2018年4月2日、パナソニック アプライアンス社は京都四条通沿いのビルに「Panasonic Design Kyoto」を開設。大阪や滋賀に分散していたデザイン拠点を一つにまとめた。今年創業100周年を迎えたパナソニックには3つの社内カンパニーがあり、それぞれにデザインセンターがある。アプライアンス社は、家電や空調関連製品などを事業領域とする。
Panasonic Design Kyotoは、ミーティングスペース「HUB」や工房スペース「WORK SHOP」など、さまざまな機能を有する6フロアからなる。最上階の9階には、オープンスペースと位置づけた「GARDEN」を設けている。
「ここは社外とのワークショップやセミナーを行うオープンな空間」と語るのは、アプライアンス社の臼井重雄デザインセンター所長だ。新たなデザイン拠点は、外部の知見を積極的に取り入れることで革新的な商品を生み出すオープンスタイルの開発を推し進める拠点でもある。
製品化と新組織発足も発表
外部との共創活動は、既に実を結びつつある。2015年に京都の伝統工芸の後継者集団「GO ON(ゴーオン)」との共創プロジェクト「Kyoto KADEN Lab.」をスタートさせたが、手作り茶筒の老舗、開化堂と開発したコンパクトスピーカーのプロトタイプ「響筒(きょうづつ)」は、2019年春に発売する予定だ。Kyoto KADEN Lab.の第2弾として、竹工芸を取り入れた送風扇「Soyo gu」や照明器具「To gaku」など5商品も既に発表。臼井所長は「和風の家電を作るのが目的ではないが、作り込みの精度などを勉強しながら活動を続けたい」と語る。
新拠点開設に合わせて新設したのが、デザイン統括部「FLUX(フラックス)」だ。FLUXは、社内外にデザインの価値を伝えるストーリーテリングや、国内外のインサイトの収集を行う。FLUXの立ち上げにあたって、英国のデザインコンサル会社、シーモアパウエルにいた池田武央氏を招いた。
次の100年も暮らしを提案し続けるため、アプライアンス社のデザインセンターは、家電単体ではなく体験価値を提供するデザイン集団への変革を急ぐ。
日経デザイン(以下ND) パナソニック アプライアンス社に参画した理由は?
池田武央氏(以下池田) 海外でデザインコンサルティングを11年間やってきましたが、企業の社内を巻き込まないと新しい製品やサービスは生み出せないと感じたことが大きいです。デザインコンサルタントがアプローチできるのはデザイン部門だけの場合が多く、本当に商品開発をするには事業部と一緒に仕事をすることが不可欠。外部という立場に、もどかしさや限界を感じていました。
ND きっかけは?
池田 臼井さんに声をかけられ、2017年4月からアプライアンス社のデザインセンターの変革に、外部コンサルタントとして取り組んできました。インハウスデザイナー30〜40人にインタビューをするなどして課題を抽出。事業部など社内と情報共有することの必要性を感じたことが、今回のデザイン統括部FLUXの立ち上げにつながっています。
ND FLUXはどんな組織でしょうか?
池田 あらゆるデザインのプロセスには「気づく」「考える」「作る」「伝える」の4つのフェーズがあります。しかし、日本のインハウスデザイナーには「作る」専門家が多い。気づきを得る「インサイト」や考える「デザインストラテジー」、伝える「ストーリーテラー」の専門家が不足しており、そうした機能を担うのがFLUX。CMFによる価値向上やデザイン戦略立案も担います。デザイン提案ではなく、事業提案がこれからのデザイナーがやるべきこと。多様性をもたらすFLUXと流動性をもたらす「Panasonic Design Kyoto」を両輪に、生活を総合的に語れる数少ないメーカーとして、これからの100年に向けて新たな生活文化を提案していきます。