(※NIKKEI DESIGN 2016年2月号の記事を再構成)

ヒットにつながるアイデアは、どのように生まれるのか。数々のヒットを生み出してきたクリエイターの思考法を、改めてお届けします。

熊本県のゆるキャラ「くまモン」のキャラクターデザインや生活雑貨を扱う中川政七商店、醸造メーカーの黒木本店など多くの製品やブランディングに関わり、数々のヒットを生み出している水野学氏。ヒットを生み出すアイデアを得るために水野氏が取る方法が、「~っぽい分類」と呼ぶものだ。

みずの・まなぶ●慶應義塾大学特別招聘准教授。1996年、多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業後、数社を経て、1998年11月にgood design companyを設立。「くまモン」のキャラクターデザインや、「中川政七商店」「黒木本店」などのブランディングに関わる。商品企画、パッケージ、インテリアデザイン、コンサルティングまで、幅広い分野をこなす(写真:丸毛 透)
みずの・まなぶ●慶應義塾大学特別招聘准教授。1996年、多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業後、数社を経て、1998年11月にgood design companyを設立。「くまモン」のキャラクターデザインや、「中川政七商店」「黒木本店」などのブランディングに関わる。商品企画、パッケージ、インテリアデザイン、コンサルティングまで、幅広い分野をこなす(写真:丸毛 透)
 水野学氏は6月20日(水曜)午後3時から「日経クロストレンド FORUM 2018」に登壇。「『売る』努力をする時代から、『売れる』を導くデザインの時代へ。」と題して講演します。詳細をお確かめの上、お早めにお申し込みください。

 熊本県のゆるキャラ「くまモン」のキャラクターデザインや生活雑貨を扱う中川政七商店、醸造メーカーの黒木本店など多くの製品やブランディングに関わり、数々のヒットを生み出している水野学氏。関わるプロジェクトの多くで、売り上げが数倍になることもあると言う。

 ヒットを生み出すアイデアはどこから来るのか、と聞くと「表現の源流をアイデアだと仮定すると、アイデアの源流はクライアントなり商品なりの中に、すでに存在している。その原石を見つけ出して、しっかりと磨いてやるのが重要だ」と水野氏。大切なのは、「らしさ」を損なわずにデザインすることだと言う。

 「たとえ格好良くても、似合わない服を着せるのが一番いけない」と言うのが、水野氏のポリシーだ。その商品に「似合う服」見つけるために水野氏が取る方法が、「~っぽい分類」と呼ぶもの。「~っぽい」は文字通り、そのものらしさを表す言葉。クライアントとの会話を通じ、対象となるものの感想や印象を「~っぽい」との言い方で表現する。

 「例えば、丸刈りの人を見ると『お坊さんっぽいな』という印象を抱くことがあるように、ある一定の要素に対して『~っぽい』という感想を抱くことは多い。もちろん国や文化によってある程度の違いはあるが、日本国内向けの商品を作る場合は、この『~っぽい』という視点がかなり有効になる」と水野氏は言う。

 「~っぽい分類」とする項目は、だいたい5つだ。まずは、企業や商品の良いところを探す「ポジティブ分類」。この分類では「かわいい」「格好いい」「美しい」「人気がある」「尖っている」などのワードから対象の企業や製品が、どれに当てはまるかを考察する。「それが何っぽいか」が分かれば、さらに「どんな雑誌っぽいか」「(場所は)どこっぽいか」「(時代は)いつっぽいか」「(それは)何色っぽいか」などと考えていく。「多方面から『~っぽさ』を抽出することで、その企業の持つ『らしさ』を見つけていくのが重要」(水野氏)。水野氏は、この「~っぽさ」を、クライアントとの会話を通して、10秒~30秒で見つけ出すという。

 これを本来ならクライアント側で抽出してからデザイナーに渡すことができれば、発想の方向性がより的確になるだろう。

水野学氏が考える発想のプロセス
水野学氏が考える発想のプロセス

横浜のイメージカラーで車両を統一

 「~っぽい分類」は、具体的にはどういったプロセスで行われるのか。水野氏がクリエイティブディレクターを務める神奈川県の相模鉄道(以下、相鉄)の「デザインブランドアッププロジェクト」が、その好例だ。

 プロジェクトの目的は、相鉄グループの100周年と都心への相互直通運転に向けて、ブランドイメージと認知度の向上を図ること。駅や車両、制服などのデザインコンセプトを統一し、多くの人に「選ばれる沿線」を目指している。

