うがい薬で知られ、50年以上の歴史を持つ医薬品ブランド「イソジン」が、最先端のデジタルマーケティングで売り上げを伸ばした。イソジンを展開するムンディファーマ(東京・港)は昨年から、デジタルマーケティングを駆使した流通戦略に着手し始めたのだ。メーカーでありながらスマートフォン向けのネット広告から、イソジンを販売するドラッグストアに直接誘導する。集客を売りにドラッグストアの棚を取り、拡販につなげる。知られざる戦略をひも解いていこう。

医薬品ブランド「イソジン」が最先端のデジタルマーケティングで売り上げを大きく伸ばした
医薬品ブランド「イソジン」が最先端のデジタルマーケティングで売り上げを大きく伸ばした

 インフルエンザの流行時期に地方のドラッグストア1社と試験的に始めた取り組みだったが、その成果は想像以上だった。共同で取り組んだ大賀薬局(福岡・博多)の2017年12月の予防薬カテゴリーの商品の売り上げは前年同月比で33%増加。イソジンに至っては同5倍となる大きな成果を収めた。

 従来イソジンブランドは明治グループがオランダのムンディファーマからライセンスを受け、50年以上も国内で展開してきた。2016年にムンディファーマからの要請により提携を解消。日本国内でのイソジンブランドはムンディファーマに移管され、塩野義製薬が独占販売権を得た。明治はこれまで販売してきた商品を「明治うがい薬」に衣替えして販売を始めた。

 提携解消後は一転して、両社は競合相手となった。ムンディファーマはブランディングを含めて、国内で独自のマーケティング活動を始めた。しかし、国内市場では明治に一日の長がある。競合とは異なるマーケティング策を模索する中でデジタルマーケティングの強化に力を入れている。

GRP偏重からの脱却図る

 ムンディファーマが取り組む、デジタルマーケティングを駆使した流通戦略とは平たく言えば棚取りだ。販路を持たないメーカーは、商品を販売する小売り店舗でどれだけ棚に商品を並べてもらえるかが、売り上げを大きく左右する。その棚割を決めるうえで流通企業が参考指標としているのがGRP(延べ視聴率)だ。

 GRPは出稿量と視聴率を基に算出されるテレビCMの定量指標。世帯視聴率と平均視聴回数を掛け合わせて算出する。GRPが高いほど、より多くの消費者に商品やブランドの情報が伝わることが期待できるため、商品の売れ行きに影響を及ぼす可能性が高い。だから、流通企業のバイヤーはGRPを棚割を決めるうえで、商品やブランドを選定する重要な基準として捉えている。

 ムンディファーマもこうした伝統的な商慣習に則り、テレビCMの出稿を軸とした棚取りに取り組んできた。だが同時にそうしたマーケティング活動に課題も感じていた。「まとまったGRPを打たないと棚が取れないのは事実。だがいくら宣伝費を使ったら、どれぐらい売り上げ増への効果があるかは分からない。ブランドが市場に浸透するほど効果は薄れていく。テレビCMの出稿量を倍にしたら売り上げも倍になるわけではない。広告投資の最適化が悩みの種だった」と木村昭介社長は言う。

 また、営業担当者がGRPを基に流通企業と商談して棚を取れたとしても、「きちんとニーズを持つ人が最後に購入してもらえるかどうかは分からない」(木村氏)。とはいえ、営業担当者がその課題を解決できるわけではない。ターゲット層を棚の前に連れて行くことで、売り上げ増加につなげたいと考えていた。

 投資に対するリターンが明確な透明性の高い広告手法を模索する中で、木村氏が目をつけたのが、グーグルの広告効果の測定機能「来店コンバージョン」だ。位置情報の提供を許諾しているグーグルのサービス利用者のデータを集計し、匿名化したデータに基づき広告クリック後に来店した人数の推定値を算出する。この仕組みを使えば、少なくともかけた広告費に対して、どれぐらいの人を店頭に送り込めたかは分かる。さらに店舗の売り上げ情報と合わせて分析できれば、広告宣伝費のROI(投下資本利益率)はより明確になる。ただし活用するには流通企業の協力が欠かせない。そこで、こうした新たな取り組みに関心を持つドラッグストアに対して、共同で取り組むことを提案した。

福岡のドラッグストアと共同実施

 これに賛同したのが大賀薬局だった。ムンディファーマが大賀薬局を選んだ理由の1つが、特定の地域に一定数の店舗を持っていること。「広告で案内された店舗が消費者がいる場所から遠いと、来店というアクションにつながる可能性が下がる。検索したときに、近隣にきちんと店舗があることが重要」(木村氏)だからだ。大賀薬局は、福岡市内に多くの店舗を持つ。

 ムンディファーマから提案を受けた大賀薬局の大賀崇浩社長は賛同した理由をこう説明する。「チラシなどの紙の集客ツールの効果が薄くなっている。チラシは印刷や、郵送費などコストも高い。チラシに代わるものとして、当社としてもデジタルマーケティングに力を入れようとしていた。その中で提案いただいた、検索からの店舗集客に事例として取り組めば、どれぐらいの広告費をかければ、何人ぐらいの集客につながるかなど、当社としても有益な知見が得られるのではないかと考えた」。

 施策は2017年10〜12月にかけて実施した。インフルエンザの流行期に当たり、うがい薬の需要の拡大が見込めたからだ。スマホで「インフルエンザ」「風邪」などのキーワードで検索した消費者に対して、イソジンと共に近隣の大賀薬局の店舗を広告で案内した。

ムンディファーマは「イソジン」や「インフルエンザ」といったキーワードで検索した消費者に近隣の大賀薬局の店舗に誘導する広告で成果を上げた
ムンディファーマは「イソジン」や「インフルエンザ」といったキーワードで検索した消費者に近隣の大賀薬局の店舗に誘導する広告で成果を上げた

広告をクリックした人の9.5%が来店

 その効果は想定以上だった。広告をクリックした人のうち9.5%が実際の来店につながった。ムンディファーマと大賀薬局の両社にとって初の取り組みのため、指標となる目標値があったわけではない。それでも「その数値は非常に高い」と木村氏も実感する数値だという。実際、大賀薬局側でも「検索広告だけの効果ではないかもしれないが、客数は前年同月比で105%」(大賀氏)となった。

 本取り組みを実施するうえで、イソジンを中心にうがい薬を訴求する棚を大賀薬局に用意してもらった。これにより広告で来店を促した人の目にきちんと商品が入り、スムーズに購買行動につながったのだろう。その結果、大幅な売り上げ増という成果となった。

 「来店への数値が非常に低いようなことがあれば、継続は難しかったが想像以上の成果だった。だが、改善すべきポイントはある。まだ数値は上げられる」と木村氏は息巻く。今後、うがい薬の需要期を見ながら、他の地域にも同様の取り組みを広げていく考えだ。

 さらにデジタル投資も加速させる。ムンディファーマはEC戦略の強化に乗り出す。EC人材の確保も進めており、自社ECを活用した直販参入も視野に入れる。実店舗への集客と、ネットを活用した販売強化でさらなる成長を目指す。