デイトナ・インターナショナルが基幹ブランドの「フリークス ストア」で、オンライン接客サービスの「スタッフスタート」を導入したのは2020年のこと。当時、所属する300人の店舗スタッフによるコーディネート投稿を自社ECサイトに掲載するとともに、店舗のSNSからECへ送客し、売り上げ効果を測定できるようにした。さらに、22年には「LINEスタッフスタート」の利用を開始。同社が狙う、OMO(オンラインとオフラインの融合)の進化とは。
1986年に創業したデイトナは、コロナ禍も含めて12期連続増収を果たしている。21年4月には創業者が退任し、投資会社のユニゾン・キャピタルが株式の過半数を取得。同年5月から新体制をスタートし、佐々木聡氏が社長に就任。6月にはユニゾンとのアドバイザリー契約を交わした加藤利典氏が事業に参画し、デイトナの取締役常務執行役員CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)に就任している。
加藤氏はWebディレクターやシステムエンジニアを経て、04年からベイクルーズのシステム構築やEC立ち上げを手がけた人物。2010年代前半からスタッフ投稿やオムニチャネル戦略を推進するなど、ベイクルーズを業界屈指のEC売上高を誇る企業に成長させた立役者だ。
加藤氏のデイトナ入社時、DXの観点ではベイクルーズに比べて5~6年後れをとっているように見えたが、「逆に伸びしろしかない」と感じたという。スタッフスタートは加藤氏が入社する1年ほど前から導入されていたが、入社当時は活用しきれていなかったからだ。
そこで、まずは店舗スタッフもオンラインとオフラインのどちらでも活躍できるよう、コーディネート投稿やブログ、LINEスタッフスタートなどのデジタル接客を「業務」に組み込み、評価制度にもつなげて強化してきた。
実は、すでにデイトナのEC化率は約6割に達している。店舗を持たないD2Cブランドではなく、リアル店舗から事業を始めた企業としては異例ともいえる高水準だ。ECは収益性が高い販売チャネルであり、うれしい悲鳴なはずだが、「できればリアル店舗とECは半々の割合が理想」(加藤氏)と考えているという。
というのも、やはり小売業者にとって、リアル店舗は顧客接点や顧客ロイヤルティーの醸成において非常に重要な拠点だからだ。デイトナでは「ロイヤルティースコア」と呼ぶ指標を計測している。これは、企業やブランドに対する愛着や信頼を数値化し、顧客接点における顧客体験の評価・改善に生かそうというものだ。
その中で、自社ECの「デイトナパーク(旧フリークス ストア オンライン ショップ)」の認知経路を調べたところ、「約半数がリアル店舗が起点になっている」ことが明らかになった。特にロイヤルティーが高いユーザーほど、店舗で知り、ECに流入するルートを経ている。つまり、EC、さらには企業全体を強化するためには、リアル店舗を強化することが不可欠なのだ。
また、リアル店舗とECを両方利用するクロスユースの顧客はARPU(アープ。顧客当たり平均売上高)がどちらか片方だけの利用者と比べて約4倍も高いことも分かった。ここでも、リアル店舗からの流入やクロスユースを伸ばすことがLTV(ライフタイムバリュー)の向上につながり、ビジネスインパクトが大きくなることが証明されている。そこで、デイトナではクロスユースを会社のKGI(重要目標達成指標)の一つに掲げ、それを達成するためのツールとして、スタッフスタートの活用を強化しているというわけだ。
もう一つ、加藤氏の入社当時、ECの売り上げシェアのうち、ZOZOTOWNが9割近くを占め、自社ECは1割ほどにとどまっていた。「顧客にわくわくするようなブランド体験を提供してロイヤルティーやLTVを高めるためには、自社EC中心型へ構造転換することが不可欠」と加藤氏は判断した。その武器の一つとして、スタッフ起点でリアル店舗と自社ECの売り上げや体験に貢献できるスタッフスタートを活用したいとしている。
すでにデイトナの自社ECの売上高は前年比300~400%ペースで伸長しており、EC全体に占めるシェアはそれまでの1割から3割近くに上昇している。これはスタッフのコーディネート経由の売上高がEC全体の3~4割を占めるまでに伸びているのと呼応した動きでもある。
著者/小野里 寧晃(おのざと やすあき)
本体価格/1700円(税別)
発売日/2023年3月25日
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では、どのように社内でスタッフスタートの活用を進めているのか。まず、同社は勉強会やSNS講習会などを実施して、スタッフ投稿の量だけではなくクオリティーの引き上げを行っている。投稿を業務として行うことで、店舗にもECにも会社にもメリットがあり、スタッフ自身の活躍の場が広がるという理解を地道に浸透させている最中だ。同時に、データを基に効果を示し、納得感やモチベーションを高めることに注力している。
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