ブランディングプランナーの細谷正人氏が新たな視点でブランディングデザインに切り込み、先進企業に取材する連載「C2C時代のブランディングデザイン」。前回に引き続きAzit(アジット)の“相乗り”サービス「CREW」を取り上げます。今回は解説編。

「“乗りたい人”と“乗せたい人”を繋げるモビリティ・プラットフォーム」を目指した“相乗り”サービス「CREW」は、Uberなどのライドシェアサービスとは異なる(写真提供/Azit)
「“乗りたい人”と“乗せたい人”を繋げるモビリティ・プラットフォーム」を目指した“相乗り”サービス「CREW」は、Uberなどのライドシェアサービスとは異なる(写真提供/Azit)

 Azitが2015年10月にサービスを開始した「CREW(クルー)」は、「“乗りたい人”と“乗せたい人”を繋げるモビリティ・プラットフォーム」を目指した“相乗り”サービスです。自分の近くを走る誰かの車を、スマートフォンで呼べる送迎アプリを展開しています。世界的に見れば、同様の分野では「Uber」や「Lyft」などの配車サービスが有名ですが、CREWはブランド理念や料金設定に対する考え方がユニークです。料金の考え方が、単なる利便性の追求ではなく、乗りたい人と乗せたい人を自然につなげ、CREWという仕組みに愛着が生まれるようなっています。

 CREWの場合、乗りたい人はガソリン代や道路通行料といった実費、プラットフォーム手数料としてAzitに支払うシステム利用料をまず支払う他、乗車料の代わりに“謝礼”を任意で支払うという考え方で運営しています。感謝の気持ちを示すものですから、決して義務ではありません。乗車料に相当しないため法律関係もクリアしており、タクシーのような許可や登録は必要ありません。「乗せてくれてどうもありがとう」という、ピュアな感謝の気持ちを料金ではなく“謝礼”として支払うのです。

 実は「C2C時代のブランディングデザイン」という連載企画が生まれたきっかけは、CREWとの出合いが大きく影響しています。C2Cとは、インターネットの普及によって変化して生まれた言葉で、コンシューマー(Consumer)である一般消費者と一般消費者の間の取り引きを意味します。代表例は「ヤフオク」や「メルカリ」などでしょう。インターネット外においてはフリーマーケットなどと同様の商取引のことを言います。昔から存在する市場や行商のような仕組みでは、値段の交渉がランダムに行われているなど、独自のコミュニケーションが存在していました。本来、C2Cで行われる商取引はブランドへの濃密な愛着が生まれる原型であるとも言えます。

 かつてのインターネットでの個人間の取り引きの場合、代金決済がネックとなることが多くありました。しかしサービスを運営する事業者などが代金決済の仲介を行うことによって、取り引きの円滑化が図られるようになっています。特に近年では「PayPal」「LINE Pay」「PayPay」などのオンライン決済システムの登場によって代金決済容易になってきています。だからこそ、本格的なC2C時代の到来に向け、どのようなブランド戦略を考えていくべきかというのが、この連載の趣旨です。

 CREWが考える“謝礼”という価値観の提示はとてもユニークです。C2C時代において、ブランドへの愛着を最大化させることができる重要なポイントになるのではないかとさえ思いました。私自身もCREWの愛用者で、今までにないモビリティー体験を得ている一人です。私が実際に利用したときにCREWドライバーとかわした話は、車の話や車内で聴く音楽の話、CREWを選ぶお客さまの話、家族や奥さんの話、仕事の話などとても広範囲でした。まるで親友の快適なマイカーに乗せてもらい、とりとめもない話をしながら、目的地まで連れて行ってもらっているような感覚になれたのです。

新しいブランドアイデンティティーとヒューマンスケールの概念で、現在のモビリティー問題を解消する役割を担うCREW。決してテクノロジーを活用したC2Cを目指しているわけではないことが特徴(筆者作成)
新しいブランドアイデンティティーとヒューマンスケールの概念で、現在のモビリティー問題を解消する役割を担うCREW。決してテクノロジーを活用したC2Cを目指しているわけではないことが特徴(筆者作成)
CERWの料金は、実費、手数料、任意の謝礼の3つから構成される(Azitのサイトより)
CERWの料金は、実費、手数料、任意の謝礼の3つから構成される(Azitのサイトより)