日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)は、プライベートブランド(PB)「CO・OP商品」の開発と売り場への提案を目的に、ID-POSデータ分析基盤を構築した。商品開発部や営業部など、データ分析に不慣れな部門でも日常的に利用できるデータ分析環境を整備することで、組織的なデータ活用の定着を目指す。

日本生活協同組合連合会 ブランド戦略本部マーケティング部ブランドコミュニケーショングループ グループマネージャー 鈴木章吾氏
日本生活協同組合連合会 ブランド戦略本部マーケティング部ブランドコミュニケーショングループ グループマネージャー 鈴木章吾氏

 日本生協連の取り組みは2018年5月18日、都内で開催されたイベント「SAS FORUM JAPAN 2018」で紹介された。日本生協連は全国322の生協が加入する組織で、組合員数は2872万人。開発を手掛けるCO・OP商品のラインアップは5542商品で、16年の供給高(売り上げ)3717億円のうち、約75%はCO・OP商品が占める。

 ID-POSデータ分析基盤の構築に着手したのは16年末である。その背景には、POS・ID-POSデータや顧客データ、決済データ、キャンペーンで取得した情報など、データの種類と量はあるものの、フォーマットや項目が統一されておらず、収集したデータを活用できていない課題を抱えていたからだ。

 その結果、顧客ニーズが可視化されておらず、同じ商品カテゴリーに複数のCO・OP商品が存在するなど、単品効率が悪化していた。また、商品開発は担当者の経験とセンスで行い、「店舗で特設コーナーを設けたり共同購入で特典をつけたりして『売り込む』感覚」(ブランド戦略本部 マーケティング部 ブランドコミュニケーショングループ グループマネージャーの鈴木章吾氏)で認知度向上に努めていた。さらに、組織的なデータ活用の壁があり、データ活用に関する意識とリテラシーも低かったという。

「共通カテゴリーマスター」に日経POSデータを活用

 こうした課題を解決すべく、日本生協連では「データの精緻化と共通化」「大容量データの処理と高速化」「ラストワンマイルの整備」の3点に留意して基盤を構築した。まずは4生協の過去3年間分/200億行のデータを利用する。その後順次拡大し、最終的には全国の主要生協を網羅する計画だ。

 なお、日本生協連では予測モデリング自動化ソリューションの「SAS Enterprise Miner」やビジネスインテリジェンスの「SAS Visual Analytics」、データ分析基盤の「SAS Enterprise Guide」をはじめ、マイクロソフトの「Office」製品群に、SASの機能を追加するアドイン製品である「SAS Add-in for Microsoft Office」を導入している。

 データの精緻化と共通化では、「分析の切り口視点」を主軸に部分的なデータの共通化を図った。具体的には日経POSデータを「共通カテゴリーマスター」とし、生協の商品マスターと合わせてデータを整備した。日本生協連では約2カ月かけて数十万件の商品に日経POSデータのフラグを付けた。新商品も、数千件単位/月次で整備しているという。

共通カテゴリーマスターのイメージ。JANコードをベースに各生協の実績データを横串しで参照できるようにすることで、各エリアの商品展開などを可視化した。月次メンテナンスで新発売商品や改廃に対応している
共通カテゴリーマスターのイメージ。JANコードをベースに各生協の実績データを横串しで参照できるようにすることで、各エリアの商品展開などを可視化した。月次メンテナンスで新発売商品や改廃に対応している

 大容量データの処理と高速化では、用途別データマートの「作り置き」で、データ容量を圧縮した。単品別のリピート率をあらかじめバッチ処理で集計することで、数億~数十億行あったID-POSのローデータを、数万~数十万行に圧縮した。

 さらにラストワンマイルの整備では、「Excel」を介して分析ツールを利用できる環境を整え、すべての担当者が「これまでの業務の延長として」データ活用をできるようにしたという。

「頻繁に来店してもらう」ための商品を拡充

 データ活用に当たり、商品の評価指標としたのが「利用頻度」と「リピート率」だ。ID-POSデータで売り上げを分解し、利用頻度(来店頻度)に着目した。人口減少・少子高齢化が進行する状況では「顧客数を増やす」「顧客単価を上げる」よりも「頻繁に来店してもらう」ことが有効だと仮説を立てた。現在はリピート率の高いCO・OP商品の開発を模索している段階で、リピート率の高い商品の規格(容量)違いや異なるフレーバーの充実などで、商品ラインアップの拡充を検討しているという。

 顧客ニーズを可視化する手法では「コンシューマー・ディシジョンツリー」を採用した。顧客視点で同一カテゴリー内の商品を区分けし、ニーズの種類と売り上げボリューム、各商品のポジショニングを明確化。新規格の展開や、商品の統廃合整理などの課題発見に役立てた。

例えば嗜好飲料力テゴリーを区分けしたところ、カフェインレスカテゴリー(ニーズ(4))ではティーバッグタイプの展開(ニーズ(4)-2)がないことが判明。新たに「オーガニックハーブティー(ティーバッグタイプ)を展開した
例えば嗜好飲料力テゴリーを区分けしたところ、カフェインレスカテゴリー(ニーズ(4))ではティーバッグタイプの展開(ニーズ(4)-2)がないことが判明。新たに「オーガニックハーブティー(ティーバッグタイプ)を展開した

 「例えば、1つのニーズの中に複数のCO・OP商品が展開されていれば、商品整理を検討する。逆にボリュームは小さいが成長が見込めるニーズであれば、新規格・タイプの商品導入を計画する。カテゴリー内でのポジショニングが曖昧だとカニバリゼーションが発生し、顧客ニーズのカバー範囲が狭くなる。各商品のポジショニングを明確化することで、効率を最大化できる状態を目指す」(鈴木氏)

 実は、同分析基盤が稼働したのは18年5月で、まだ効果測定には至っていない。今後の展開について鈴木氏は、「当面の目標は組織の中で『日常的に分析をする環境』を定着させること。そのうえで、アンケートなどの定性データや一般市場データと組み合わせ、新製品戦略を検討/立案できる体制を築く」と展望を語る。