
12年度に事業を始めた頃、CROOZ SHOPLISTの親会社であるクルーズの主力事業はモバイルゲームだった。16年にはゲーム事業の大半を売却し、主力事業をSHOPLISTと切り替えた。ファッションとは縁遠かった同社が、なぜ急成長を実現できたのだろうか。
CROOZ SHOPLISTの張本貴雄社長は「ECの売り上げの最大化は『横と縦』といわれる。横は商品の型数、品ぞろえ、縦が在庫の量。両方の最大化でECの売り上げは最大化される」と説明する。
「すべて無料」で楽天上位を切り崩し
まず横の展開を見てみよう。SHOPLISTは、店舗を持たないWeb独自のブランドを中心に現在約750ブランドの約30万商品を扱う。FOREVER 21、西松屋、earth music&ecologyなど著名ブランドも出店し、17年は3人の営業スタッフで約200ものブランドを開拓した。
SHOPLISTの前に総合ECモール事業を担当した張本社長が痛切に感じたのは、企業が出店を拒む理由は、売れるか分からないのに固定費用や人手を投じる必要があることだという。それであればと、SHOPLISTでは初期費用、物流費用、月額費用などを一切無料にした。売れなければコストはかからない。商品が売れたときに一定の手数料をSHOPLISTに払う。
そして、楽天市場に登録する商品データをそのままSHOPLISTにアップロードすれば、SHOPLISTにも情報を掲載できる仕組みを作った。「楽天などを運用しているアルバイトの0.5人月だけください。リスクがなくモノが売れます」(張本社長)と果敢に売り込んだ。
営業リソースが少ないため、優先する開拓先は戦略的に決めた。まずは楽天の「ショップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した上位店舗などに出店してもらってEC業界の注目を集め、口コミでブランドを獲得していった。
縦の在庫に関しては、すべての商品で在庫数を増やしても意味は無い。いわゆる「2:8の法則(パレートの法則)」といわれるように、多くの店舗では2割の人気商品が売り上げの8割を作る。
そこで、複数ECサイトへの出品を管理できるシステムを提供して、人気商品でも柔軟にSHOPLISTへ在庫を回してもらえる仕組みを用意した。
ユーザー評価が高い商品、クリック率、購入のコンバージョン率が高い商品は、検索ロジックで上位表示するようにして、人気商品の売り上げを伸ばしている。「基本的には売れるモノはユーザーが決めると思う。ユーザーが支持するモノを上げていく」と張本社長は説明する。ユーザー主導にすることで、出店者が広告を出して人気商品を生み出すECモールと比べて、人気商品の売れ行きが加速する。

ロングテール掘り起こしへ画像AI
今春は、販売数は少ないものの大量のアイテムを合計すれば大きな売り上げを期待できる、いわゆるロングテール商品の売り上げを伸ばすため、商品レコメンドの仕組みを変更した。
サイジニアが提供する「デクワス.VISION」を3月に約10日間ほど試験導入した。従来の仕組みとABテストしたところ、デクワス.VISIONはレコメンド商品のクリック率が10倍にも達した。「我々が求めているサイトの回遊性向上に関しても、直帰率が5%低下する成果が出た」(取締役プロダクト開発本部プロダクト管理本部管掌の稲垣剛之氏)。
一般的なレコメンドはユーザーの行動履歴、クリック数から商品同士の関連性が高いと判断して商品を推薦する。一方、デクワス.VISIONはAI(人工知能)で画像解析をして、似たデザインの商品を表示するロジックになる。
デクワス.VISIONを開発したサイジニアの吉井伸一郎CEO(最高経営責任者)は、「クリックベースは人気投票である。一気に何千点の商品が入荷してもユーザーはたまたま最初に見たものをクリックして、それがレコメンドされて人気の商品になってしまう」と問題を指摘する。
残りの8割の“不人気商品”ではあるが、必ずしも商品の品質が悪くて売れないわけではないのだ。
「在庫がなかった商品では似た商品を購入してもらえるようになった。販売機会の損失も削減できている」と、SHOPLISTの稲垣氏は画像AIによるレコメンドの利点を説明する。
ABテストの結果、コンバージョン数も従来のレコメンドの1.5倍と大きく伸びたという。
ちなみに、表示する商品は、SHOPLIST向けに調整したデクワス.VISIONに加えて、商品カテゴリー、価格、ブランドでSHOPLIST独自のフィルタリングをして精度を高めている。成果の高さから実験後もデクワス.VISIONによるレコメンドは継続しており、徐々に適用するページを広げている段階だ。

「利益が9億円弱出てしまった」反省
SHOPLISTの17年度の取扱高は従来の30%超の増加ペースから一段落して12%増となった。張本社長は「昨年1年間つらかったのはユーザーギャップ」と明かす。
購入した商品の素材、縫製、サイズが購入時の期待と異なると、ユーザーの期待と現実にギャップが生まれて、不満につながる。17年度はその不満を抑える環境整備に注力して、プロモーションを控えた結果、「利益が9億円弱出てしまった」(張本社長)と利益の確保を反省する。
対策として、商品の検索結果を決めるロジックを改善し、商品レビューや配送スピードといった要素を加えた。また、出店者へは生地感やサイズ情報、着用イメージが分かりやすい商品画像などを商品情報に追加してもらった。新規出店者には一定の基準を満たしてからオープンしてもらうようにした。満足度を高め、リピート率を上げることで売り上げ拡大を目指した。
20年に向けた取り組みについて張本社長は、ユーザーギャップを0にすること、ユーザーとの交流を深めるコミュニケーションメディアの構築を掲げる。
売り上げ規模は「中長期で1000億円を目指す」(張本社長)。ターゲット層とする消費者の数、顧客単価、市場規模から見て十分現実的だと考えている。「すべてのファストファッションが買える」をコンセプトに、さらに著名ブランドを開拓していく。
SHOPLISTの当初売り込み先に記載した「楽天」の出店店舗は一例であったため、表現を修正しました。[2018/06/06 16:30]