
従業員体験価値(EX)を引き上げ、それを顧客体験価値(CX)の向上につなげて収益を稼ぐ丸亀製麺は、2023年3月期に過去最高の売上収益を達成。その勢いを駆って、将来を見据えた新たな手も打ち始めた。丸亀市の離島である讃岐広島の地域再生と新業態「ドライブスルー」の開発だ。両者の狙いと今後の展開を追った。
顧客体験価値(CX)の向上を掲げる丸亀製麺の業績は、好調に推移している。親会社トリドールホールディングスの2023年3月期の決算を見ると、丸亀製麺の売上収益は前期比10.8%増の1021億円と過去最高を記録。事業利益も前期比9.8%増の116億2400万円を計上した。
好業績を支えるのはユーザーからの強い支持だ。客数は前期比で4%増加、客単価は同7.4%も増えた。この上げ潮基調に乗って、本特集で示した通り、今期もテイクアウト新商品の投入、ユーザーの食後の感情の可視化、麺職人インタビューの充実など次々に新手を繰り出している。それらにより、24年3月期には売上収益1100億円(前期比7.7%増)、事業利益133億円(同14.4%増)とさらなる増収増益を見込んでいる。
そんな丸亀製麺は、さらに将来を見据えて新たな手を打ち始めた。1つが、香川県丸亀市と協力した地域再生への取り組み。もう1つが、新業態「ドライブスルー」の開発とその海外展開だ。
手づくりうどんを提供し島民に喜んでもらう
丸亀市から北に約13キロメートル進んだ海上に、「讃岐広島」という愛称で呼ばれる島が浮かぶ。周囲はざっと19キロメートルと瀬戸内海の島としては広いほう。丸亀市に属し、JR丸亀駅のすぐ北にある丸亀港から高速船に乗り、20分ほどで到着する。住人は160人ほど。高齢化率は80%を超え、いわゆる過疎化が進んだ島だ。
丸亀製麺は今、丸亀市と協力し、この讃岐広島を活性化させ、人口増を実現させるための施策に取り組んでいる。
始まりは20年初頭。丸亀製麺という名前のため、もともと交流のあった丸亀市からの紹介で、トリドールホールディングス サステナビリティ推進部部長である大下浩平氏ら2人の従業員が現地を訪れた。大下氏は当時をこう振り返る。「忘れかけていた人の温かさや自然の美しさなどを強く感じる島で、初めて伺ったときから感動してしまった」
その後、何度か島に通ううち、最初に同行した従業員が島を活性化するために本気で移住を決意。そのあいさつもあって、現地でうどんを自分で作って島民にふるまったところ、大感激されたという。飲食店が一軒もないため、うどん店が作るうどんを食べるような機会は、ほとんどなかったためだ。
それをきっかけに、島民の協力を得て、島の畑で小麦が作れる、海から塩も採れる、だしを取るための魚も取れるといったことが判明。ならば、島で取れた小麦や塩などを使ったうどんをその場で作って島民に食べてもらう場を島につくろうという話が、移住した従業員と現地の島民、丸亀市の間でとんとん拍子に進んでいった。
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