サイゼリヤ2代目社長として13年間辣腕を振るった堀埜一成氏。社長になった際に「コンセプト以外は全部変える」と宣言し、実際、サイゼリヤ事業の基盤をつくり直した人物である。社長を退任して初の著書『サイゼリヤ元社長がおすすめする図々しさ リミティングビリーフ 自分の限界を破壊する』(日経BP)を2023年5月に出版した堀埜氏に、「DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない理由」を聞いた。
――現在、多くの日本企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいますが、うまく進められている企業は少ないのが実情です。なぜ進まないと考えますか?
堀埜一成氏(以下、堀埜) 「当社のDXはどうしたらいいですか?」なんて質問をする経営者がいるそうですが、おかしな質問です。よくいわれるように、DXは自社事業・自社業務の改革です。進まないのだとしたら、何をどうしたいのかを経営者が自分で考えていないからでしょう。
現在の事業のどこに問題があるのか、業務のどこに問題があるのかを把握し、問題を解決する事業案・業務フローを徹底的に考え抜きます。これが抜けてしまえば改革ではありません。デジタルと関係ない話をしていますが、これをしないDXはただのデジタル導入です。
「DXよりAX、どこにデジタルを適用すべきか見極める」
DXが話題になった時、私は「AXが先」と言い続けてきました。AとはAnalog(アナログ)、つまり、従来の事業・業務の改革を突き詰めたうえで、どこにデジタルを適用すればいいかを考えるということです。この順番で考えれば、デジタルに適した箇所は、実はとても少ないことに気付きます。デジタルは最小限の方がいい、その方がうまくいくんです。
サイゼリヤの前に勤めていた食品メーカーでブラジル勤務の時、ある業務改革を推進しました。多くのオペレーションがあったのですが、「デジタルでしかできない」と判断したのはたった一つのオペレーションでした。そこだけはデジタル化しましたが、そのほかは人のオペレーションを変えることで成果を出しています。同様に、高価な専用コンピューターを使っていた業務を見直したことがあります。AXを極めてコンピューターに任せるべき業務を絞ったところ、パソコンでも十分処理できることが分かり、高価な専用コンピューターを取っ払ったことがあります。
――「デジタルでしかできない業務に絞り込んでからデジタルを適用する方がいい」とのことですね。しかし多くの企業は逆のことをしています。人手不足を解消するために「デジタルで可能なことは、できるだけデジタルに任せよう」としています。
堀埜 危険な方向に進んでいるように思います。デジタルを万能な道具だと思いたいのかもしれませんが、経営者はそんな理想を抱いてはいけません。何でもそうですが、メリットがあればデメリットがある。新たなチャレンジにはリスクが付きものです。
外食産業ではDXの一環でロボットの導入を進めています。私が社長をしていた時サイゼリヤの一部の店舗でテストしましたが、いろいろなリスクが考えられるため全店への展開には至りませんでした。
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