※日経トレンディ2018年6月号の記事を再構成

熱狂からの“どん底”を経て、第二創業へ――。クリスピー・クリーム・ドーナツが4期ぶりに出店攻勢をかける。2019年3月期だけで首都圏を中心に10店以上を出す。店舗数の純増は実に4期ぶりとなる。

定番を日本流で「新定番」に クリスピー・クリーム・ドーナツ

一過性ブーム後の大量閉店を経て“第二創業”へ
一過性ブーム後の大量閉店を経て“第二創業”へ

 日本上陸直後のブームは強烈だった。06年に1号店となる新宿サザンテラス店を構えると、人々が長蛇の列を成し、瞬く間に「行列のできるドーナツ店」として名を馳せた。以後、一気呵成に9年間で64店舗を出店する。

 だが、熱狂は長くは続かなかった。14年にコンビニがドーナツ事業に参入し、異業種間でのドーナツ戦争が勃発。16年3月期には赤字に転落し、既存店を次々に閉鎖していく。「クリスピーは日本市場から撤退するのでは」。そんな話がささやかれるなか、社内では静かに、だが着実に次なる一手に向けた準備が進められていた。

 「やるべきことは何か」。答えはシンプルだった。創業時から変わらぬ味を守る「オリジナル・グレーズド」を生かしつつ、第2の核となるドーナツを作る。「一過性のトレンドでは終わらない、“第二創業”を支える商品が必要だった」(クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの若月貴子社長)。

 反攻ののろしを上げ、16年11月に発売したのが「ブリュレ グレーズド」だ。グレーズドの表面をバーナーであぶることで、ドーナツに苦みとカリッと感を加える。中にはカスタードクリームを詰め、とろりとした食感も重ねた。発売直後からSNSを中心にオンライン上で動画広告を展開したところ、通常の商品に比べて飛躍的に認知度が高まり、同商品の売上数は伸長。リピート買いする人も現れた。

Point 1 「カリッ」「フワッ」「トロ~」
 16年11月に発売し、クリスピー・クリームの業績回復の立役者となったブリュレ グレーズド カスタード。ドーナツの軟らかさとカリッとした食感、クリームのとろみを同時に味わえる。
世界共通の定番品で、日本のクリスピー・クリームで売上数ナンバーワンのオリジナル・グレーズド
世界共通の定番品で、日本のクリスピー・クリームで売上数ナンバーワンのオリジナル・グレーズド

 さらに追い風となったのは、17年8月に発売した、浮輪を模したミニサイズのドーナツだ。折しもちまたでは、飲み物のストロー部分にドーナツを差した画像が「インスタ映えする」と話題になっていた。そこで小ぶりなドーナツをドリンクと共に提供すると、狙いは的中。SNSでアップする人が続出し、17年8月の既存店売上高は前年比プラスに転じる。以後、既存店売上高は7カ月連続でプラスを維持。18年3月期の営業利益は増益の見通しだ。

Point 2 小型化×SNS映え
 17年8月には期間限定で、浮輪を模したミニドーナツ入りの「サマーミニ ボックス」を発売。SNS映えを意識した商品で、インスタグラム上ではドーナツをストローに差した画像が数多く紹介された。
ドリンクの蓋に載せやすい小型のグレーズドをホワイトチョコレートでコーティングし、浮輪の模様を描いた
ドリンクの蓋に載せやすい小型のグレーズドをホワイトチョコレートでコーティングし、浮輪の模様を描いた
Point 3 おかず化ドーナツ
 新たな旗艦店に位置づける有楽町イトシア店と渋谷シネタワー店では、18年3月から店舗限定メニューとして、ドーナツにベーコンを合わせたモーニングセットなどを発売。新規顧客の開拓を狙う。
(左)ドーナツの甘さにベーコンの塩気を合わせたメープルベーコン。米国では定番の朝食メニューだ。(中)ドーナツに野菜やベーコンを載せ、店内で焼き上げるキッシュ。(右)ドーナツプディング
(左)ドーナツの甘さにベーコンの塩気を合わせたメープルベーコン。米国では定番の朝食メニューだ。(中)ドーナツに野菜やベーコンを載せ、店内で焼き上げるキッシュ。(右)ドーナツプディング
「12個で2000円」を目立たせ割安感を訴求
 16年以降は販促物を見直し、好きなドーナツを12個買えば割安になるダズンボックスの“お得感”を前面に打ち出したポスターなどを活用。ダズンの売り上げは前年比で20%伸びた。

データを分析し、ターゲット別にメニュー刷新したガスト

 年間4億件以上の来店客のビッグデータを駆使してV字回復を遂げたのがガスト(すかいらーく)。POSデータとTカードの属性データを掛け合わせ、客の需要や利用シーンを徹底的に分析。メニュー開発にフル活用している。

メニュー改定で過去最高益。売上高も右肩上がりに
メニュー改定で過去最高益。売上高も右肩上がりに
注)すかいらーくの17年度通期決算説明資料を基に作成

 16年2月に行ったランチの刷新では、多様化する客の嗜好に合わせた10種類以上を投入。同年6月には、新たに約50のグランドメニューを導入した。結果、16年度は過去最高益をたたき出す。17年は一部店舗で24時間営業をやめるも、ピーク時間帯の売り上げなどが伸長し、売上高の現状維持に成功した。

 今年度はデータを販促にフル活用する。3月には会員数約1200万人を抱える「ガストアプリ」を刷新し、グループ各店の情報を網羅できる「すかいらーくアプリ」をローンチ。顧客別プロモーションを強化し増収増益を狙う。

Point 1【夜】 安うまボリュームグリル
 16年夏のメニュー改定のキーワードの一つが「驚き」。180gのハンバーグ2枚にオニオンリングを載せたオニオンリングハンバーグ(税別849円)など、インパクトのあるボリューム系メニューで子供を連れた若いファミリー層を呼び寄せた。
Point 2【昼】 女子受け日替わりメニュー
 ハンバーグや揚げ物中心のランチを見直し、税別499円で食べられる日替わりメニューの種類を増やした。野菜はキャベツの千切りから彩り豊かなミックス野菜に変更し、女性受けを狙った。
ライスは大盛り無料、スープは飲み放題にすることで、ランチの値ごろ感と満足感を高めた
ライスは大盛り無料、スープは飲み放題にすることで、ランチの値ごろ感と満足感を高めた
Point 3【昼】 肉肉ランチ&バリエ
 がっつり食べたい男性客向けにはハンバーグ&チキン南蛮ランチ(税別799円)、女性やシニア客向けには明太温玉うどんランチ(税別599円)など、ターゲット別にバリエーションを増やした。
(左)男性向けにはボリュームメニューを提案 。(右)揚げ物や肉系のランチより軽めのメニューを導入することで、女性客の需要を開拓
(左)男性向けにはボリュームメニューを提案 。(右)揚げ物や肉系のランチより軽めのメニューを導入することで、女性客の需要を開拓
Point 4【夜】 ちょい食べ&ちょい飲み
 少量のメニューを組み合わせて食べる「ちょい食べ」客に対応できるよう、サイドメニューを拡充したことも、使い勝手の良さと来店客数を維持するうえで鍵となった戦略の一つだ。
ビッグデータで効果的なクーポン配布先を見極める
 会員向けアプリと、Tカードの顧客属性や利用履歴を組み合わせることで、客にとって最適な割引クーポンなどを提示。より一層、好みに合った1対1のマーケティングが可能になる。
注)ガストの1~3の料理は、メニューを改定した16年当時のもの
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