ブランディングプランナーの細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに切り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。前々回前回に引き続き「Ginza Sony Park」を取り上げます。今回は解説編の後編。

かつてあったソニービルは、東京・銀座を象徴するランドマークの1つだった (C)Ginza Sony Park
かつてあったソニービルは、東京・銀座を象徴するランドマークの1つだった (C)Ginza Sony Park

 インタビューの後、直接私に永野大輔ソニー企業社長からメールでご連絡をいただきました。「もしかすると、Ginza Sony Park(以下ソニーパーク)は製品やサービスであるという文脈だけでなく、人がやらないことをするというソニーのアイデンティティーにつながるキーワードとして『What if…』の考えがあるのではないかと考えています」とのことでした。

 「このWhat if…とは、“もしソニーが○○をつくったら”という考え方なのです。もしソニーが音楽プレーヤーを作ったら“ウォークマン”。もしソニーがゲーム機を作ったら“プレイステーション”。もしソニーがロボットを作ったら“aibo”。そして、もしソニーが公園を造ったら“ソニーパーク”だという文脈なのです」と永野さんは言います

 この永野さんのお話はとても分かりやすく、なぜソニーが銀座に公園を生み出すことができたのかを深く理解することができました。What if…という視点は、永野さんがソニーパークを語る際に言語化しているものだそうで、この考え方のコアにはソニーが長年培ってきたイノベーションと何かを見つめるその解があり、まさに顧客が期待し続けている、ソニーらしさの源泉でもあります。

 ものづくりを強みとする日本企業の多くは、新規事業やイノベーションとなると今までにないものを新しくつくらなくてはいけないという固定概念に取りつかれてしまいます。永野さんの言うWhat if…という文脈で「もし△△が○○をつくったら」とピュアに考えたほうが、私たちの創造性や行動力が駆り立てられるかもしれません。

街の文脈を内包することで生まれる新しいつながり

 「ソニー製品を持っていなかったとしても、何年か後で振り返ってみると、幼いときにソニーパークを体験し、大切な人と待ち合わせをしたという体験が、ソニーへのロイヤルティーに結びついていくと思っています」と永野さんは言います。

 通常、企業が空間づくりを行おうとすると、顧客と製品のタッチポイントを重要視するあまり、製品を体感するためのショールーム的なものに寄りがちです。結果的に直接、購買へつながる顧客体験を促す場を目的とした空間になってしまいます。

 しかし、ソニーパークはそれらの類とは180度異なります。ソニー製品を売るという試みは一切行っていません。逆に“マイ・ファースト・ソニー”になるべく、ソニーパークそのものが、人生の中で最初に出合うソニーになるような製品でありたいという考え方自体が、今までのメーカー発想とは異なります。

 顧客同士がつながれば、企業がそこに介在しようとするのは極めて難しい時代に突入しています。デジタル化が進むほど、リアルなブランド体験は希薄になります。だからといって顧客との強い絆を求めようとするあまり、企業側が積極的に体験を強要しようとすると、顧客から関係性を構築する前に逃げられてしまいます。

 メーカー起点の能動的な立場をとるのではなく、“銀座のパーク”として人、ソニーと銀座の複数の関係性を深くつなぐソーシャルなインターフェースを目指そうとしていること自体が、これからの新しいブランディングデザインの方法論の1つになるのではないでしょうか。ここで重要なのは人と銀座、ソニーという文脈をブランド戦略に取り入れたということです。さらにソニーのすごさは、すでに66年から盛田昭夫氏や芦原義信氏によって、旧ソニービルに銀座という街の文脈を内包していたことです。

ソニービルについての考え方。ソニービルを情報発信基地として刷新すること、人々にリアルな体験を与えること、銀座をより心地よい街にすること、の3つを実現することでさらに魅力的なソニービルにしていくという (C)Ginza Sony Park
ソニービルについての考え方。ソニービルを情報発信基地として刷新すること、人々にリアルな体験を与えること、銀座をより心地よい街にすること、の3つを実現することでさらに魅力的なソニービルにしていくという (C)Ginza Sony Park