
マーケティングは単なる販促手段ではなく、経営そのものである。なぜなら、企業活動の一丁目一番地「顧客創造」が、そのゴールにあるからだ――。マーケ部門からの大抜てきが話題となったアサヒビールの松山一雄社長は、新人マーケターに向け、そんなメッセージを投げかける。優れたマーケターになるために必要なこと、キャリアの歩み方のヒントを聞いた。

- マーケと経営のゴールは「顧客の創造」
- 外に出て、多様な「点」をインプットする
- ストーリーを意識し、模倣困難な価値を提供
複数企業でマーケターや経営者としての実績を積み、2018年アサヒビールに入社した松山氏。これまでの間、専務取締役マーケティング本部長として、大ヒットした「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」の発売や、発売36年目にして初となる「アサヒスーパードライ」の全面リニューアルをけん引し、手腕を発揮してきた。
マーケティングというと新商品の企画や市場調査・リサーチ、広告宣伝、販促など、実務スキルの習得に関心が向きがちだが、マーケティングの目的は「顧客の創造」でありマーケターにとって経営視点は欠かせないものだと松山氏は説く。
「経営もマーケティングもその目的は『顧客の創造』にある点は同じ。顧客を中心とした経営を体現するには、R&D(研究開発)や製造、営業、人事、財務といった組織の各部門を束ねる必要があり、マーケティングには旗振り役としての役割が求められる。顧客という軸で考えれば、マーケティングと経営は決して切り離せないものであり、マーケターは経営の本質的な仕事を担うべきだと考えている」(松山氏)
本特集では、この4月から新入社員としてまさにマーケター1年目として働く人、新部署でマーケティングに従事することになった人、さらには新たなステージで改めてマーケティングについて考えようとしている人に向けて、多様な先駆者たちからのメッセージを1週間にわたって届けていく。
前述の通りマーケティングは、売るための仕掛けや販促策といった狭義の意味から、より広く、深く、経営の本質へ密接に関わるという認識が広がっている。そのため、今回はあえて実用的、実務的だと期待されるマーケティング理論などには触れない。より本質的な顧客理解につながる視点を先輩マーケターやヒットメーカーから聞き出していく。
成否を分ける独自価値の見極めとストーリー戦略
では、松山氏はどのようにして顧客の創造に踏み出しているのだろう。まず、マーケティング戦略の立案において、最初に検討するのはその商品やサービスならではの「独自価値」だという。ここで気を付けなければならないのは、商品やサービスに感じる価値は、誰もが同じとは限らないことだ。同じ商品でもAさんとBさんが感じる価値のポイントは異なるケースがある。
だからこそ誰にとっての独自価値か、「WHO(顧客)」と「WHAT(価値)」をセットにして考え抜くことが、持続可能な価値の提供には欠かせないという。「自らへの反省も込めてだが、プロジェクトが立ち上がると、商品を送り出すことありきで、『HOW』の方法論に議論が偏りがちになる。しかし、他社に模倣されすぐに陳腐化するようなものは、独自価値として弱い。大事なのは誰に対しての価値かを突き詰めることだ」(松山氏)。
「HOW」に陥らないために何を意識すべきか。1人1人に向き合う「N=1」をひたすら繰り返し、仮説検証し、強い価値を生んでいくことも一つ。また、戦略ストーリーを策定し精緻化していくことも一つだという。
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