細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに斬り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。番外編として、連載に大幅に加筆して発刊した書籍『ブランドストーリーは原風景からつくる』の発刊イベントから、「Ginza Sony Park」を手掛けたソニー企業社長の永野大輔氏と細谷氏の対談を掲載。今回はソニーが考えるブランドづくりについて聞いた後編。
<前回(番外編の第5回の前編「ソニー企業社長に聞く ブランドづくりはWhy、What、Howの連係【前編】」)はこちら>
細谷 Why、What、Howをバランスよく組み合わせることは非常に難しい。どこかに偏ってしまいがちですね。
永野 おっしゃる通りです。Howの部分だけではブランドづくりは成功しません。例えばロゴデザインだけ、会社のアイコンだけをつくるのはブランド活動のうちの1つです。それらがインテグレートされ、最終的にユーザーの感動体験にまで結び付かないと、ユーザーの記憶には残りません。
特にソニーは、感動体験をWhatに置いているので、人に近づくことをすごく意識しています。人にできるだけ近づいて商品を使っていただいたりコンテンツを見ていただいたりすることを重視しています。そこでもう1つ、私が重視する点を「ブランドインターフェース」と呼んでいます。ユーザーは、ソニーという会社そのものに関心を持っているのではありません。何を通じてソニーを感じるのかといえば、商品やサービス、コンテンツです。これがソニーとユーザーをつなぐインターフェースになるわけです。
ソニー企業社長兼チーフブランディングオフィサー
細谷さんの原風景にあったように、細谷さんはウォークマンを通じてソニーを好きになったわけですよね。だからウォークマンがブランドインターフェースになる。ただ、次第に時代が進んでいくと、ウォークマンのようなハードよりも、音楽配信の「Spotify」のようなサービスのほうがより人に近づいている。映像でもテレビやビデオより、「Netflix」が、より人に近づいているといえる。ゲーム機の「プレイステーション」は、ソニーがハードもソフトのエコシステムもつくっている。ハードとソフトが一体になってユーザーに価値を提供しているからブランド力はすごく強いんですよ。
結局、ブランドインターフェースはタンジブル(触れることができる)とインタンジブル(触れることができない)の関係ではないでしょうか。実態や手触り感があるものと、実態がなく手触り感がないもの。今まではほとんど、タンジブルがインターフェースになっていたわけですが、今やインタンジブルが主流になってきている。インタンジブルで提供できない会社、ハードを中心とする会社のブランド価値が落ちている理由は、ここにあると思っています。この文脈でいくと、ソニービルはタンジブルですが、Ginza Sony Parkはインタンジブルです。
細谷 なるほど。ブランドインターフェースはインタンジブルでつくる時代であると捉えていいわけですか。タンジブルとインタンジブルは、どのようなバランスが良いのでしょうか。
永野 デジタル化、ネットワーク化により、ハードからサービスへと価値のシフトが起こっています。ただしインタンジブルはタンジブルがなければ存在できませんから、タンジブルがなくなることはありません。タンジブルにインタンジブルがアドオンされるのでしょうね。
2020年10月に、ソニーのイメージ調査をしました。インターネットで10~70代までの方に、ソニーの商品やサービスの中から「他社とソニーとの違いを感じるものは何ですか」と聞くと、Ginza Sony Parkを認知している人は、Ginza Sony Parkを1番に挙げました。また「未来感がある」という点では1位がロボットの「aibo(アイボ)」で2位がプレイステーション、3位がGinza Sony Park。「遊び心がある」ではプレイステーション、aibo、Ginza Sony Parkとなり、「人に優しい」ではGinza Sony Parkが1番でした。
細谷 Ginza Sony Parkも、プレイステーションやaiboと同様、ソニーを代表する商品であるということなのですね。
永野 Ginza Sony Parkはショールームではなく、休憩場所かもしれませんが、ユニークな存在であり、他社と違うということが認知されている。活動そのものがユニークで、遊び心があると感じてくれたとしたら、それはウォークマンやプレイステーションと同じように、ユーザーとソニーをつなぐブランドインターフェースになっているのでしょう。
細谷 このランキングはまさにそうですね。
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