※日経エンタテインメント! 2023年4月号の記事を再構成
エンタテインメント作品作りを変える「5大新潮流」を解説する「エンタ界の新スタンダード」特集。第1回のテーマは「ショートドラマ」だ。TVerの見逃し再生回数ランキングで、プライム帯(19~23時)のドラマと肩を並べる作品が相次ぐなど、昨今、1時間ドラマよりも短いドラマへの注目が集まっている。大手企業とのコラボレーションも活発に進むなど、ビジネス面でも盛り上がりを見せる現状を探った。
昨今のテレビ界では、一般的な1時間ドラマより短い、ショートドラマの制作が活発だ。2019年には10に満たなかった在京および在阪の民放地上波で放送される深夜ショートドラマ枠が、23年2月時点では20作にまで増えている。
特に22年は、地上波各局がショートドラマをレギュラー放送する新ドラマ枠を相次いで設置。4月はテレビ東京の「ドラマチューズ!」、TBSの「ドラマストリーム」、MBS(毎日放送)の「ドラマシャワー」、10月にはフジテレビ「火曜ACTION!」と関西テレビ「EDGE」が新設された。また、同年2月に、日本テレビが週末の午後に不定期で放送する「Zドラマ」枠をスタート。同局は18年から朝の情報番組『ZIP!』内で、「ZIP! 朝ドラマ」と題した5分のドラマも放送しており、ショートドラマのバリエーションにも広がりを見せている。
ショートドラマの増加は、テレビ番組の見逃し配信を行う動画配信サービス「TVer」や定額制配信サービス(SVOD)といったネット配信の普及による影響が大きい。TVerの見逃し再生回数ランキングでは、プライム帯作品に分け入ってトップ10入りするショートドラマが続出。例えば、2月16日付けランキングでは、3位に『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(テレ東系)、8位に『美しい彼(シーズン2)』(MBS/TBS系)がつけている。
自分の好きな番組を登録すると更新情報の通知を受け取れる「お気に入り登録」機能の登録者数でも、プライム帯作品と肩を並べる作品が多い。2月20日時点では、『夫を社会的に抹殺する5つの方法』の登録者数は53.1万人で、23年1月期ドラマ全体で11位。これに13位『美しい彼(シーズン2)』、15位『来世ではちゃんとします3』(テレ東系)、16位『わたしの夫は―あの娘の恋人―』(BSテレ東/テレビ大阪)と続く。ここまでは、一部のプライム帯作品を上回る数だ。
動画コンテンツをスマートフォン片手に1人で見るスタイルが定着したことで、近年リーチできなかった、若い世代をターゲットに据えた作品が多い。MBSがKADOKAWAと組んで新設した枠「ドラマシャワー」は、一貫して女性に人気のBL作品を制作。日本テレビの「Zドラマ」は、名前にも入るように“Z世代に向けたエール”がコンセプト。10代を主人公とするドラマの内容はもちろん、放送時間も若い世代が見やすいようにとあえて週末の午後帯にしたという。「Zドラマ」を担当する日本テレビの鈴木努プロデューサーは、ショートドラマの魅力を次のように語る。
「スマートフォンで1時間視聴してもらうドラマを作ることは難しい。また、若い世代はタイパ(タイムパフォーマンス/時間対効果)を重視し、倍速でドラマを見る人もいます。ショートドラマは、そんな若い世代に合ったコンテンツです」
配信サービスや映画への展開でマネタイズ
テレビ局がショートドラマの制作に力を注ぐ理由は、ずばりマネタイズできるためだ。『きのう何食べた?』や、23年1月期にシリーズ第3弾が放送された『来世ではちゃんとします』シリーズなどヒット作を世に放ってきたテレビ東京の祖父江里奈プロデューサーは、「ドラマはアーカイブとして二次利用の展開がしやすく、マネタイズにつながる。バラエティは1度当たると長く続けられるのですが、ファンが付くまでに時間がかかる。ドラマは原作ものであればそのファン、また、出演する俳優のファンが確実に見てくれます」と語る。また、プライム帯の作品に比べて制作費を低く抑えられることも、ショートドラマの増加につながっているようだ。
ショートドラマは、特にSVODへの展開と、広告ビジネスの新たな場として期待されている。まず、SVODでは大きく2つの役割を担っている。1つは、テレビ局が運営する自社グループのSVODへの加入促進だ。日本テレビはHulu、テレビ朝日はTELESA、フジテレビはFOD、TBSとテレビ東京はWOWOWなどと共同でParaviを展開している(7月以降はU-NEXTと統合の予定)。祖父江氏によると、「『来世ではちゃんとします』のシリーズ1が始まった際、本作を見たいとParaviへの加入者数が急増しました。従来のように視聴率ではない評価を得られて、マネタイズできると実感できた体験でした」と語る。
