ChatGPT&生成AI「ずるい」仕事術 第3回

米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」をはじめとする生成AIの技術が急激に進化している。プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)、ロート製薬、ロクシタンジャポンなどでトップマーケターとして活躍してきたStrategy Partners(東京・港)代表取締役社長の西口一希氏に、生成AIでマーケターの仕事はどう変化するのかを聞いた。

生成AIがマーケターやマーケティング業界に与える影響を西口氏が語った(写真/太田 未来子)
生成AIがマーケターやマーケティング業界に与える影響を西口氏が語った(写真/太田 未来子)

 P&Gでは「ヴィダルサスーン」「パンパース」「パンテーン」、ロート製薬ではマーケティング本部長として「肌ラボ」「デ・オウ」など多彩なブランドでヒット商品を生み出してきた西口氏。日経クロストレンドの連載や特集記事でも多数登場し、豊富な経験に基づくマーケティングのノウハウを惜しげもなく提供してくれている同氏が、ここ最近は急速に広がる生成AIの研究にどっぷり漬かっているという。

 生成AIが注目の技術であることは間違いないが、トップマーケターとして活躍してきた西口氏が、膨大な時間をかけてまで情報を摂取する理由は何か。「ビジネスの世界で30年以上生きてきたが、これほどの変化のスピードは初体験。かつてのインターネットやスマホの登場といったインパクトをはるかに超える」と西口氏は生成AIの印象について述べる。

西口 一希 氏
Strategy Partners代表取締役社長 グロースX 社外取締役
1990年、P&Gマーケティング本部に入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを経て、2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部本部長。15年ロクシタンジャポン代表取締役社長、その後スマートニュースを経て、M-Forceを創業。Strategy Partners代表取締役社長。グロースX 社外取締役

 2022年春から米オープンAIの「DALL-E 2(ダリ・ツー)」、英スタビリティーAIの「Stable Diffusion(ステーブルディフュージョン)」、米ミッドジャーニーの「Midjourney」などのテキストから画像を生成するサービスが登場した。22年11月末にチャット形式の対話AIのChatGPTが公開となると、公開2カ月で1億人の利用者が集まるほどの人気となった。その後も、マイクロソフトやグーグルといった米ビッグテック企業はもちろん、多数のスタートアップや開発者が新ツールを次々と出し続けている。

 ネット関連のテクノロジーは進化が速いといわれるが、生成AIについては「進化するスピードは従来の100倍速以上という印象。海外の最新情報を調べて、新しいツールを試すことに、1日3時間は費やしている。それでもキャッチアップできないほど進化が速い」(西口氏)。世の中の流れを捉え、新たなビジネスをつくることがマーケターの役割であるとすれば、社会の変革をもたらす生成AIの情報を先取りし、把握しておく必要があるというわけだ。

 発明家であり未来学者であるレイ・カーツワイル氏は、著書の中で、成長したAIの知能が人間を超える「シンギュラリティー(技術的特異点)」へ、2045年に到達すると予測した。その時期には、世界の情報を吸収し、さまざまな課題をこなせる「AGI(アーティフィシャル・ジェネラル・インテリジェンス、汎用人工知能)」が登場するといわれる。

 西口氏は日経クロストレンドの著者紹介ページで、「ここ10年以上、シンギュラリティーは常に頭の真ん中にある」ことや「シンギュラリティーに向かう中で、人間だけができる創造的な仕事や経営を見極め、提案していきたい」という旨を記している。19年の著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社)でも同様のシンギュラリティーに対する考えを記載している。

 今回の生成AIの急激な発展を受け、「シンギュラリティーは僕が引退した後、数十年後の話かなと思っていた。だが、明らかに今、その時代が来てしまった」と西口氏は話す。わくわくする気持ちもあるが、一方で焦りもある。そんな心境で生成AIの動向を注視しているのだという。

営業メールのやり取り「意味がない」

 ここからは、生成AIがマーケ業界にもたらす変化について、日経クロストレンド取材班が西口氏に問いかけた5つの疑問について紹介しよう。

 まずは、高機能なAIが人間の仕事を奪うのではないかという懸念を持つ人もいる中で、「(1)マーケターの仕事もAIに奪われてしまう可能性はあるのか」。ChatGPTのほか、生成AIに対応した業務ツールを使えば、顧客に送るメールの文面や広告の売り文句などを自動で生成できるようになりつつある。「それだけを専門に取り組んできたのであれば、その仕事はなくなる可能性が高い」と西口氏は指摘する。

 最近、西口氏はこんな経験をした。日々受け取っている営業メールの1通をたまたま開くと、明らかにChatGPTで作成したな、という文体だったという。ちょっとしたいたずら心で、ChatGPTに「お断りの返事を書いてください」と入力し、そこで得た答えをコピペ(コピー&ペースト)して返信した。先方もそこに気づいたのか、以降の連絡はなかったという。

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