カタログ通販事業のディノス・セシールは2017年9月に自社ECサイト「ディノスオンラインショップ」のデータを活用。顧客がカートに入れたが実際には購入しなかった商品を、紙のDMに印刷・掲載して送付するユニークな施策を実施したところ、購入率が2割も高まる成果を上げた。

ディノス・セシールは「ディノスオンラインショップ」でECと連動して紙のDMのリアルタイム化を始めた
ディノス・セシールは「ディノスオンラインショップ」でECと連動して紙のDMのリアルタイム化を始めた

 このプロジェクトをけん引するEC本部EC企画1部の石川森生ゼネラルマネージャーは、ファッションECのマガシークを担当したり、EC会社社長などを務めたりするなどEC畑が長い。その実績を見込まれて、デジタル対応が喫緊の課題となっていたディノス・セシールから熱烈なラブコールを受けて入社。「紙のカタログにかかっているコストを削って、デジタルマーケティングに投資をすればすぐにデジタル化が推進できると考えていた」(石川氏)と振り返る。

 ところが現実は甘くはなかった。「いざ蓋を開けてみたら、(カタログ通販事業には)ほとんど無駄がないことが分かった」(石川氏)。どういうことか。「カタログは(印刷数や郵送費から)どこにどれだけコストがかかるか、あらかじめ分かる。そして、購入率が2%以上と予測できる顧客にしか(カタログを)送らないなど、45年の知見の蓄積から(コストなどを効率化する)ロジックが確立していた。しかも事前に予測した(コストや購入率などの)数字と、送付後の数字との誤差も非常に少ない。ビジネスモデルとして完成されていることを、入社して初めて知った」(石川氏)。

 石川氏が歩んできたEC業界でよく使われる電子メール1通の配信コストは1円以下。それに対して、紙のDMはその100倍以上はかかる。そのため「(紙のDMのほうが、会社から)求められる(購入率などの予測)精度がまったく違う」(石川氏)。ディノス・セシールが持つ顧客セグメンテーションの分析技術なども、(石川氏が想像していたレベルよりも)高かった。であればディノス・セシールが事業の比重を(カタログから)「ECにシフトするのはナンセンスだと気付いた」と石川氏は言う。

 「現状で1000億円ほどある売り上げをECにシフトして維持しようとすると、競合相手はECモール系の会社になる」(石川氏)。大手ECモールのうち楽天は金融事業など、広く収益を得るための事業ポートフォリオがしっかりとある。Amazon.co.jpもグローバル展開している事業のスケールメリットを持っており、「(ディノス・セシールが)ECに特化したところで、EC業界の巨人に勝てるとは思えない」(石川氏)。

デジタルで紙を復活させる

 そこで、既にノウハウがある紙DMは使い続けるが、ECサイトのデータを活用することで、より効果を高めることにした。

ディノス・セシールが開発した紙のDMをリアルタイム化させる仕組み
ディノス・セシールが開発した紙のDMをリアルタイム化させる仕組み

 具体的には、カート放棄した商品に注目した。カート放棄とは、一旦商品をカートに入れたが、結局、買わずにサイトから離脱することを指す。こうしたカート放棄があった場合、その商品の情報を掲載した紙のDMを素早く印刷して対象の顧客に送付する。しかもカート放棄の翌日には、DMを印刷して配送できる仕組みを整えた。

 24時間ごとに顧客情報と、カート放棄された商品の情報を抽出して、はがきに最大で2商品を印刷して郵送している。印刷所から近い場所なら、カート放棄の翌日に届くという。17年9月に、顧客1万人のうち7000人に紙のDMとメールを送り、3000人にはメールだけを送って購入率を比較したところ、紙のDMとメールの両方を送ったグループの購入率が20%高かった。

カート放棄した商品とお薦め商品の「アラジン グリルアンドトースター」を印刷して翌日に郵送した
カート放棄した商品とお薦め商品の「アラジン グリルアンドトースター」を印刷して翌日に郵送した

 もう1つ興味深いデータも取れた。送ったハガキには自社で選んだお薦め(アラジン グリルアンドトースターという商品)の情報を載せてみたが、これはあまり売れなかった。つまり、単にお薦め商品を載せただけではダメだということも分かった。

紙のDMで2回目の購入を促進

ECサイトの閲覧履歴から割り出したレコメンド商品を印刷して郵送。初回購入クーポンの利用による2回目の購入を促した
ECサイトの閲覧履歴から割り出したレコメンド商品を印刷して郵送。初回購入クーポンの利用による2回目の購入を促した

 18年1月には、ディノス・セシールのECサイトで初めて商品を購入した人に「WEB初回購入クーポン」を配布するという新しい施策も実施している。初回購入から14日後にデータを抽出して、閲覧履歴に基づいたお薦め商品を載せたDMを郵送。クーポン利用と合わせて訴求することで、2回目の購入を促した。

 さらに、その次の施策として、いわゆるMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用したシステムの準備を進めている。データに基づいて、リアルタイムにレコメンドするなどの施策が実施しやすくなるだろう。そして、「将来的にはECで消費者の反応率が高い商品を調べて、それをカタログに載せるなど、カタログの作り方も変えていきたい」(石川氏)という。ディノス・セシールの17年度業績はディノス事業は増収増益、セシール事業もカタログ発行の効率化などで増益となった。しかし、カタログ通販市場はここ数年横ばいが続く。ECの申し子は、カタログ通販を生まれ変わらせることができるのか。その手腕に注目が集まっている。

(写真/ディノス・セシール提供)

■修正履歴
当初、見出しを「購入率2倍」と記載していましたが正しくは「購入率2割増」の誤りでした。[2018/06/13 11:30]