マーケティング1年目の集中講座 第8回

マーケターにとって最も身に付けたいスキルのひとつが、「質問力」だ。マーケターは、世の中に存在するさまざまな「なぜ?」と向き合い、「解」を探る仕事。社内外を問わず多くの人と関わらなければならない。その際、求められるのが質問力となる。日々の仕事でどのような質問をするかによって、得られる解、つまりアウトプットの質が大きく変わってくるからだ。アジア最大級のマーケティングイベント「ad:tech tokyo」の企画・運営を行うComexposium Japan(東京・港)の代表取締役社長、古市優子氏はまさに質問力を武器に、社長就任以来さまざまなカンファレンスを成功に導いてきた。古市氏が社会人生活を通して身に付けたという、質問力の習得法や実務への生かし方のコツは3つある。

「ad:tech tokyo」を主催するComexposium Japanの古市優子氏。2023年1月に、「NRF(全米小売業協会)とComexposiumがRetail's Big Showをアジア太平洋地域に拡大」と発表し大きな話題を呼んだ。世界最大級の小売りイベントである「NRF Retail's Big Show」。初のアジア開催となる同イベントは、24年6月にシンガポールで行われる予定
「ad:tech tokyo」を主催するComexposium Japanの古市優子氏。2023年1月に、「NRF(全米小売業協会)とComexposiumがRetail's Big Showをアジア太平洋地域に拡大」と発表し大きな話題を呼んだ。世界最大級の小売りイベントである「NRF Retail's Big Show」。初のアジア開催となる同イベントは、24年6月にシンガポールで行われる予定
古市氏流、「質問力」を習得する3つのコツ
  • その質問は自己満足ではないか? 「第三者視点」を忘れずに
  • 自分の「役割」に目を向け、相手の期待に応える
  • 日常の延長で、「場数」を踏む

 「目の前にいる人の本音を引き出すことができなければ、多くの人の心を動かすことなんてできない。『質問力』はマーケターにとって必須のスキル」。古市氏は、マーケターにとって質問力が重要な理由をこのように分析する。

 マーケターは、社内外問わずさまざまな関係者と対話をしながら業務を進めていく職業。加えて、インタビューなどを通して直接、エンドユーザーである生活者とも向き合う。その際、必ずと言っていいほど重要になるのが、質問力となる。マーケターとして必要な「解」を得るためには、その解を引き出すための質問が欠かせないからだ。

 こうした質問力は、米OpenAIのAI(人工知能)チャット「ChatGPT(チャットGPT)」を始め、AIが消費者の生活や業務に食い込み始めた今、より求められるようになった。ChatGPTは膨大な工数がかかる作業を大幅に改善する可能性があることから、今最も注目を集めているサービスと言っても過言ではない。マーケターの業務も大きく変わる可能性を秘めている。しかし私たちが業務において「使いこなす」というレベルに到達するには、実は、使い手側の質問力が求められる。なぜなら適切な質問ができなければ、ありきたりな解や想定内の回答しか得られないからだ。

 対人間、対AIそれぞれに欠かせない質問力だが、一体どうしたら身に付くのだろうか? 数々のグローバルイベントを仕切るだけでなく、定評があるモデレート力を武器に各種イベントへの登壇機会も多いComexposium Japanの古市優子氏に、質問力を鍛えるためのトレーニング方法を聞いた。コツは、3つある。

古市 優子 氏
Comexposium Japan代表取締役社長
2019年にComexposium Japan代表取締役に就任。欧州大手イベントオーガナイザーの日本代表となる。グローバルを強みに、ad:tech tokyoを始めとした、マーケティング・広告・コマース・デジタル領域のカンファレンスの企画運営を指揮。 日本の組織や社会におけるダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)の推進に向けて、各種講演やアドバイザー業務など、精力的に活動中

その質問は自己満足ではないか? 常に第三者視点で考える

 古市氏が指南する1つめのコツは、質問をするときは、第三者(お客様)視点に立つことだ。まずは、新人のときから身に付けたい、相手に質問をするときに「考える」習慣のつくり方から見ていこう。

 「新人のうちは、ボーナス期間。業界に入ってきたばかりなのだから分からなくて当然。失敗も許される期間だからこそ、見当違いの質問をして相手を怒らせないだろうかなどと恐れず、その機会を最大限に生かした方がいい。ただ、分からないから教えてくださいという姿勢では駄目で、『私はこう考えたのですが、合っていますか』と自分の考えをぶつける必要がある」(古市氏)

 社会人になりたてのうちは、日々あらゆる場面で、学生生活の間には知りえなかった無数の情報をインプットをしていくことだろう。実はこれらは、マーケターとして活躍するためのチャンスとも言える。マーケターに欠かせない、相手から適切な情報を引き出すための質問力を鍛える絶好の機会となるからだ。

 古市氏が指摘する通り、新人というボーナス期間のうちこそ、「受け身の姿勢」ではなく、「なぜ相手はこのように言っているのだろうか?」と考え、それを「こういうことだろうか?」と言語化し、相手に問うクセを身に付けたい。なぜならそうしたクセを身に付けておくことは、近い将来マーケターとして業務が始まったとき、必ず生かされるからだ。マーケターは関係者が持つさまざまな課題や問いを読み解きながら、「解」にたどり着くことが求められる。適した解を得るためには、適した質問が欠かせない。

 考え、相手に自分なりの意見をぶつける――。これを習慣とするには、対象となる相手やサービスなどについて徹底的なリサーチが必要となる。その際、「調べれば出てくるような質問はぶつけないこと。Google検索や、ChatGPTに聞けば出てくるような質問をしても意味がない」と古市氏は指摘する。マーケタ―は日々さまざまな関係者から意見を吸い上げ、最終的にどう進めていくか判断が求められる職種だ。思考力と判断力が試される仕事と言ってもいいだろう。

 ただし判断するとはいえ、マーケターのゴールは、生活者やクライアントなど、自社の商品やサービスを利用する「お客様」が満足するかどうかとなる。つまり常に、「相手の視点=お客様視点」に立って物事を見聞きできるかが重要なのだ。古市氏はイベントやセミナーでモデレーターを務める機会が多いが、質問する際に意識するのは、「聴講者視点」だという。なぜならイベントモデレーターにとっての「お客様」は聴講者であり、聴講者の満足を得られなければ、「成功」とは言い難いからだ。

 そのため古市氏は登壇者に質問をする際、「それは聴講者も気になっているポイントだろうか? 私は聞きたいけれど、聞いている方が、『?』となってしまうような自己満足の質問ではないだろうか?」と気を付けているという。これが、質問力を磨く1つめのコツ「第三者(お客様)視点に立つ」だ。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

24
この記事をいいね!する