隠れたマーケ巧者 丸亀製麺の秘密 第5回

丸亀製麺で顧客推奨度(NPS)が急上昇する店舗は、他店と何が違うのか。それを調べるために、東大阪店に向かった。人気の秘密は過剰な“おせっかい”。店舗内の動線の至る所に、従業員がユーザーに話しかけるトリガーが仕込まれていた。ここまでできるのは従業員体験価値(EX)が高いため。ユーザーも従業員も喜ぶ、店舗づくりの秘密に迫った。

ユーザーも従業員も喜ぶ店舗をつくりあげた、丸亀製麺東大阪店の木村由香店長。子供を飽きさせない店づくりも、おせっかい接客の重要な要素だ
ユーザーも従業員も喜ぶ店舗をつくりあげた、丸亀製麺東大阪店の木村由香店長。子供を飽きさせない店づくりも、おせっかい接客の重要な要素だ

 丸亀製麺のある店舗では、店に入ると麺職人に「いらっしゃいませ」と声を掛けられ、メニュー表を見ていても、天ぷらやおにぎりを見ていても、従業員から声が掛かる。なんとも“おせっかい”だと思いつつ、ついつい天ぷらをもう一品トッピングしたくなり、また来店したくもなる。こうした“おせっかい”を前面に押し出し、全国にある丸亀製麺の835店舗(2023年4月現在)の中で、顧客推奨度(NPS)の値が急上昇しているのが東大阪店だ。

 NPSとは、「丸亀製麺を人にどれだけ推奨したいか」を示す数字。東大阪店は、22年1~3月と23年の同時期を比較したスコアが大幅に伸長し、23年1~3月は全店舗の上位約5%に入る。その中でも、丸亀製麺社長の山口寛氏が「最もおせっかいな取り組みが進む店舗」と太鼓判を押す注目店だ。言い換えれば顧客体験価値(CX)が高い店ともいえるだろう。

 NPSの高さは売り上げにも表れ、「23年4月の客単価が、同じエリア内の平均より約30円高かった」と木村由香店長は明かす。10年のオープン時から勤務し、19年6月に店長に昇格した、“おせっかい”接客の立役者だ。店舗を訪れるのは、平日500~600人、休日700~800人程度。週末は家族連れでにぎわい、多くがリピーターだという。22年は月間売り上げ(月商)の最高額を4回(5月、7月、8月、12月)更新している。22年は外食をする人が増加し、記録を更新する店舗が増えたものの、年4回も更新するのは異例だ。

 丸亀製麺はCX向上に向け、21年から全店舗で「おせっかい戦略」に注力する。各店舗を感動体験の舞台と定義し、「一軒一軒が製麺所」「うどん」「人の力」の3つが感動体験の生命線であると考える。この「人の力」を高める施策が、おせっかい戦略だ。従業員が一人ひとりのユーザーに合わせたおせっかいを実践し、CXを向上させることで再来店意向を高め、持続的な成長につなげるのが狙いだ。

(丸亀製麺資料から。転載転用禁止)
(丸亀製麺資料から。転載転用禁止)

 おせっかい戦略には、丸亀製麺が推奨する行動マニュアルがあるものの、それを上回るおせっかいを焼くのが東大阪店だ。丸亀製麺マーケティング本部の前田美紗都氏は「店舗独自の強みをつくりたいと考えている中、それを先んじて体現していたのが東大阪店だった」と舌を巻く。ユーザーがまた来たくなる店舗の秘密を、順に説明していこう。

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