一方、Netflix、ディズニープラス、プライム・ビデオといった他のSVODへのコンテンツ提供も盛んだ。例えば、MBSで22年9月から放送した『闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん』はNetflixとdTV、今年1月スタートの『あなたは私におとされたい』はディズニープラスにて全話の配信が行われた。「SVOD各社は、コンテンツラインアップに力を注いでいます。オリジナルコンテンツも制作されていますが、外部からの調達も多い。サービスによって利用者層や受ける作品の傾向が異なるので、作品ごとにタッグを組む相手を変えています」(MBSのドラマ統括プロデューサー)。
ショートドラマからのマネタイズとしては、映画化も挙げられる。ここ数年でも、『きのう何食べた?』や『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』といったショートドラマ発の映画がヒットしている。さらに今年4月には、MBSの「ドラマ特区」「ドラマイズム」枠で放送された『美しい彼』の『劇場版 美しい彼~eternal~』も公開された。
企業とのコラボや広告も増加傾向
広告の場としても存在感を増している。テレビ東京では、バンダイとタッグを組んだ『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』(22年)や、冠婚葬祭事業を手掛けるベルコと組んだ『それでも結婚したいと、ヤツらが言った。』(23年)など、企業と連動したショートドラマを相次いで制作している。「CM以外のマーケティングを模索し、1つの手法としてショートドラマとタッグを組むスポンサーが増えています」と語るのは、サントリーとドラマ『晩酌の流儀』などを手掛けた、テレビ東京の松本拓プロデューサーだ。「ドラマの場合、まず放送で広いリーチを取りつつ、次にTVerやSVODでアーカイブ視聴も期待できます」。
日本テレビ「Zドラマ」の鈴木プロデューサーも、マネタイズの場としての可能性に期待を寄せる。「若い世代にアピールしたいけれど、コンプライアンスなどの面から、インフルエンサーさんとは組めないという企業もあります。そこで、日本テレビの番組とタッグを組み、放送だけではなく、配信オリジナル番組や番組のSNSアカウントを通じて、若い世代に向けたタイアップコンテンツを発信したいという問い合わせが増えています」。2月25日から放送した「Zドラマ」第4弾『沼る。港区女子高生』と、同作と連動したネット配信ドラマ『恋愛デスマッチ「国宝級彼氏オーディション」』はTOYOTA、マイナビ、KDDIが協賛についたという。
ショートドラマには、芸能プロダクションも強い関心を寄せている。レプロエンタテインメントは、1月期ドラマ『あなたは私におとされたい』(MBS)からショートドラマの企画・制作事業に参入した。「芸能事務所はスタータレントだけでなく、スターコンテンツを作る力も備えていかなければと考えています。これまでにも新進気鋭のクリエーターを発掘する映像プロジェクト『感動シネマアワード』などに取り組んできましたが、今視聴者のニーズがあるのは、ショートドラマ。テレビだけではなく、TVerやSVODなどコンタクトポイントが整い、多くの人に見てもらえるチャンスがあることから参入を決断しました」(同社経営本部映像プロデュースルームの本間隆平氏)。
ヒット作品に共通する“2つの凝縮”
作品が増え、「ショートドラマ戦国時代」に突入した感もあるなかで、どのような作品がヒットしているのだろうか。取材を重ねたところ、2つの「凝縮」が行われていることが分かった。
1つ目は、テーマや設定、キャラクターの濃度の凝縮だ。1月期のショートドラマを見ると、DV夫への復讐、不倫、BLといった題材の作品がTVerで人気を集めた。先の『あなたは私におとされたい』も「ゼッタイに不倫しない男」と「ゼッタイに不倫させる女」の駆け引きが描かれた作品だ。MBSの統括プロデューサーは、「プライム帯のように広く多くの方々に楽しんでもらうような場ではないので、視聴者は狭いかもしれないけれど、より深く作品を好きになってくれるファンを作ろうと取り組んでいます。1時間以上のドラマと比べ、ストーリーの大切さはもちろんでありつつも、設定やキャラクターの独自性や、シーンごとに映えがあるかといった部分の比重が高まっている印象です」。
尺が短いことから、展開も凝縮される。日本テレビの鈴木氏によると、Zドラマは、1時間ドラマと同じ程度の分量のある台本からそぎ落としていき、時間の密度と情報の濃度を高めているという。「倍速視聴しなくてもいいテンポで進み、次のエピソードが気になるという構成を心掛けています」(鈴木氏)。
なお、現在ショートドラマはマンガ原作作品が多いが、アーカイブ展開やIPビジネスの観点から、オリジナル脚本の作品を増やしていきたいと口をそろえる。主流の若者向け作品以外にも、ショートドラマの幅はさらに広がりそうだ。