコムが最適だった」

 現在、日本テラデータはパートナーの1社だが、今後、特定の顧客向けに新たな取り組みを進めて連携を強化することもありそうだ。日本テラデータの島田氏は、「ソラコムは日本発でグローバル展開するサービスであり、国内企業に手厚いサポートを提供できるだけでなく、日本がIoTデータ分析の分野で世界をリードしていくためにソラコムとのエコシステムは価値がある」と評価する。

 ソラコムの玉川氏は、「クラウドサービスへの簡単な接続機能と安全な認証情報管理などの機能を提供する(データ連係サービス)『SORACOM Funnel』が連携できるサービスとして、テラデータの分析ソリューションをできるだけ早く追加したい」と、具体的な方策を示す。

動態管理、インフラ監視、決済が3大用途

 ソラコムは、屋外にある大量のデバイスから少量のデータを集めることが多いIoT活用のニーズに沿ったサービスを提供することで成長している。

 新しい活用事例も続々と生まれている。IoTプラットフォームがうまく業務にフィットし、成功につながっているケースではいくつかのパターンがあると玉川氏は指摘する。

 「1つは動態管理で、車やバス、電車など動くモノでIoTをやりたい場合。営業車両の位置を管理するオープンハウス、バスの位置を管理する十勝バス、日の丸自動車興業などがそれに当たる。もう1つはインフラ監視で、大量のセンサーのデータを収集して蓄積するにはコストがかかった。京成電鉄の踏切監視、大阪ガスのガス・電気使用量の見える化などのソリューションを、低コストで実現するために役立っている。決済分野でも有効に使われている。富士急行は訪日外国人向けにQRコードで決済する『WeChatPay』の専用端末の通信をソラコムで実現した。リクルートライフスタイルのPOSレジアプリ『Airレジ』にもソラコムが使われている」

 動態管理、インフラ監視、決済の3大用途のほかにも、セキュリティーを確保した遠隔機器制御や、家電連携や高齢者見守りなどのスマートホーム関連、コンビニエンスストアで利用されてきた有線のISDN回線の置き換えなど、用途は幅広い。IoTプラットフォームとして、モバイル回線を低料金で提供し、クラウドサービスの利便性や柔軟性を併せて提供する同社のサービスは、データを収集するインフラとして高く評価されてきた。

 玉川氏は、「当初は実証実験としての利用が多かったが、最近は本番運用での利用が増えている。それも第1弾が終わり、第2弾の運用を始める顧客が出てきた」と現状を分析する。企業の課題を解決する手段として、IoTが有効に活用できる企業が出てきていることを示している。

 IoTを実現するためのセンサーなどのデバイスは安価に手に入れることができるようになってきた。ソラコム自身も、センサーなど7種類のモジュールと通信モジュール、SIMをセットにしたスターターキットとして「Grove IoT スターターキット for SORACOM 」を1万5980円(税別)という低価格で提供している。

 「テクノロジーの進化は激しい。クラウドですら10年前にはほとんどなかったが、今では多くの銀行で採用される共通プラットフォームになった。IoTプラットフォームも同様で、ソラコムのサービスやクラウドなどを共通プラットフォームとして上手に活用できる時代になった。テラデータとも共同で、IoTデータ分析のスターターパックも提供していきたいと考えている。こうした共通プラットフォームをうまく取り込めば、素早くイノベーションを進められる」(玉川氏)。

事業の成長にはビジョンを大切に

 玉川氏へのインダビューは、日本テラデータのプライベートイベント「Teradata Universe Tokyo 2018」(18年5月23日に都内で開催)の会場内で実施した。インタビューの終盤には、玉川氏が新規事業の創造、成長を成功させるうえで大切に考えていることを尋ねた。

 玉川氏は、ビジネスを推進する上でいちばん大切なものはビジョンだと言う。何を顧客に提供したいのか、どのような顧客にフォーカスするのか。そのビジョンを実現するためには、ツールを自ら再開発するのではなく、上手にツールを使うことで「楽になる」ことも成功の1つの要素になる。

 その上で玉川氏は、新規ビジネスを立ち上げ、拡大を目指す人たちにこうエールを送る。「机上でいくら考えてもだめ。IoTのようなソリューションは、実際に手を動かしていち早く実行してみることが必要だ。スモールスタートでテラデータの分析ソリューションなどを活用してデータ分析をし、うまくいったら事業化を推進する。ダメなら諦めて次のアイデアを実行してみる。投資の仕方、行動の時間軸の考え方が変わってきていることを念頭に置いて、トレンドをうまくつかんでいってほしい」。

ソラコムの玉川憲社長(左)と日本テラデータの高橋倫二社長
ソラコムの玉川憲社長(左)と日本テラデータの高橋倫二社長

(写真/山田愼二)

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