NECソリューションイノベータ、極洋、極洋食品および東北大学大学院工学研究科情報知能システム研究センター(東北大IIS研究センター)は水産加工品の生産工程でAI(人工知能)技術を使ったカメラによる画像解析の実証実験を行い、個数計測と、形状や仕上がりが規定外の「2級品」検出の精度が99%以上となる結果を得た。2019年度には自動で2級品を除去することを目指す。

 水産加工工場の生産ライン上の2カ所で、エビなどの原料が流れる調理工程と、フライ調理された後の工程で実験を行った。AIが個体数計測と、1級品(エビであれば人差し指大の勾玉状)および2級品(形状不良やくっつき品)を判定するもの。2級品はラインを毎秒15~20枚撮影し、画像1枚当たり解析速度0.05秒以内で判定。技術員の目視による検出個数とほぼ同じ水準の99%以上の精度で検出できたという。

エビフリッター生産ラインでの実験イメージ
エビフリッター生産ラインでの実験イメージ
2台のカメラが撮影するエリアはそれぞれ約600mm四方。実験期間の任意の10分間で、調理工程を流れた7046個のうち7036個をAIが計測(出所:NECソリューションイノベータ)

 エビフリッターの場合、フライ調理前は素のエビである一方、調理後の工程では衣が付いているため、画像判定のAIにはそれぞれ別の教師データで学習させた。データは極洋がNECソリューションイノベータに提供した。実験の対象はエビフリッターのほか、コロッケ、かにかまフライの合計3種類の加工品。

生産ラインを「見える化」した画面イメージ
生産ラインを「見える化」した画面イメージ
予定生産数と累計生産数を基に生産の進捗度などを可視化したシステム画面。2分おきでほぼリアルタイム更新した(出所:同)

見ているのは形、配置

 実験の目的の1つは、生産ラインの「見える化」で、2級品の発生する原因を追究することである。形に注目したのは、最終製品に影響するのは「原料の形状が大きいだろう」という仮説からだ。ほかにも生産ライン上の原料の配置や密集具合も調べた。結果について極洋の塩釜研究所技術管理課の川端康之亮課長は「(仮説が)裏切られたものもある」と評価し、得られた知見を生かし将来的に画像判定システムを横展開して、他の生産ラインや工場へ広げていきたいとしている。

 水産加工工場では一般に、熟練技術者の高齢化により技術継承が困難だったり人手が不足していたりという構造的な問題を抱える。極洋のエビフリッターラインでは現在2級品の判別要員に3~4人必要としているが、もし自動判定ができるようになれば、1人程度に減らせるだろうとする。

 今回の実験ではコロッケも試した。きれいな丸い形や俵型が1級品で、つぶれていたりくっついていたりするものが2級品になる。製品に厚みがあるため、コロッケの方がエビより2級品検出の難易度が高いことが分かった。NECソリューションイノベータ東北支社 第二ソリューション事業部 流通・サービスソリューショングループ エキスパートの佐藤精基氏は、判別するために「立体的に撮影できるカメラにするか、配置を変える、台数を増やすなどして今後の実験に生かしたい」という。

水産原材料の画像判定は高度

 実証実験に至るきっかけは、東北発の事業基盤の醸成を目指すマシンインテリジェンス研究会(仙台市)に川端氏が声をかけたこと。3年ほど前から技術開発を念頭に本格的に議論を始めた。一方、同研究会と連携する東北大IIS研究センターは東日本大震災後、被災地の課題解決のため、IT企業とともに沿岸部で聞き取りを行っていた際に、極洋の塩釜研究所にも足を運んでいた。

 水産品は工業製品用の部品と違い、原材料がばらばらで、画像判定が高度になる点が「研究者の研究課題にもなりうる」(東北大学大学院工学研究科 IIS研究センターの舘田あゆみ特任教授)ことから、工場見学など経ていくつかの候補からエビのフリッターを選んだという。

 実証実験は2017年8月~11月にかけて、極洋食品の塩釜工場(宮城県塩竈市)の生産ラインで行われた。同工場ではエビ3トンを使いフリッターを日産している。

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