
新たにマーケティングに従事することになったが、何をすべきかよく分からない、マーケティングを学んだけれども成果が出ない――。そんな人へのヒントを、多様な先輩マーケター・ヒットメーカーに聞く本特集。第3回は、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)をスタートに、ロート製薬やロクシタンジャポンなどで活躍してきたStrategy Partners(東京・港)代表取締役社長の西口一希氏に、前週の特集に引き続き聞いた。西口氏が若手に贈る言葉とは。
・目の前の顔が見える「1人」に徹底的に向き合う
・「自分で商売をする感覚」を持つ
「初めから李牧(りぼく)を目指すな」
マーケティング業務に就く1年目や若手へのアドバイスを求めると、西口一希氏はこう答えた。李牧とは、中国戦国時代の趙の武将だ。白起(はっき)、王翦(おうせん)、廉頗(れんぱ)と並ぶ戦国四大名将の一人であり、漫画『キングダム』でも、知略と武勇を兼ね備えた武将として描かれている天下の知将だ。
一流マーケター、ヒットメーカーたちがいかに失敗をし、そこからどのように学んできたのかに迫った前週の特集に続き、今週は先輩マーケターから若手へのメッセージを届けている。冒頭の言葉は、その際に西口氏の口から発せられたものだ。
▼前週の特集はこちら 失敗から学ぶ!達人マーケターの逆転法この言葉の真意は、じっくり後述していくが、端的にいうと「現場を客観視する傍観者になるな」ということ。「マーケティングとは」との問いに対して、答えは幾万通りあるかもしれない。ただ、一流のマーケター、ヒットメーカーたちは、幾度もの失敗を経て、目の前にいる顧客を理解するために駆けずり回って来ている。決して軍師、司令官として高みの見物をしていたわけではない。
「学ぶ」よりも大事なことは何か
この第3回では、冒頭で触れた西口氏のメッセージ、「初めから李牧を目指すな」の意味に迫りつつ、“1年目”はどうマーケティングに向き合うべきかを見ていきたい。
23年4月3日公開の記事で、西口氏はP&Gジャパン時代にヘアケアブランド「インナーサイエンス」で大失敗を経験し、その後ロート製薬での体験などを通じて「お客様を起点としたマーケティング(顧客起点マーケティング)」にたどりついたことを語った。
西口氏がその失敗によるトラウマを解消するに至ったと語るロート製薬のエイジングケア商品「50の恵」の開発(詳細は記事参照)を通じて痛感したのが、「とにかく特定のお客様のためだけを考える。その人が必要なものだけを考え抜く姿勢」(西口氏)だという。「どのように売るのかではなく、どのようにしたら喜んでいただけて、どんな商品だったらその喜びをそのまま継続していただけるのか、全てはそれが起点になる」(西口氏)
▼参考記事 ロート製薬で確立した西口流「N=1」マーケ 失敗糧にヒット連発何かコンセプトが先にあって、何か格好いいものをつくるという順番ではない。50の恵は、上記の記事にあるように開発メンバーが「自分の母親のために」という強い思いからスタートしたのだ。
「相手に喜んでもらうために、何が必要かを考える」。人間関係の中では至極当たり前のことに聞こえる。だが、この当たり前を忘れてしまいやすい時代になっているとも西口氏は指摘する。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。