
米オープンAIの対話AI「ChatGPT(チャットGPT)」は、従来のAIとは比べものにならないほどの深い知見を持ち、人間が書いたのかと思うほどの滑らかな文章で回答する。このツールを活用し、業務効率を高めることがマーケターをはじめビジネスパーソンにとって重要なスキルとなっていくだろう。本特集では、使っていない人が思わず「ずるい!」と驚くほどの成果を導き出すうえで必須となる生成AIの知識を一挙に紹介していく。第1回は、IT批評家の尾原和啓氏がnoteの深津貴之氏にプロンプトの活用術を聞く。
AI開発のスタートアップ、オープンAIが2022年11月末にChatGPTを公開してから約半年が経過した。従来のAIとは異なる柔軟性を持ち、どんな質問にも一定の品質で答える万能ぶりで評判となり、開始から2カ月で約1億人の登録ユーザーを獲得した。23年3月には、能力をさらに拡大した大規模言語モデル「GPT-4」を公表し、ChatGPT内でも月額20ドルの有料サービスとしてGPT-4を利用できるようになった。
このChatGPTを始めとする生成AIが、仕事のあり方を変えようとしている。米マイクロソフトは、WordやExcelなどのビジネスツールにChatGPTの機能を取り入れると23年3月に発表した。このAIは「Copilot(コパイロット、副操縦士)」と呼ばれる。マイクロソフトのビジネスアプリケーション&プラットフォーム副社長のチャールズ・ラマナ氏は、「コパイロットは、これまで人間を悩ませてきた作業を引き受けてくれる新しい波。パソコンがない職場が想像できないように、コパイロットも不可欠な存在になる」と話す。
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)、ロート製薬などのブランド戦略を手掛けてきたStrategy Partners(東京・港)社長の西口一希氏も、「生成AIは、かつてのインターネットやスマートフォンの登場といったインパクトをはるかに超える」と断言する。

現状の生成AIには、回答の正確さ、著作権などの扱い、セキュリティーなどの面で課題もある。そうした点で考慮が必要であることは間違いないが、それを理由として、生成AIの存在を無視し続けるわけにはいかない。近くChatGPTなど生成AIをうまく使いこなす人と、そうでない人との間で、生産性や仕事の質においても差が出てくることは間違いないだろう。
プロンプトが出力の良しあしを決める
中には、ChatGPTを試してみたものの、思ったほどの良い回答が得られず、業務に生かせるほどじゃないと感じた人がいるかもしれない。だが、ちょっと待ってほしい。ChatGPTに対する問いの投げかけには作法があり、それを身に付けることで格段に回答の精度を高められるのだ。
この問いかけの作法は「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれ、ここ最近で注目を集めている。単に質問を投げかけるだけでなく、「何を出力してほしいのか」「どんな条件を満たしてほしいのか」「含んでほしい要素は何か」「排除してほしい要素は何か」といった複数の条件をまとめた指示書のような形で明確に指定する。この手法に基づいてChatGPTを使うと、精度をぐっと高めることができるのだ。
そんなChatGPTへのプロンプトの代表的なお手本として知られているのが、コンテンツ投稿サイトの運営を手掛けるnote(ノート)のCXO(最高エクスペリエンス責任者)を務める深津貴之氏による「深津式プロンプト」だ。このプロンプトを使いこなすうえで押さえておきたいChatGPTの仕組みや原則、さらには活用のコツを、IT批評家の尾原和啓氏との対談でひもといていく。
尾原和啓氏(以下、尾原) 「深津式プロンプト」を考案した深津さんから見て、ChatGPTがビジネスパーソンに与える「業務効率化における影響」はどのくらいのインパクトがありますか?
深津貴之氏(以下、深津) 新聞配達を徒歩でするか、自動車やバイクでするか、というくらい差がありますね。あるいは、石や竹を使って料理をするのと、システムキッチンを使うくらい違います。
尾原 一番のポイントは「速度」ということですね。今まで1周するのにかかっていた時間に、20周できるようになるかもしれない。結果的に質も上がる。
深津 はい。自分1人ではできなかったこと、例えば10人のチームで対応していたことが、ChatGPTを使って1人でできるようになるということです。労働集約的な仕事をAIに任せつつ、一緒に取り組むことで、会社の一部門、あるいは会社まるごとの機能が1人で成立するような時代になってくると思います。
極端に言うと、ChatGPTを使うことで、全てのビジネスパーソンが自分の横に大手金融のアナリストやコンサル会社のジュニアコンサルタントを抱えているような状態になる。そのくらい大きな変化をもたらすツールだと考えています。
尾原 そうなってくると、ますます「使いこなす」ことの重要性が高まります。ツール自体が進化して、どんどん使いやすくなっていくことも踏まえて、ChatGPTを活用するうえで知っておくべき原則や仕組みというものを、深津さんは普段どのように説明していますか?
深津 ChatGPTは、入力した文章に対して「もっともらしい続きを書いてくれる」機械なのです。正しい答えを提示してくれるものでもなければ、仕事を代行してくれるものでもありません。インターネット中にあるテキストから、人類がよく使う定番表現を学んだ脳のような学習データを持っていて、手前の文章に対して確率的にありそうな続きを書いてくれる。そうすることで会話や手紙のようなコミュニケーションが成立しているのです。
ChatGPTなどの大規模言語モデルは、ネット上に存在する膨大な量の文章を解析し、さまざまな言葉の間にどれだけの関連性を持っているかを学習している。このデータを参照することで、ある言葉にどんな言葉がつながる可能性が高いか、という予測をして、文章を作り出している。あくまでそれぞれの言葉が持つ関連性のデータを参照しているだけであり、言葉が持つ意味や情緒を理解しているわけではない。
尾原 ChatGPTは一問一答で正解を与えてくれるものではない。この点は誤解されやすいかもしれません。
深津 そうですね。ChatGPTの基本的な仕組みや原則を理解するには、○×の表を作るのが分かりやすいと思います。「ネット上に存在する誤った情報も学んでしまう」は○。「質問に対して常に正しい回答をする」は×。「知性や感情を理解して回答している」は×。これらをきちんと場合分けしておくと使いやすくなるはずです。
マーケター版「深津式汎用プロンプト」の使い方
尾原 特徴を理解しておくと、現時点では達成しづらいこと、向いていないこともおのずと明確になりますね。
深津 はい。ChatGPTで一番やってはいけないのが、検索の代わりに使うことです。確率上もっともらしい続きを書いてくれる機械なのですから、この世に明確な答えがない問いを投げかけても「知りません」とは答えない。仮にそれがあるとして、もっともらしい続きはこんなものだろう、という文章を出力します。正確な知識を求めるツールではないことを念頭に置いて利用する必要があります。
尾原 そうした特徴を踏まえたうえで、ビジネスパーソンに向けたChatGPT活用術をうかがっていきたいと思います。深津さんと言えば、noteの動画配信の中で「深津式汎用プロンプト」を公開したことで、大きな話題となりました。このプロンプトを、読者の皆さんにどんどんビジネスの場で使ってもらうにあたって、工夫したほうがいいことや、命令書作りのコツなどを聞いておきたいのです。ChatGPTの出力の精度を高めるための条件設定って一般的には難しいものです。深津さんは、どんなイメージを持って臨むのがいいと思いますか?
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