「ほぼ日刊イトイ新聞」の運営などを手掛けるほぼ日が販売する地球儀「ほぼ日のアースボール」(以下、アースボール)が順調に売り上げを伸ばしている。直径が約27cmの塩化ビニール製で、5940円(税込み)と他社の同様な地球儀よりもやや高めの設定だが、2017年12月に発売して以来、当初の販売計画を上回り、18年4月までに累計で数千のオーダーを超えた万のレベルの個数を出荷した。ほぼ日がネットで販売しているほか、東急ハンズなどの流通ルートでも販売中だ。

「ほぼ日のアースボール」は、AR(拡張現実)と連動することで地球儀の新しい市場を開拓(写真提供:ほぼ日)
「ほぼ日のアースボール」は、AR(拡張現実)と連動することで地球儀の新しい市場を開拓(写真提供:ほぼ日)

 最大の特徴は、専用アプリをインストールしたスマートフォンやタブレットをアースボールにかざすと、さまざまなコンテンツがスマホやタブレットの画面上でAR(拡張現実)としてアースボールに重ねて表示される点だ。専用アプリはほぼ日と凸版印刷、クウジット(東京・港)の3社で開発し、コンテンツはさまざまな会社と協力し、制作している。特に、そのうち3つのコンテンツは首都大学東京の渡邉英徳研究室(当時。渡邉氏は18年4月からは東京大学大学院・情報学環教授)と手を組んで制作した。同研究室が研究してきた地理空間分析の技術を盛り込んだコンテンツによって、今までにない表現に仕上がった。

地球のデコボコを実感

 例えば「でこぼこ地球」と呼ぶコンテンツでは、アースボール上に実際の100倍程度に強調した地形を立体的に表現している。標高8000mクラスのヒマラヤ山脈や厚さ3000mの氷に覆われた南極大陸の様子を立体的に理解できる。一般的な地球儀では、地球の表面が意外に「デコボコ」している様子を実感できないだろう。

 「昼夜の移り変わり」は、太陽光によって地球の昼と夜が移り変わる様子をアニメで表現してアースボールに投影するコンテンツ。春分、秋分、夏至、冬至と4つのモードを切り替えることで、なぜ「白夜」が生まれるのか、地軸の傾きで光が当たる場所がどう変わるのかが分かる。

 「手作り人工衛星」では、NPO法人の大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)に加盟する大学・高専学生による人工衛星のデータを活用し、実際に地球の軌道上を回る「人工衛星」をアースボール上に表示。どれほど多くの人工衛星が飛び交っているかが認識できる。

「でこぼこ地球」では地形が立体的に浮かび上がるほか、各地域の情報も見ることができる(写真提供:ほぼ日)
「でこぼこ地球」では地形が立体的に浮かび上がるほか、各地域の情報も見ることができる(写真提供:ほぼ日)

地球儀プラットフォームも検討中

 ほぼ日と同研究室が開発した3つのコンテンツのほか、NHKエンタープライズや小学館といったメディア企業などからもコンテンツ提供があり、18年4月現在で合計11個のコンテンツを備えた。「ほぼ日のアースボールをベ―スとした、プラットフォームビジネスも考えている」と開発を担当した、ほぼ日の古謝将史氏は話す。現在は親子で楽しみながら使う例が多いが、今後のコンテンツ次第では、さまざまな楽しみ方ができそうだ。コンテンツ提供企業とは現在、それぞれ個別の内容で契約を結んでいる。

「昼夜の移り変わり」では昼と夜の移り変わりをアニメで表現。地軸によって光が当たる場所がどう変わるのかが季節ごとに分かる(写真提供:ほぼ日)
「昼夜の移り変わり」では昼と夜の移り変わりをアニメで表現。地軸によって光が当たる場所がどう変わるのかが季節ごとに分かる(写真提供:ほぼ日)
「手作り人工衛星」では、地球の軌道上を回る「人工衛星」を200倍速で表現するほか、衛星のデータも表示(写真提供:ほぼ日)
「手作り人工衛星」では、地球の軌道上を回る「人工衛星」を200倍速で表現するほか、衛星のデータも表示(写真提供:ほぼ日)

ARマーカーをどう表現するか

 ほぼ日のアースボールのアイデアが生まれたのは11年ごろで、糸井重里社長の発案によるもの。基本的なコンセプトから具体的な形を探る中で、自由に遊べる地球儀にするためにはARを活用すれば面白くなるのでは、といった意見があった。15年から本格的に商品化を進めていき、アプリやコンテンツの開発を行った。

