創業6年目、ウエルネスブランドのTENTIAL(テンシャル、東京・中央)は、年々メディアで取り上げられる機会を増やし、一定の認知は獲得した。一方、商品やブランドに対する「パーセプション(認識)」の浸透に課題があった。その背景にあったのは、とにかく露出を増やす「パブリシティー至上主義」だ。そこで広報戦略を見直し、「パーセプション重視」へと変えた。本連載では、同社の広報担当者、吉本慎之介氏がその全容を余すことなく紹介する。
ブランドが世の中からどのように受け入れられたいのか。いわゆる、「パーセプション(認識)」の方向性が社内で明確に定まっているにもかかわらず、広報戦略におけるメッセージの統一ができていないため、世の中に浸透させることができない。TENTIALでは、従来こうした課題を抱えていました。
この状況を招いていた最大の要因が、広報活動でありがちな、プレスリリースなどの企業による情報発信を通じて、メディアに取り上げてもらうことばかりを重視する「パブリシティー至上主義」に陥っていたことです。当時はブランドの認知度が足りていない分は、パブリシティーを増やせば解決すると考えていました。
その頃TENTIALで設定していた広報のKPI(重要業績評価指標)は、パブリシティーの量でした。そのためプレスリリースを何本配信できるかなど、「露出する」ことにとらわれた広報活動にとどまってしまい、「有名になればいい」という短絡的な発想から抜け出せずにいたのです。
毎週のようにプレスリリースを出し、それらの情報をうまく使うことで露出は増えていきました。しかしあるメディアでは「急成長するTENTIALのカルチャー」、あるメディアでは「TENTIALの新しい製品について」、あるメディアでは「代表の創業ヒストリー」といった形で、露出にバリエーションのある記事が続々と公開される状況でした。
TENTIALは機能性衣類のメーカーで、数十種類のSKU(商品の最小管理単位)を展開しています。独自性のある機能性衣類を扱っていることもあり、メディアからは面白がって取り上げてもらえる機会が多く、当時も広報としてはネタに困ることはありませんでした。そのため目標よりもはるかに早くKPIに到達するなど、露出面においては十分成果を上げていました。実際、露出量に伴い売り上げも伸びていたため、事業面で見た場合、この広報戦略は一定の成功を収めていたと言っていいでしょう。
「パブリシティー至上主義」の限界
ところが、ここで状況が変わってきました。露出が増えるだけで事業や採用に貢献するような活動につながらず、どんどん疲弊していってしまったのです。また疲弊したことによってパブリシティー量も落ち込み、広報活動が停滞していくという、まさに悪循環に入っていきました。切り口にバリエーションがあること自体はよかったのですが、帰結する部分やメッセージがパーセプションに立脚していないことが最大の課題でした。
ブランドを長期的に育てていこうと考えた場合、これは望ましい状況とは言えません。一時的には露出量が増えブランドへの注目が集まったとしても、しっかりとパーセプションが浸透していないと、いずれその効果は薄れていきます。パーセプションとは、商品に対するイメージや、何かをしたいと思ったときに自社の商品が想起されるかなど、消費者の「認識」です。社内では明確に獲得を目指すパーセプションが定められていましたが、それを広報戦略として生かし切れていませんでした。
TENTIALの中で定められていたパーセプションは、「アスリートの知見を生かし、日常の健康課題をエビデンス(根拠)、ファクト(事実)のある高い機能性を持った製品を作り解決する。一般人のコンディショニング(調子を整える)意識を変え、健康で前向きな生活を送ってもらう」というもの。しかしながら、このパーセプションを形成するための具体的なロードマップやフローが形成されていませんでした。そのため、短期的な取材依頼に対応し続けるだけの広報活動となっており、定めたパーセプションに基づいた広報戦略を立案できないという状態になっていたのです。
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