
丸亀製麺(東京・渋谷)は2022年、インターブランドジャパン(東京・渋谷)の「顧客体験価値(CX)ランキング2022」で1位を獲得した。顧客に感動してもらう体験価値を提供し続けることが同社の根本的な理念である。なぜ体験価値の提供にこだわるのか。創業者で現在、親会社であるトリドールホールディングス社長兼CEO(最高経営責任者)の粟田貴也氏に聞いた。
――丸亀製麺は、その親会社のトリドールホールディングスともども、食の感動体験を重視し、それによって顧客体験価値(CX)を向上させることを重視していますよね。御社が顧客体験価値にこだわる理由は、そもそもどこにあるのですか。
粟田貴也氏(以下、粟田) 今から38年前の1985年に、兵庫県の加古川で焼鳥屋を私と妻の2人で創業したのが、トリドールホールディングスの始まりです。その頃は日本がいわゆるバブル経済を極めていく時期で、景気がよくてどの飲食店も結構はやっていました。だから私、ちょっと勘違いして、料理を覚えて焼き鳥を焼けたら店がつくれるみたいな感覚で商売を始めたんです。素人商売なので、最初は閑古鳥が鳴きまくりました(笑)。
トリドールホールディングス社長兼CEO(最高経営責任者)
そこで、どうしたらお客様に来ていただけるのか真剣に考えました。田舎なので深夜に店は開いていない。でも深夜営業のラーメン店ははやっている。じゃあ、深夜から朝まで店を開ければ焼鳥屋にもお客様が来店されるんじゃないかと考え、営業をしたんです。そうしたら、その通りになってしばらく食いつなぐことができました。次に、東京の居酒屋でチューハイブームが起こり、若い女性が居酒屋にどんどん入っていくと聞き付けました。そこでメニューを工夫し、洋風焼き鳥酒場と銘打って、女性でも来やすいような店を田舎でつくったら、結構はやりました。一気に店をたくさん出していけたんです。
ところが、そうなると今までいなかった競合がどんどん市場に入ってきて、瞬く間に売り上げが下がりました。ちょうどそのとき、ファミリーレストランの出店が一巡して居抜き物件が結構出始めた。それを見て、そうか、住宅地の駐車場のある物件で焼鳥屋をやれば、ファミリー客が来店されるんじゃないかと考えました。出店してみたら、多くのファミリー客に来店していただいて、これは金脈を当てたかなと思って店をどんどん出していったんですね。
小さなうどん店にできた行列を見てショックを受ける
でも自分の中にどこか不安がありました。またここに競合が入ってきて競争が激化し、売り上げが下がるんじゃなかろうかと。そう考え、自分にしかない強みが欲しくなったんです。そんなとき、私の父親の出身地である香川県を訪れました。ちょうど讃岐うどんブームが来た時期で、小さな製麺所やうどん店さんに行列ができていました。
私はそのとき、ものすごくショックを受けました。自分は一生懸命、すべてを考えて商売をやっている。内装もメニューもサービスも従業員の教育も、ありとあらゆるものを考えて一生懸命やってきたのに、こんな行列は店の前にできたことがない。それに対して、ここは粗野な建物で、サービスも接客もない。うどんを作っているだけ。なのに長蛇の行列ができている。
そこで「そうか!」と分かりました。お客様は体験そのものを欲しているんだと。四国の讃岐の製麺所で食べるという体験に多くの方が感動しているんだと。そこに最大の強みがあるんだとね。
この体験価値を自分が再現できたらいいと考え、丸亀製麺1号店を2000年11月に加古川に出店しました。うどん店は全国に山ほどある。でも讃岐の製麺所のような体験価値を提供しているうどん店はない。だから、製麺機を置いて店で麺を作ることにしました。製麺機を置くだけでも結構お金がかかるし、麺を打つとなれば手間暇もかかるので、うどんをそのまま仕入れたほうが、実はよっぽど安く店を運営できます。
でも私はおいしいうどんも作りたいけれど、作るシーンそのものをお客様に売りたかった。その体験価値を提供したかった。だから名前は丸亀製麺だと。香川県には○○製麺という店は結構あったんでしょうけれど、県外には「製麺」を掲げる店なんかほとんどなかったんです。
丸亀製麺の成功で体験価値の提供こそ繁盛の極意と体得
そうやって丸亀製麺が成功したとき、私の中でこれまでもやもやしていたものが吹っ切れ、繁盛の極意を体得したみたいな感じになりました。体験価値の提供こそが自分の強みだと。それからは、どうすればもっと感動してもらえるか、どうすれば体験価値を上げられるか、それをずっと考え、実践し続けた。そうして丸亀製麺が成長し、進化してきたんです。
▼関連記事 丸亀製麺、CX企業ランキング1位の必然 感動体験の設計図を初公開――特に06年に上場して以降は、「店で麺を打たず、セントラルキッチンにしてうどんを店に送ったほうがコストを抑えられる」など、経営コンサルタントらがいろいろ提言したと思います。彼ら彼女らからすると非常にまっとうな意見だったでしょう。でも粟田さんはまったくそう思わなかった。
粟田 私がしたかったのは、うどんの提供ではなかった。うどんを作る製麺所の原風景みたいなものを提供する、そこで得られる体験価値を提供する、それが自分の強みだと。それが自分が見いだした1つの大きな成功だと。そう確信を持っていたので、そこは大切にしたかったんです。
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