「FUJIYAMA」などの絶叫アトラクションで知られる遊園地「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)が2018年5月9日、18年7月14日から入園料を無料にすると発表した。現在は中学生以上税込み1500円(以下、価格は全て税込み)、3歳から小学生以下は900円の入園料が必要だ。なぜこのタイミングで入園無料化に踏み切ったのだろうか。

少子高齢化で予想される入園者減少が課題だった
富士急行宣伝部の金子泰樹課長は、きっかけとして少子高齢化を挙げる。富士急ハイランドを訪れる人は絶叫アトラクション目当ての若い世代や、園内にある人気アニメ「きかんしゃトーマス」のテーマパークが目的の家族連れが中心。「少子高齢化が進むことで入園者数が尻すぼみになることはかなり前から課題となっていた」(金子課長)。
そのため、富士急行は温泉施設や美術館など周辺エリアを充実させて幅広い世代を呼び込もうと画策してきた。その甲斐もあって周辺エリアを訪れる観光客は徐々に増え、現在は隣接するホテルの利用者などを含めると年間230万人ほどに上る。しかし、高齢者はすぐ近くのホテルや温泉を利用しても富士急ハイランドには行かない人がほとんどだという。

金額の大小ではなく「有料であること」がネック
入園無料化の理由は、富士急ハイランドのアトラクションの特色にもある。同施設はおよそ5年に1度のペースで新しい絶叫アトラクションを導入しており、熱狂的なファンも多い。その一方で「『怖いから乗りたくない』というイメージを持つ“乗らず嫌い”も少なくない」(金子課長)。また、修学旅行のトレンドが学習目的にシフトしてきたことや、社員旅行を廃止する会社が増えたことで、団体利用が減少。新規客が取りづらい状況もある。
遊園地としては、リピーター向けのアトラクションを充実させることも重要だ。しかし、「遊園地=1日遊ぶ場所」というイメージを変えなければ、新規利用客は増えない。そこで入園料を撤廃し、短時間利用なども呼び込む方針を決めた。
だが、完全無料化ではなく入場料を引き下げるなどの選択肢はなかったのだろうか。それについて、金子課長は「1500円を1000円にしても来る人が増えるわけではない」と説明する。つまり、金額の大小ではなく「有料」であることがネックの一つと考えたのだ。

入園無料化で狙う「2000万人の観光客」 飲食と物販がカギ
入園無料化した富士急ハイランドが狙うのは、富士山観光に訪れる2000万人の獲得だ。
河口湖などの富士五湖周辺には年間1500万人、静岡県まで範囲を広げると年間2000万人以上が富士山周辺を訪れている。「その中には、3世代で富士山周辺を訪れても祖父母がアトラクションに乗らないので富士急ハイランドへは立ち寄らないという家族もいるだろう。そうした家族も入園無料化でハードルが下がって来園するようになるかもしれない。また、2時間だけ立ち寄る時間があるので、アトラクションに1回だけ乗って食事をして帰るという人も出てくるだろう」(金子課長)。
7月には富士登山のシーズンがスタートし、富士山周辺への観光客が増える。「富士急行の関連施設や同社バスの車内広告、エリア向けフリーペーパーなどで入園無料化を告知し、集客につなげていきたい」と金子課長は話す。
無料化に先がけ、富士急ハイランドがまず着手したのはレストランの大幅な見直しだった。これまでは若者向けにファストフード店をそろえていたが、「どこでも食べられるメニューではなく、山梨ならではのものを」と考え、山梨の郷土料理であるほうとうを専門にしたレストランを15年7月にオープンした。武田信玄をコンセプトにした店内にはのぼりや鎧飾りなどを展示し、外国人観光客にも好評だ。2017年春にはフードコートのメニューもリニューアルし、アトラクションにちなんだ料理の提供を開始。また、17年夏にはスキレットを使ったカレーや肉料理をそろえたレストランを開業した。



富士急ハイランドは入園後に自由に出入りができるシステムなので、これまではランチタイムは園外に出て食事を取り、また戻ってくるという来園者も多かった。だが、レストランの見直しによって園内の喫食率が上がったという。今後はオリジナルグッズや人気商品とのコラボグッズなどの物販に力を入れる。山梨県の銘菓「桔梗信玄餅」の園内限定パッケージなど、「入園しないと買えない」グッズを充実させる予定だ。
富士急行によると、17年度の入園料収入は約2億8000万円。入園無料化でこの収入がなくなるわけだが、減収分はレストランや物販の売り上げでカバーするという。

入園客の8割が利用するフリーパスの料金は据え置き
さらに気になるのは、入園無料化と同時にアトラクションの料金が1.5倍(8月11~19日の繁忙期は2倍)になること。例えば、人気アトラクションの「FUJIYAMA」「ド・ドドンパ」などは1回1000円だったのが1500円(繁忙期は2000円)になる。これについて、金子課長は「アトラクション1回あたりの料金を上げるのは、フリーパス利用者との差を小さくするための措置」と説明する。
実は、富士急ハイランドの入園客の約8割がアトラクション乗り放題のフリーパスを購入している。価格は入園料込みで5700円(18歳以上)だが、これらの料金は入園無料化後も据え置き。「フリーパス利用者に損をしたという思いをさせたくない。アトラクションに乗るならフリーパスのほうが得だということを周知していく」(金子課長)。
