購買ビッグデータを扱うTrue Data(東京・港)と、マーケティング調査やクリエイティブデザインを手掛けるCREMU DESIGN(クリミューデザイン、同)は2018年3月20日、データ分析に基づいて「売れる商品パッケージ」を提案するサービス「Designers Eye」の提供を開始した。消費財のデータ分析やリニューアルは自社で行うか外注して手掛ける場合が多いが、データ会社とデザイン会社が共同で一連のサービスを提供することはめずらしい。
「『デザイン思考を実施しよう』と、ビジネスモデルを構築する際にはよく言われるが、実際にはどうしたらよいか分かりづらい。このサービスで実例として示したい」
こう意気込むのは、購買データやその分析サービスを提供するTrue Dataの米倉裕之社長だ。

データ分析に基づいて「売れる商品パッケージ」を提案するサービス「Designers Eye」の想定顧客は食品や日用品、OTC(店頭)医薬品などのメーカー。両社は初年度で50件の受注を目指す。
True Dataの持つID-POS(顧客属性付き販売時点情報管理)データを両社が分析する。SNSについてはTwitterとInstagramへの関連投稿をCREMU DESIGNが分析。同社がレポートを作成する。CREMU DESIGNが抱えるデザイナーが分析結果を基に、商品のパッケージデザインや関連するプロモーションデザイン(ウェブや店頭POPなど)を提案する。既に日用品メーカー1社と契約した。
価格は顧客の要望にもよるが100万円前後から。オプションで、消費者のSNS投稿から対象商品のポジネガ評価を分析したり、パッケージデザインについて消費者が抱いている色相をAI(人工知能)によるディープラーニングで分析したりするサービスもある。AI分析は外部企業に委託する。
第三者の目をいれ”タブー”を打破
Designers Eyeの特徴は、データ分析の結果を商品デザインの決定プロセスに組み込んだことだ。ターゲットとする商品に対し、性別や年代別購買データや自社/競合商品間の流出入状態、SNS投稿の内容といった種々のデータをワンストップで分析し、そのうえでリニューアルなどのデザイン提案をすることによって「なぜそのデザインを変更する意味があるのか」という客観的な根拠を与える。
菓子の果汁グミを販売する菓子メーカーA社にDesigners Eyeを通して提案する例を説明しよう。インバウンド需要や消費者の健康志向が相まって、グミ市場は急伸している。まずID-POS分析で、どういう属性の消費者がA社の対象商品を購入しているのか分析する。パッケージに大きく果実を表示するA社ブランドは女性8割、主に30代がスーパーで購入しているといった実態が浮かび上がる。
続いて競合分析を行う。他社の販売状況から、グミ市場は流出入が激しく、消費者は感覚的に買っていると分かる。ある期間における新規顧客の獲得割合や、B社ブランドへの流出割合などの分析結果から、A社のブランドには新規顧客がたくさんいても、継続顧客の増加はみられないという現状が分かる。
さらにA社に関するSNS投稿を分析すると、味に関してはポジティブ評価が多いが、食感については今一つだといったことが判明する。消費者がSNS上で活発になるのは夜間の時間帯だとも分かった。A社にとっては、食感が今後の改善ポイントになるかもしれないし、SNSプロモーションの仕方を検討できるかもしれない。
以上を踏まえ、パッケージデザインについて、もう一段売れるようにするための提案に入る。購入顧客の属性や流出入の激しい市場環境、そして想起させる味のイメージがよいという分析結果から、大きく果実を表示する現在のコンセプトを踏襲して、より女性に訴求する案と、他の年代や男性の目を引くような斬新な案の両方を提示する。
こうすることで、メーカーにとってはデータに裏打ちされたデザイン案が増える。CREMU DESIGNの藤本誠史代表取締役CEOによると、企業にはだれがデザインしたかなどの経緯や事情があって、思い切り変えられない”タブー”があるという。「第三者の目を入れることで、新たなアイデアを考えるきっかけにしたり、折衷案にしたりできる」(藤本氏)。
「データとデザインはもっとつながれる」
両社が組んだきっかけは、藤本氏がTrue Dataに声をかけたこと。三菱UFJリサーチ&コンサルティングで長くマーケティングのコンサルタントとして歩んできた同氏は、顧客企業のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)などに戦略提案をする際、属性付き販売データの重要性を認識していた。ただデータが存在しても企業側の課題解決は難しかったという。
顧客企業では商品開発やデザインについてマーケティングや営業、デザイン部門が互いに「いいものを作ろうとしても分かってくれない」とみなしてしまうことから、意思疎通が阻害されるケースを多く見てきた。単に「今までのパッケージデザインに飽きたから変えよう」という意思決定者の感覚的な一声で決まることもあるという。
藤本氏は、データ分析の結果やその意味を分かりやすくデザインチームへ橋渡しする“翻訳”の必要性を痛感し、CREMU DESIGNを昨年6月に起業。半年ほどかけ、True Dataと今回のサービスを作り上げた。Designers Eyeの開発を一緒に担当したTrue Dataデータベースマーケティング部の竹村博徳リーダーは、商品デザインについて企業に聞き取りを行った結果、「最大の問題は内部だけでは『ブレークスルーが起きにくい』ことだった。データ収集やデザイナーとのコミュニケーションにも手間と時間がかかっていた」と語る。
藤本氏は「市場環境の変化の速さに合わせ、ワンストップでデザインまでのサイクルを速められる。データとデザインはもっとつながれる。データ分析の結果がよりデザインに反映されればデザインの価値は高まるだろうし、データ自体の価値も上がる」と話す。
True Dataは全国約5000万人のID-POSデータを扱い、販売実態分析に強みを持つ。一方、CREMU DESIGNはマーケティング調査、商品デザインや顧客接点のためのデザインを専門にしている。