ブランディングプランナーの細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに斬り込み、先進企業を取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。前回に引き続きJINS(ジンズ)を取り上げます。今回は細谷氏による解説編。

JINS Design Projectでは、ジャスパー・モリソンやコンスタンティン・グルチッチの他、2018年11月には建築家のミケーレ・デ・ルッキと協業した眼鏡を発売した
JINS Design Projectでは、ジャスパー・モリソンやコンスタンティン・グルチッチの他、2018年11月には建築家のミケーレ・デ・ルッキと協業した眼鏡を発売した
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 JINS(ジンズ)は2014年から「Magnify Life」(magnifyは拡大するの意)というビジョンを掲げています。「商品を通じてすべての人がより豊かで、より広がりのある人生を送れるように」という視点に立ち。企業活動を行っています。

 かつてジンズが設定していたビジョンは「メガネをかけるすべての人に、よく見える×よく魅せるメガネを、史上最低・最適価格で新機能・新デザインを継続的に提供する」でした。ビジョンというよりも事業戦略に近いものであったと言えます。しかしジンズは新しいビジョンを設定後、「広がりのある人生」に向けてユニークな施策を次々と打ち出してきています。

 例えば、眼鏡を低価格にすることで、気分やファッションに合わせて替えることや、ブルーライトから目を守る「JINS SCREEN」(ジンズ・スクリーン)をはじめとする機能性アイウエアなど、眼鏡の新しい在り方を提案してきました。さらに「JINS Design Project」(ジンズ・デザイン・プロジェクト)として著名なデザイナーと協業した商品を開発。センサーを組み込み、アプリと連動させることで日々の活動を計測できる「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)はウエアラブルデバイスとして、“見る”こと以外にも価値を拡大しています。さらに、世界一集中できる場を目指した会員制ワークスペース「Think Lab」(シンク・ラボ)も手掛けており、Magnify Lifeというブランドビジョンをコアに、事業を飛躍的に拡大させてきました。

ビジョンはデザインしないと伝わらない

 具体的にMagnify Lifeは、3つの行動規範としてキーワードを設定しています。(1)革新的な思考をもって変化を恐れずに挑戦する「Progressive」(プログレッシブ)、(2)製品やサービスが良い刺激と高揚感を与えられるような活動をする「Inspiring」(インスパイアリング)、(3)信頼を醸成し、誠実な思いを持つ「Honest」(オネスト)です。これらは事業活動を促すものだけでなく、JINSのブランドパーソナリティーにも、ひも付いていると田中仁CEO(最高経営責任者)は言います。JINSはビジョンと行動規範からなるブランド価値定義を設定したうえで、JINS Design ProjectやJINS MEME、Think Labや新規の店舗開発などを誕生させているのです。

 田中CEOはデザインの定義について、より良い社会をつくる手段や自分たちのビジョンをかなえることだと明言します。経営とデザインの関係性は常に一体化されているものでなければならないという認識です。どんなに良いビジョンでも、人に伝わらなければ何も意味をなさないのです。日本企業の場合、不変的な理念を持っていても、必ずしもそれを分かりやすくデザインしているわけではありません。結果、その理念は伝わらずに、実業の中では放置されてしまっていることが少なくありません。

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