リテールメディア「Amazon広告」攻略法 第1回

米アマゾン・ドット・コムの広告事業「Amazon広告」が好調だ。巨大なECサイトという広告配信面と購買データを中心とした、EC事業者ならではの独自性の強いデータを用いた広告サービスの展開で、急速に広告市場での存在感が高まっている。同社の年間広告売上高は377億ドル(約5兆円)を超え、先行する米グーグルや米メタを猛追する。本特集では、米アマゾンや支援会社、先進企業の事例を通じて、Amazon広告を徹底解剖。強みや効果的に活用する攻略法をお伝えする。

米アマゾン・ドット・コムの広告事業は急成長を続けている(写真/Shutterstock)
米アマゾン・ドット・コムの広告事業は急成長を続けている(写真/Shutterstock)

 これまで急成長してきたデジタル広告プラットフォームの雲行きが怪しい。新型コロナウイルス禍という“特需”が終わりを迎えようとする中、業績が振るわない。2023年4月25日の米グーグルの持ち株会社である米アルファベットの23年第1四半期(23年1月~3月)決算発表では、主力の広告全体は0.2%減の545億4800万ドル(約7兆5000億円)となった。「YouTube」の広告売上高が約2.6%減と3四半期連続で減少したことが大きな要因だ。デジタル広告支援会社の電通デジタルの瀧本恒社長は「この3年間の間にデジタル広告市場の伸び率が少しずつ鈍化しているのは事実だ」と言う。

 国内でも、事業成長の鈍化を理由に大手広告プラットフォームに大きな動きが見られる。Zホールディングス(ZHD)、ヤフー、LINEの3社は23年度中をめどに合併することを発表した。「22年度後半に入り、急速に市場環境が悪化。業績をけん引してきた広告では、収益が急激に減退」(ZHD)したことがその理由。「広告商品としての競争力の低下も(広告収益悪化の)一因となりつつある」(同)と危機感は強い。

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 既存の広告プラットフォームの成長が鈍化する一方で、台風の目となっているのが米アマゾン・ドット・コムが手掛ける広告サービス「Amazon広告」だ。アマゾンの22年の年間広告売上高は377億3900万ドル(約5兆円)で、前年から21.1%増と引き続き好調だ。ECサイト「Amazon.co.jp(以下、Amazon)」が多くの企業にとって既存の小売業と並ぶ重要な販売チャネルとして規模が拡大するにつれ、メーカーなどがAmazonでの販売を拡大するための広告活用を活発化させている。

大手広告プラットフォームの市場シェアの推移
大手広告プラットフォームの市場シェアの推移
Amazon広告は急成長し、米国デジタル広告市場シェアの14.6%を占める規模にまで拡大。米グーグルや米メタを猛追する(出所:インサイダーインテリジェンス)

電通系はAmazon専門チームの人材を5倍に

 急速に需要が高まるAmazon広告の活用支援の体制を底上げするため、大手広告代理店は専門部隊の強化を進めている。電通デジタルには「Amazonルーム」と呼ばれる専門チームがある。18年1月の設置時点では5~6人が所属するだけだったが、この5年で30人を超える規模にまで拡大した。「広告商品の販売を始めてから、毎年、取扱高は上昇している。他のプラットフォームは伸び率が頭打ちになりつつある中、肌感覚では1.5倍のスピードで成長している。こうした中、Amazon広告支援への人的なリソースの投下が加速している」と電通デジタルのコマース部門Amazonルーム第1グループ志賀靖氏は説明する。

 それほどAmazon広告が脚光を浴びているのは、小売りが手掛ける広告サービス「リテールメディア」の本命として注目度が高いからだ。近年、日本国内でも新たな広告市場として関心が高まっているリテールメディアだが、日米では市場の趣がやや異なっている。米国リテールメディアの主戦場はECだ。米ウォルマートや米ターゲットといった大手小売りもEC事業に投資を強化しており、そのECサイト上で広告事業を展開する。そのためAmazonとウォルマートなどの既存小売りの広告事業は、機能やサービスの特徴が極めて近い。

 一方、国内の小売企業は強力なECサイトを持たない。セブン&アイ・ホールディングスが23年1月をもって、グループの総合通販サイト「omni7(オムニ7)」を終了させたことに象徴されるように、大手小売りですらEC事業では後れをとっている。代わりに利用者が拡大しているのが、スマートフォン向けアプリだ。「セブン‐イレブンアプリ」はダウンロード件数が2000万件近くなっている。この新しい顧客接点を活用した、日本ならではのリテールメディア市場が立ち上がろうとしている。

 「Amazon広告がリテールメディアの本命」という表現に、やや違和感を持たれる読者もいるかもしれないが、日米の市場の違いにあることをご理解いただきたい。むしろ、ECという強力な武器を持ち、売り場直結型の広告プラットフォームであるAmazonは、日本の小売企業よりも収益性の高いリテールメディアを既に実現できていると言える。日本の小売企業が手掛けるリテールメディアにとっても、将来的にECは欠かせない。Amazonに学ぶことは多い。

 また、広告が売り上げと直接的に結びつきやすく、広告効果が明快だからこそ、広告主の投資を促しやすい傾向にある。Amazonで商品を販売する企業は、Amazon広告の仕組みを理解することで、より成果に結びつきやすくなる。まずはAmazon広告の強みを2つに分解して解説していこう。

「Amazon広告」の強みを2つのポイントで解説

 デジタル広告サービスの開発には「広告の配信面」と「広告配信の仕組み」の両方を備えている必要がある。まず、ECサイトがそのまま広告の配信面になるのはEC事業が本業であるAmazonの強みだ。Amazonのトップページはもちろん、Amazon内での検索結果一覧や商品ページ、決済完了画面など、さまざまな箇所に広告枠を設けている。さらに動画配信サービス「Prime Video(プライムビデオ)」や、買収したゲーム動画サービス「Twitch(ツイッチ)」など、動画広告の配信面の開発にも積極的に投資をしている。

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