隠れたマーケ巧者 丸亀製麺の秘密 第3回

うどんを食べた直後の感情が、顧客体験価値(CX)に強く関連するかもしれない――。そんな仮説を立て、定量的な計測を始めたのが丸亀製麺だ。アプリでユーザーの感動体験を可視化し、高速で各店舗にフィードバック。従業員のモチベーションを高め、さらなるCXの向上を目指す。「顧客体験価値ランキング2022」で1位を獲得した丸亀製麺の、次なるデータ戦略を追った。

丸亀製麺の一部店舗では、感情を計測するトライアルを始めている
丸亀製麺の一部店舗では、感情を計測するトライアルを始めている

 丸亀製麺は2023年5月23日、特集第1回でも紹介した新商品「丸亀シェイクうどん」の一部にカエルが混入していたと発表した。諫早店(長崎・諫早市)で販売したピリ辛担々サラダうどんで、丸亀製麺は「多大なるご心配とご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます」と公式サイトで謝罪した。同21日の発生後、直ちに管轄保健所の指導を受け、野菜加工工場で混入したと判断。同社は生野菜を扱う取引先のすべての工場において、立ち入り検査を実施し、検品体制を強化するとしており、今後の取り組みを見守りたい(生野菜を使用する一部の商品の販売は25日まで休止)。


 うどんを食べた直後にスマートフォンを取り出し、画面を連続タップする。何やら怪しい動きにも見えるが、実は、うどんの満足度をタップした回数で評価している真っ最中だ。2000年代、フジテレビ系列で人気を博した『トリビアの泉 素晴らしきムダ知識』で、感銘を受けたうんちく話の面白さを「へぇボタン」を押した回数でジャッジしていたことに近い。

 「おいしい」「おもしろい」といった感動体験は、企業が選ばれる要因になるのではないか――。丸亀製麺はそんな仮説を検証するため、23年から顧客の感情を可視化するトライアルを一部店舗で実施し始めた。

 丸亀製麺は、CXの根幹を支える「おいしさ」を追求する飲食チェーンとしての姿に加え、顧客データを駆使するマーケティング巧者としての一面を併せ持つ。月に1300万~1400万人が来店する膨大な顧客データを分析。現場に共有し、高速で改善する仕組みができている。そうした取り組みの結果、インターブランドジャパンが運営するC SpaceTokyoが22年6月に発表した「顧客体験価値ランキング2022」で、1位を獲得した。

 今、丸亀製麺が注力するのが、これまでのデータに「感情(感動)評価」を可視化して融合させること。もともと、丸亀製麺は自社の根源価値を「食の感動体験」に置き、店舗がその舞台になると考えている。店舗を訪れたユーザーに対し、店員が声をかける、麺のゆで釜の湯気を肌で感じる、麺切りの小気味よい音が聞こえるといった体験を提供。「その時の感情を分析することで、他の外食がまねできない、より効果的な顧客体験につながると考えた」と語るのは、トリドールホールディングス執行役員最高マーケティング責任者(CMO)で丸亀製麺取締役マーケティング本部長の南雲克明氏だ。

トリドールホールディングス執行役員最高マーケティング責任者(CMO)で丸亀製麺取締役マーケティング本部長の南雲克明氏 (写真/志田彩香)
トリドールホールディングス執行役員最高マーケティング責任者(CMO)で丸亀製麺取締役マーケティング本部長の南雲克明氏 (写真/志田彩香)

 理解する必要があるのは、ユーザーだけではない。従業員のこともだ。ユーザーの満足度を左右するのは、商品以外に、店内の雰囲気、接客態度、安全性など様々な要素が絡み合う。サービスの質はいずれも従業員のモチベーションに左右されるため、CX向上には従業員体験価値(EX)が大きく影響すると、丸亀製麺は考える。

 「CXとEXは表裏一体の関係で、どちらかが崩れたら両方ダメになる。それを支えるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ」と南雲氏は言い切る。しかし、外食産業で、CXを調査しても、EXまで考慮する企業は少ない。外食は利益率が比較的低く、EX向上のためにさらにコストをかけることは利益を圧迫しかねないためだ。

「顧客感情評価」の全貌を公開

 丸亀製麺は23年2月、CXを調査し、その高速フィードバックによって現場のEXを引き上げ、さらにCXを向上させるため、「顧客感情評価」のトライアルを始めた。いったいどんな評価なのか。

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