料理レシピ情報投稿サービス大手のクックパッドが、カスタマーサポートに問い合わせをしてきそうなユーザーを抽出し、「実際に問い合わせてくる前にこちらから先に声をかける」という取り組みを、2018年2月にスタートした。

その狙いは「クックパッドへのロイヤルティーを引き上げ、サービスを長く使ってもらうこと」(ユーザーエンゲージメント部の渡邉真知子部長)にある。
クックパッドでは、ユーザーが利用するアプリを頻繁にバージョンアップし、特定の機能のアプリ内の置き場所が変わることがよくある。すると、機能によっては、カスタマーサポート部門に「この機能はどこに行ってしまった?」という問い合わせが数多く寄せられることがあった。
そこで、「こうした問い合わせの多い機能は、その存在を知ってもらえれば多くのユーザーに使ってもらえ、クックパッドの利便性向上につながる」(ユーザーエンゲージメント部テクニカルサポートグループの立松貴央グループ長)と考え、アプリ内の置き場所の変更について、先にユーザーに通知するという取り組みを始めた。
具体的には、アプリ内の行動履歴から当該の機能にまだ触れていない、過去にカスタマーサポート部門に問い合わせをした経験がある、といった複数の条件を組み合わせて通知対象とするユーザーを絞り込み、メールまたはアプリ内のプッシュ通知で知らせるようにした。
約40%のユーザーがメールを開封して機能を試した
最初は、「アプリで最近見たレシピを再度表示する機能と、そのレシピをピン止めしてすぐ呼び出せる機能」を告知する機能として選び、2018年2月から、ABテストと位置づけて告知のメッセージを週ごとに変えながら、毎週約2万人に通知し始めた。
すると、メールでの通知の場合、送られてきたメールを開封して実際にその機能を試してみたユーザーが、「各週の平均で、メールを送ったユーザーの約40%に達した」(立松氏)という。通常のメールの開封率は数%にも達しないことが多いことを考えると、「ユーザーの潜在的なニーズを刺激し、まずは高い効果を上げることができた」(立松氏)と言えるだろう。
ただし、課題はまだ多い。特定の機能を通知対象に選ぶとき、その機能を使いたいと思っているであろうユーザーを適切に抽出すれば、通知の効率が向上する。だが、まだテストを始めたばかりで、ユーザーのデータをどんなアルゴリズムを使って分析すれば、より効率よく通知できるかは、試行錯誤の真っ最中。「テストを重ねて、できるだけ早くアルゴリズムを確立させることを目指す」(立松氏)という。
また、通知により、ユーザーにいったんは当該の機能を試してもらえたが、継続的に利用してもらえているかどうかは、まだ追い切れていない。「今後は継続的な利用を確かめられるKPIの設定を検討していく」(立松氏)考えだ。

もともとクックパッドは、カスタマーサポートを得意とする米Zendeskが提供するソリューションを使って、2014年からカスタマーサポートに力を注いできた。
例えば、「アプリにログインができない」という問い合わせがユーザーからカスタマーサポート部門にあった場合、アプリ内チャットやメールなどでログインの方法を教える。多くの企業は、ユーザーから再度の問い合わせがない場合は無事にログインできたものと解釈するだろう。
しかし、クックパッドは問い合わせてきたユーザーのIDとZendeskのソリューションの機能を使って、実際にログインできているかを確認。ログインできていない場合は、カスタマーサポート部門側からユーザーに「ログインできていないようですが不明点はありますか」と問い合わせるというサービスを展開している。
渡邉氏は、「クックパッド側から確認の連絡を送ったユーザーは、その後、アプリを継続的に利用してくれる傾向がある。クックパッドへのロイヤルティー向上策として、一定の効果があると考えている」と語る。
2017年8月には、カスタマーサポート部門の部署名を「ユーザーエンゲージメント部」に変更し、顧客対応の強化を図っていた。今年から始めた「実際に問い合わせてくる前にこちらから先に声をかける」という取り組みも、こうしたクックパッドの顧客対応の姿勢から生まれたものだ。「今年中に、あと2~3つのアプリの機能について、こちらから先に声をかける取り組みを進め、ユーザーの利便性アップとロイヤルティー向上を目指す」(立松氏)という。