三井化学の「そざいの魅力ラボ」メンバーが推進した展示会「MOLpCafe」。東京・青山にあるイベントスペース「ライトボックススタジオ青山」を活用して開催された
三井化学の「そざいの魅力ラボ」メンバーが推進した展示会「MOLpCafe」。東京・青山にあるイベントスペース「ライトボックススタジオ青山」を活用して開催された

 三井化学は2018年3月7日〜11日までの5日間、東京・青山にあるイベントスペース「ライトボックススタジオ青山」を活用した展示会「MOLpCafe(モルカフェ)」を開催した。イベントを仕掛けたのは三井化学の研究者たち。自社の素材の魅力を専門家以外にも広くアピールすることを狙った。社内横断的に取り組んでいる自主的な活動「そざいの魅力ラボ(Mitsui Chemicals Material Oriented Laboratory:MOLp)」のメンバーが推進した。

 会場には、海水から抽出したミネラル成分から生まれた同社のプラスチック素材「NAGORI」で作ったタンブラーや、紫外線を当てると鮮やかな蛍光色を出すプラスチックレンズ素材「MR」を使った装飾品などがあった。いずれも研究者自身が素材の特性を身近な製品に応用し、専門家以外にも分かるように仕立てたもの。技術者や取引先のほか、多くのデザイナーも来場し、素材が持つ意外な魅力に強い関心を示していた。素材メーカーの展示会は多いが、素材の見せ方に徹底的にこだわり、研究者たちが中心に推進している例は珍しいだろう。

新たなコミュニケーション手法へ

 MOLpの目的は、三井化学が持っている技術力を「機能的な価値」や「感性的な魅力」といった面で再発見し、新しいアイデアやヒントとして社会に打ち出していくことにあるという。通常は研究・開発などに従事している社内の研究者たちだが、エムテドの田子學氏からクリエイティブの面でアドバイスを受け、トレンド分析などの活動を定期的に実施。15年にスタートして以来、16年6月には東京ビッグサイトで開催された「インテリアライフスタイル展」にもブースを出して素材の魅力をアピール。おそろいの白衣を着た素材メーカーの研究者たちがデザイン関連のイベントに出展したことは当時、会場で注目を集めたという。

「CONCEPT of MIXOLOGY(ミクソロジー)」をテーマに素材の魅力を体感できるようにした。家一軒を丸ごと使ったスペースで、今回のために内部には「カフェ」も設けている。展示物の一部は実際に販売した
「CONCEPT of MIXOLOGY(ミクソロジー)」をテーマに素材の魅力を体感できるようにした。家一軒を丸ごと使ったスペースで、今回のために内部には「カフェ」も設けている。展示物の一部は実際に販売した

 MOLpの活動を推進してきたコーポレートコミュニケーション部の松永有理・広報グループ課長は、「素材の分野は、これまで外部とはあまりコミュニケーションしてこなかったが、コミュニケーションを高めることで新しいお客さまとつながることができるし、気づきを与えることもできる。そうしたシェアができれば我々にとってもプラスになるので今回、MOLpCafeのような“場”をつくることにした」と話す。

 同社が開発したさまざまな素材を、実際に見たり触ったりすることでそれぞれを比較できる素材キット「マテリウム」もあった。これまでは数値で材料を表現する手法がほとんどだが、「ツルツル」「カチカチ」「グニグニ」など五感に訴える表現方法を考案。素材の魅力を感性的な価値として見せた。三井化学が開発したウレタン素材「スタビオ」を使ったトーチもあった。素材の内部に回路基板を埋め込み、軽く握ることで内部の圧電センサーが反応し、トーチが光る仕組み。クリアな透明にしたり柔らかくしたりすることも可能で、熱に弱い回路基板を埋め込んでも動作するという特徴をアピールしていた。

左は、メガネのレンズなどに使われる素材を活用したもので、紫外線を当てると蛍光色に光るため、装飾品などに応用している。右は素材キット「マテリウム」で、理科の実験材料のイメージで開発した
左は、メガネのレンズなどに使われる素材を活用したもので、紫外線を当てると蛍光色に光るため、装飾品などに応用している。右は素材キット「マテリウム」で、理科の実験材料のイメージで開発した
左右の写真とも、同社が開発した素材をオノマトペで表現。「グニグニ」「ベタベタ」など素材ごとに専門家以外でも分かる特徴的な言葉を付けた。「ベタベタ」とある素材を触ると、実際にベタベタしている。数値だけではない、素材の表現方法を伝える新しい手法だ
左右の写真とも、同社が開発した素材をオノマトペで表現。「グニグニ」「ベタベタ」など素材ごとに専門家以外でも分かる特徴的な言葉を付けた。「ベタベタ」とある素材を触ると、実際にベタベタしている。数値だけではない、素材の表現方法を伝える新しい手法だ
海水から抽出したミネラル成分から生まれたプラスチック素材を利用して作ったタンブラー。樹脂でありながら陶器のような感触を持つ
海水から抽出したミネラル成分から生まれたプラスチック素材を利用して作ったタンブラー。樹脂でありながら陶器のような感触を持つ
トーチは何度も試作を繰り返し、静電気対策などを進めながら開発した。素材はクリアな透明にできるほか、硬さは自由に変えることができるという
トーチは何度も試作を繰り返し、静電気対策などを進めながら開発した。素材はクリアな透明にできるほか、硬さは自由に変えることができるという
コーポレートコミュニケーション部の松永有理・広報グループ課長。「これからはコミュニケーションの質を変えていくべきでは、といった危機感が活動推進の背景にあった。しかもコミュニケーションする相手も今までとは異なる可能性もある」と話す
コーポレートコミュニケーション部の松永有理・広報グループ課長。「これからはコミュニケーションの質を変えていくべきでは、といった危機感が活動推進の背景にあった。しかもコミュニケーションする相手も今までとは異なる可能性もある」と話す
エムテドの田子學氏。「B to B企業は一般のお客さまから遠くなりがちだが、今回は実際に製品を作って直接にコミュニケーションすることまでもデザインしたことで、お客さまを感動させることにつながった」と言う
エムテドの田子學氏。「B to B企業は一般のお客さまから遠くなりがちだが、今回は実際に製品を作って直接にコミュニケーションすることまでもデザインしたことで、お客さまを感動させることにつながった」と言う

(写真:丸毛 透)

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