「主力商品の(SNSと連動したプリント機器)『SnSnap』は大打撃を受けている。既に設置している顧客企業には大きな迷惑がかかっている」。SnSnap(東京・渋谷)の西垣雄太代表取締役はこう嘆く。個人情報流出に揺れる米フェイスブックは予告なく写真・動画SNS「Instagram」の多くのAPI提供を停止。業界に混乱を巻き起こしている。

「Instagramショック」とも言える事態に、ソーシャルメディアマーケティング業界に混乱の渦が巻き起こっている。
Instagramを活用した写真投稿キャンペーンなどを実施できる、ソーシャルメディアマーケティング支援サービス「OWNLY(オウンリー)」を提供するスマートシェア(東京・港)も多大な影響を受けている。同社の塩田弘代表取締役は「米国のフェイスブックから一方的に、(APIの停止で)影響はあると思いますが、という説明のメールが届いた」と明かす。これにより、OWNLYのInstagramとの連携機能は停止。やはり改修作業の真っ只中だ。
事の発端となったのは、日本時間の4月5日に米フェイスブックが予告もなくInstagramの多くのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の提供を停止したことだ。InstagramのAPIとは、第三者の事業者がInstagramのデータを使ったサービスを開発できるようにするもの。例えば、消費者がInstagram上に投稿した写真を企業の自社サイトに転載したり、利用者のデータを解析したりできるツールがそれに当たる。現行APIの停止によって、そうしたツールは軒並み、Instagramとの連携機能を利用できなくなった。
12月までに順次変更する予定だった
スマートシェアの塩田氏は「2018年の初頭に7月と12月に分けて、段階的にAPIを変更する方針が発表されていた。当社もそのスケジュールに合わせて改修を進めていたのに一方的に前倒しにされた」とこぼす。
フェイスブックに買収された後も、InstagramのAPIは仕様を大きく変更することなく提供されていた。これを見直し、取得できるデータを絞った新しいAPIを提供して、12月からフェイスブックの審査を通過したパートナー企業に限定して提供する予定だった。「例えば、投稿されている写真をハッシュタグで(絞り込んで)第三者のサイトには掲載(することは)できなくなることが分かっていた。ただし、企業は自社のブランドのハッシュタグが付与された写真については、引き続き利用することができる予定だった。そうした仕様変更に合わせた改修を進めていた」(塩田氏)。SnSnapの西垣氏も「5月にフェイスブックが開催予定の開発者向けイベント『F8』には間に合わせるように改修を進めていた」が、やはりAPI提供停止の前倒しの影響が直撃した。
フェイスブックがInstagramのAPIの提供停止を前倒ししたのは、Facebookを舞台に起こった大量の個人情報流出が要因のようだ。英ケンブリッジ大研究者がアプリを通じてFacebook利用者から取得した最大8700万人の個人情報を、英データ分析会社ケンブリッジ・アナリティカに不正提供していたことが発覚。マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は4月10日に米上院の公聴会に出席し、対応不十分であったことを認めて陳謝した。この不正提供されたデータは、第三者がAPIを活用して開発したアプリを通じて取得していた。そのため、フェイスブックはAPIの提供を見直している。傘下であるInstagramもその対象となったようだ。
SnSnapはこの事態を見越して、特別な動画が撮影できるカメラサービス「#MirrorSnap」を開発するなど、Instagramに依存しない事業を複数開発してきた。「会社の屋台骨が揺らぐような事態は避けられた」と西垣氏は安堵する。しかし、「Instagramで影響力を持つ利用者を束ねて、インフルエンサーマーケティングなどを手がける会社は軒並みサービスを停止せざるを得ない状況だ」(西垣氏)と説明する。
プラットフォーマーに依存した事業は、仕様変更などプラットフォーム事業者の意向次第で突如として、稼ぎ口を失う恐れがある。今回のInstagramショックはそれを象徴している。