デジタルマーケティング支援のプレイド(東京・品川)は2018年4月17日、Web接客ツール「KARTE(カルテ)」を大幅に機能拡張した。新たな機能の多くは顧客の理解に焦点を当てて開発した。KARTEはWebサイトの利用データや購買データなどが、Cookieや導入企業の会員IDなどにひも付いて、一人ひとり個別に管理できるのが特徴だ。これまでも、その特徴を生かして、チャットやポップアップによるクーポンを顧客ごとに出し分けるといった施策を可能にしてきた。資生堂やキリン、ミズノなどがECサイトやブランドサイトに導入している。刷新版のKARTEでは顧客の行動分析の機能を強化。従来より顧客の心理を細かく分析して、マーケティング施策に生かせるようにした。

「KARTE」の「ライブ」機能を使えば、リアルタイムに訪問者の利用画面を見ながらWebサイト上で接客が可能になる
「KARTE」の「ライブ」機能を使えば、リアルタイムに訪問者の利用画面を見ながらWebサイト上で接客が可能になる

 新機能のうち、特にユニークなのが「ライブ」だ。この機能は、サイトの訪問者が実際にサイトを利用している様子を動画を通じて分析できるもの。訪問者の閲覧画面や行動データをリアルタイムに解析して、実際に利用している画面とほぼ同じ形で再現した動画を管理画面で見られる。訪問者がサイトを利用しているその瞬間を、まるで後ろから眺めているかのように分かるのだ。

 もし訪問者がサイトの利用方法で迷っているようであれば、ポップアップでチャットによる問い合わせを促すこともできる。例えば、ログイン画面でパスワードの入力に失敗している訪問者がいれば、チャットでパスワードの再設定方法の問い合わせを促すといった具合だ。まさしく、リアルタイムにWebサイト上で"接客"を実現できる機能と言えよう。ただし、プライバシーに配慮して個人情報に抵触する情報はすべて閲覧できないように隠したうえで、まずはカスタマーサポートなどの限定した用途に絞って提供する。

 リアルタイムな分析だけではなく、「特定の商品を購入した層」といった形でセグメントを作り、そのセグメントに該当する訪問者のサイト利用画面を録画して、後から分析することもできる。プレイドの倉橋健太代表取締役はライブの開発背景をこう説明する。「ページから離脱したという要素1つとっても、なぜ離脱したのかという心理をデータだけで読み解くのは難しい」。そのため離脱につながった理由の仮説を立て、例えば、ボタンの場所を変えたデザインを用意して、当初のページと離脱率の変化を比較するABテストを繰り返す企業が多いだろう。

 その結果数字が上がれば、確かに一定の効果はあったと言える。だが、「それでは根本的な課題の解決にはつながっていない」と倉橋氏は指摘する。これを解決するためにライブを開発した。「実際に利用している様子を見れば、それだけで課題がクリアになるケースが多い。定量的なデータを解析するより、1人の利用者を見ることで得られる情報はずっと多い」と倉橋氏は言う。ライブはこうした具体的な1人の行動から、本質的な課題を発見できる可能性がある。ライブ機能はベータ版として一部の企業に提供して改善を施したうえで、今夏から正式に提供を開始する。

スコアを時系列で分析する機能

 新たなKARTEはこのような顧客の目線に立ち、その心理を分析できる機能が加えられている。「ストーリー」機能は、新たに加わる「スコアリング」の機能とサイトの利用履歴を組み合わせたもの。最新版のKARTEでは購入に結びつきやすい要素をデータから分析して、訪問者に自動的にスコアが付くようになる。スコアはKARTEに組み込まれた解析のアルゴリズムによる自動分析と、導入企業がカスタマイズした要素で算出される。スコアが高い訪問者はコンバージョンに結びつく可能性が高いことを示している。ストーリー機能を使うと、このスコアの変化を訪問者ごとに時系列に見られる。

「ストーリー」機能では訪問者のスコアの変化とその要因を分析できる
「ストーリー」機能では訪問者のスコアの変化とその要因を分析できる

 加えてスコアの上昇や下落が顕著に見られる場合には、該当時期にどんな行動をサイト上で取っていたかもサイトの行動ログから分析できる。過去の特定のページを見たことがスコアの上昇に寄与したのか、あるいは複数の商品を比較したことが上昇につながったのか。それを実際の行動ログから分析することで、似ている訪問者にどうアプローチすればスコアを高められるかといった、施策の立案に役立つ。

 より直接的なマーケティング施策に使える機能が「ボード」だ。この機能は訪問者のデータをグラフで一覧できるダッシュボード機能だが、それぞれのグラフから対象者を選択していくだけで、直接アクションをするためのセグメントを作れる。

 例えば、訪問者のうち新規と顧客の割合を示すグラフから、自社のサービスを既に利用している層を選ぶ。次に月間訪問回数のグラフから2~3回の層を選ぶ。こうして、マーケティング施策を実施した層を選んで絞っていく。後はアプリへのプッシュ通知やポップアップといった具体的なマーケティング施策を設定するだけで実行できる。

 このように最新版のKARTEは訪問者の行動を起点として、分析やマーケティング施策を実行できるように設計した。その理由について倉橋氏はこう語る。「本来マーケターは、顧客にブランドを好きになってもらいたいと考えているはずなのに、マーケティング施策を考える段階になるとつい効率を追い求めてしまう。どの媒体に広告を出せば効率的にサイト訪問を促せるか、メールを開封しなかった人に広告を当てると何%がクリックするかといった効率の最大化に躍起になってしまっている。好かれたいはずなのに、顧客の目線が欠落してしまっていることが最大の課題だ」。

 デジタルマーケティングはデータが豊富にとれるがゆえに、サイトの訪問者もデジタルデータの1つと捉えていかに効率よく購入に結びつけるかにとらわれがちだ。しかし、本来なら実店舗の来店者と同等の存在のはず。実店舗であれば、効率性を追い求めるような接客はしないだろう。顧客目線に立脚することが、デジタルマーケティングでも求められている。

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