細谷正人氏が先進企業のブランディングデザインに斬り込む連載「C2C時代のブランディングデザイン」。和菓子や洋菓子を製造・販売するたねやグループ(滋賀県近江八幡市)を3回にわたり取り上げています。今回は細谷氏による解説編。

自然と人の共生を表現した空間「ラ コリーナ近江八幡」(写真提供/たねや)
自然と人の共生を表現した空間「ラ コリーナ近江八幡」(写真提供/たねや)

 菓子の素材は自然の恵みからできているという考えの下、たねやグループはたねやの精神を伝える「場」として、自然と人の共生を表現した空間を「ラ コリーナ近江八幡」(以下、ラ コリーナ)をつくりました。八幡山から連なる丘ににあり、たねやが自ら木を植えました。ここには蛍が舞う小川の他、さまざまな生き物たちが棲(す)む田畑もあります。

 そのような環境の中に、建築家・建築史家の藤森照信氏からアドバイスを受けた店舗があり、和・洋菓子のショップをはじめ、飲食店やマルシェ、さらには本社オフィスまでが自然と寄り添いながら存在しています。「自然に学ぶ」というたねやのコンセプトには、人々と自然がつながっていく場としてすべての空間が計画されています。年間311万人のお客さまが訪れ、インスタグラムなどのSNSでは、若年層や家族連れが「#ラ コリーナ近江八幡」や「#ラ コリーナ」で画像を載せています。現在インスタグラムの画像投稿数は約15万まで増加しているそうです。私もその圧倒的な人気の理由を知りたくて今回、ラ コリーナを訪問しました。

農は「藝術」という「たねや農藝」の存在意義

 中でも私が最も注目したエリアがありました。ラ コリーナの敷地の奥にある関係者以外は立ち入り禁止の場所です。そこには、緩やかな弧を描く建物がありました。「農は藝(げい)術」であるという考えの下、一歩進んだ“農”の在り方を「たねや農藝」として実践している場です。

 たねやが目指すのは、四季折々の野菜や果物作りを通して自然と共生する農業。この建物では、たねやのコンセプトである「自然に学ぶ」を体現する事業を行っているのです。たねやには農藝部門があり、3つの専門分野に分かれています。有機農法で米や野菜を作る「北之庄菜園」、景観づくりを行う「ラ コリーナ造園」、たねやの店舗に山野草の寄せ植えを届ける「愛四季苑(はしきえん)」です。「たねや農藝」の前身は、もともと自社でよもぎ団子を作るために、よもぎを栽培したことから始まった事業だといいます。

ラ コリーナの立ち入り禁止区内に入ると弧を描いた「たねや農藝」が見えてくる
ラ コリーナの立ち入り禁止区内に入ると弧を描いた「たねや農藝」が見えてくる
中に入ると、鉢植えされた山野草が数多くある
中に入ると、鉢植えされた山野草が数多くある

 菓子メーカーが農業まで行う理由は、原材料であるお米や小豆のほとんどが、農産物だからです。農業の大変さをたねや自身が知り、自らが体感することが必要だと考え、自社で農業をしているといいます。最終的には、試行錯誤しながら手作業で農作物を作ることで、有機や無農薬農法の知見を蓄積し、その農法を滋賀県内の農家に還元したいと考えているようです。

 驚くべきは約500種類、約3万株もの山野草も育て、たねやの店舗に山野草の寄せ植えを届ける愛四季苑というチームの存在です。「和菓子は季節を取り入れ味わうものだからこそ、季節の山野草を店に飾ることでお客さまにも四季を感じていただきたい」という、たねやの思いから生まれた愛四季苑は約30年前、東京・中央の日本橋三越のたねや店舗に山野草を届けることからスタートしたそうです。

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