相模鉄道9000系電車の新デザインの考え方
相模鉄道9000系電車の新デザインの考え方

 最初に相鉄には、どんな「らしさ」があるのだろうかを考えた。「相鉄と言えば、神奈川県民にとっても、あまりイメージのない電車かもしれない。『ポジティブ分類』をした場合に出てくるのは『自然が豊か』『素朴』『未開発』などの一見地味なイメージだ。だが、これらは大きなアドバンテージにもなる。住民が少なく土地が安いイメージならば、『これから』便利になりそうだというポジティブな印象につながるだろう」(水野氏)。

 「どんな雑誌っぽいか」では、リクルートホールディングスの住宅情報誌「都心に住む by suumo」や幻冬舎の「ゲーテ」、光文社の「VERY」、ネコ・パブリッシングの「HUNT」などをイメージした。これらは、都心で生活を始める人やお洒落な暮らしをしたい人、自然の多い場所で生活したい人などを対象とした雑誌。いわば、生活にこだわりのある人向けだ。

 「相鉄らしい」場所はどこかと考えた場合、候補に挙がるのは神奈川県全体だった。相鉄は、昔は神奈川の中心を走っていて「神中線」とも呼ばれていた。

 「神奈川県の中で一番イメージの良い場所はどこかと考えると、やはり『横浜』だろう。そこで今回は横浜からイメージを借りた。横浜には豊かで上質、文化レベルも高く、さらに適度にお洒落で洗練されているなど、ポジティブな面が強い」(水野氏)。

“横浜”が持つポジティブな印象を打ち出す
“横浜”が持つポジティブな印象を打ち出す
プロジェクトに従い、駅舎のデザインも一新。モデル駅としてリニューアルした平沼橋駅では、外装のカラーを統一することで、落ち着いた雰囲気を演出した(写真左:新デザイン、写真右:旧デザイン)

 横浜の「いつっぽい」のか。横浜と言えば、江戸時代の開国後に港がにぎわった時期のイメージが強いと水野氏は判断。最近に例えるなら「最先端で格好いい」というよりも「ニュー歌謡が似合いそうな、一昔前のイメージ」だと言う。

 そうした「~っぽい分類」の結果を色で表現し、相鉄に提案したのが、情緒ある横浜をイメージした独自の「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマ ネイビーブルー)」だった。提案を受けて相鉄は2016年春から車両カラーを同色に変更した。イメージを一新し、ブランドイメージと認知度の向上を図る。

 「『YOKOHAMA NAVYBLUE』の響きはあまり格好良くないだろうが、あえてダサい感じが横浜らしさ、ひいては相鉄らしさにつながる」と言う。

“ニュー歌謡”っぽいイメージカラー
“ニュー歌謡”っぽいイメージカラー
リニューアル後の相模鉄道9000系電車では、横浜らしさをイメージした「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマ ネイビーブルー)」に車両カラーを統一。イメージを一新し、ブランドイメージと認知度の向上を図った(写真上:新デザイン、写真下:旧デザイン)
リニューアル後の相模鉄道9000系電車では、横浜らしさをイメージした「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマ ネイビーブルー)」に車両カラーを統一。イメージを一新し、ブランドイメージと認知度の向上を図った(写真上:新デザイン、写真下:旧デザイン)

中立的な立ち位置から物事を見る

 「~っぽい分類」を成功させる秘訣は、極めてニュートラルな立ち位置から物事を分析すること。自らの思想に偏りがあると、人々の共通認識をつかむのが困難になる。そのために水野氏は、とにかく「情報」を集める。「例えば、テレビ番組にしても、バラエティーから子供向けの番組まで見る。時には園芸の番組も、真剣に視聴する。一見無駄かもしれない雑学を集積することで、生まれてくるものもある」(水野氏)。

 大切なのは、そこに行き着くまでの知識の集積だ。「知識がなくても格好いいデザインはできるけど、長く愛されるものにはならない。普通の考え方を持って、普通の生活をして、人とはちょっと違ったデザインを作る方が格好いい」と、水野氏は話す。

焼酎にも“~らしさ”を重視したデザイン
焼酎にも“~らしさ”を重視したデザイン
デザイナーらしいミニマルなデザインよりも、商品「らしさ」を大切にしたというプレミアム焼酎(写真左:新デザイン、写真右:旧デザイン)。水野氏のデザインはどれも同様の考え方に基づいている
 水野学氏は6月20日(水曜)午後3時から「日経クロストレンド FORUM 2018」に登壇。「『売る』努力をする時代から、『売れる』を導くデザインの時代へ。」と題して講演します。詳細をお確かめの上、お早めにお申し込みください。