 開発でのポイントの1つは、ARに使うマーカーをどのようにアースボールの表面に埋め込むかだったという。通常のARでは、例えば四角いマーカーなどを認識対象のどこかに印刷しておき、それをアプリ側が読み取ることで、スマホやタブレットの画面上でコンテンツの画像と認識対象が正確に重なるようにしている。位置がずれると、コンテンツが見にくくなるからだ。

 しかしアースボールの表面には、四角いマーカーやQRコードといったものがない。そういったマーカーを表面に印刷し、国名や国境線といった部分に重なれば、地球儀としての使い勝手が悪くなる。

 そこでアースボールでは、表面にそれぞれの国や地域をイメージさせる動物のイラストなどを小さく表示して配置することでマーカー代わりにしている。さらに陸地や海の色などもマーカーとして活用できるように色合いを考えたという。マーカーにするなら濃い目の色合いがいいが、それでは地形のイメージと異なる場合もある。地形の正確性とマーカーとしての実用性のバランスが求められた。このほか国境線もマーカーにするなど、表示位置がずれないように工夫している。

表面上にさまざまなイラストや情報を表示しているが、これらもマーカー代わりになる(写真提供:ほぼ日)
表面上にさまざまなイラストや情報を表示しているが、これらもマーカー代わりになる(写真提供:ほぼ日)

 このARをどのように生かしてのいくか、さまざまなコンテンツを検討する中で、渡邉氏に打診したのが17年4月。ほぼ日のサイエンスフェローに早野龍五・東京大学名誉教授が就任してプロジェクトに参加し、渡邉氏をほぼ日に紹介したのがきっかけだった。渡邉氏は主に戦災や災害などをテーマとしたデジタルアーカイブを研究しており、「ナガサキ・アーカイブ」「ヒロシマ・アーカイブ」「東日本大震災アーカイブ」などを開発してきた経験がある。地図上に関連するデータを投影することで、テーマが際立つような新しい見せ方を提案してきた。この制作ノウハウをアースボールのコンテンツ開発にも生かせないか、とほぼ日は考えた。

 4月下旬には、ほぼ日と同研究室のメンバーがミーティングを実施。プロジェクト内容を説明し、今後の進め方などを検討したほか、同研究室のメンバーからはコンテンツのアイデアが出されたりした。その後は、ほぼ日と同研究室がネット上で頻繁に意見を交換。9月には、さまざまなアイデアをアプリに組み込んだ状態で、ほぼ日のオフィスでプレゼンテーション。その後、コンテンツを3つに絞り込み、それらを見た糸井社長からも、コンテンツ公開へ正式なゴーサインが出た。

 コンテンツ開発でのポイントは、コンテンツの画像の質と処理時間にあった。画像の質を上げるためにデータを増やせば、スマホやタブレットでの処理に時間がかかる。特に地球儀はクルクルと素早く回しながら使う場面があり、データが重くなればコンテンツとうまく重ならないケースも出てくる。「データの量を減らせばコンテンツの質も悪くなる。使い勝手との兼ね合いを探るため、何度も実験を繰り返した」と渡邉氏。同研究室のメンバーである現役の学生たちは、着地点を見つけるために奮闘したという。ほぼ日と同研究室の共同研究は18年3月末にいったん終了したが、今後はさらなる展開も期待できそうだ。

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開発に携わったメンバー。後列左から、ほぼ日のサイエンスフェロー早野龍五氏、東京大学大学院の渡邉英徳氏、ほぼ日の古謝将史氏と同・アプリ開発担当の井谷裕紀氏。前列左から首都大学東京大学院・システムデザイン研究科の渡邉康太氏、同・福井裕晋氏、同・山浦徹也氏と、元首都大学東京・特任助教の高田百合奈氏
開発に携わったメンバー。後列左から、ほぼ日のサイエンスフェロー早野龍五氏、東京大学大学院の渡邉英徳氏、ほぼ日の古謝将史氏と同・アプリ開発担当の井谷裕紀氏。前列左から首都大学東京大学院・システムデザイン研究科の渡邉康太氏、同・福井裕晋氏、同・山浦徹也氏と、元首都大学東京・特任助教の高田百合奈氏
■修正履歴
当初「渡邉英徳研究室」の名称が間違っていたのを正しく修正しました。[2018/04/27 10:00]