OMO(オンラインとオフラインの融合)施策の一環として、店舗スタッフによるコーディネート投稿など、オンライン接客に取り組む企業が増えている。だが、運用方法を誤れば、売り上げが伸びないばかりか、店舗スタッフのやる気をそぐ原因にもなりかねない。2100以上のブランドに導入実績があるオンライン接客サービス「スタッフスタート」を展開するバニッシュ・スタンダード(東京・渋谷)が、そのノウハウを大公開する。

※本連載は新刊『リアル店舗を救うのは誰か ~今すぐ「店舗スタッフ」にECを任せよ~』(日経BP) ▼Amazonで購入する から、一部を転載したものです
(写真/Shutterstock)
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 僕らバニッシュ・スタンダードが提供する「スタッフスタート」は、自社ECサイトで店舗スタッフによるオンライン接客を可能にするサービスだ。店舗スタッフがリアル店舗で培ってきたノウハウやセンスなどに基づいて作成するコーディネート写真を手軽に自社ECやSNSへ投稿できるようにして業務をサポートする。また、そのコンテンツ経由でスタッフ一人ひとりがどれだけ自社ECのアクセスを稼いでいるか、EC売り上げに貢献しているかを可視化し、スタッフの個人評価や次の施策につなげられるようにしてきた。

(画像/『リアル店舗を救うのは誰か ~今すぐ「店舗スタッフ」にECを任せよ~』から)
(画像/『リアル店舗を救うのは誰か ~今すぐ「店舗スタッフ」にECを任せよ~』から)

 新型コロナウイルス禍前の18年9月~19年8月は、スタッフスタートを使って投稿されたコンテンツ経由のEC年間流通額は約288億円で、導入ブランド数は500超だった。それが、コロナ禍が襲った19年9月~20年8月には前年比3倍の882億円、導入ブランド数は750へと急増した。そして、20年9月~21年8月には年間流通額が前年比45%増の1279億円、21年9月~22年8月には同20%増の1529億円を突破している。

 23年2月末現在のブランド数は2100を超え、利用するスタッフアカウント数は18万人超、月間1000万円以上のEC経由売上高を誇るスタッフは200人以上になった。アパレルに加えて、資生堂やコーセー、アットコスメなどの化粧品業界、ソニーマーケティングやカシオなどのメーカー系、大手百貨店やニトリ、ヤマダデンキなど小売業全般、デベロッパー、式場運営のアニヴェルセルなどサービス業にもスタッフスタートの導入企業は広がっている。

(画像/バニッシュ・スタンダード資料から)
(画像/バニッシュ・スタンダード資料から)

 そんな僕らは、これまで店舗スタッフによるオンライン接客の成功ケースや失敗ケースをたくさん見てきた。今回は、バニッシュ・スタンダードが蓄積してきたノウハウを披露しつつ、オンライン接客で「これをやったら失敗する10のワナ」として、絶対やってはいけないことをバッサリと斬っていきたい。自社のサービスで思い当たることが多いなら、すぐに改善すべきだ。

【書籍の購入はこちら】
書名/『リアル店舗を救うのは誰か ~今すぐ「店舗スタッフ」にECを任せよ~』(日経BP)
著者/小野里 寧晃(おのざと やすあき)
本体価格/1700円(税別)
発売日/2023年3月25日

Amazonで購入する

これをやったら「オンライン接客」は失敗する!

① とりあえずスモールスタートする

 1つ目は、とりあえずスモールスタートをしようとすることだ。「成果が出るか分からない」「リソースがない」「まずはテストで」などといって、リアル店舗のスタッフによるコーディネート投稿は、「最初は10人で試してみましょう」といった始め方をしたがる企業がいる。

 でも、これはお勧めしない。なぜなら、参加する店舗スタッフもコーディネート投稿も、最初からある程度の数を担保しなければ効果は出にくいし、見えにくい。というのは、少人数しか投稿しないと、身長や体形、コーディネートのテイストや地域性などが偏ってしまいがちになるからだ。また、投稿数が足りなければ、スタッフスタートの商品ページにバリエーションが出ず、お客さまが選べる商品がないということになる。アパレルは商品型数が多いので、数が担保できることは重要だし、参加スタッフのバリエーションが豊富なことで、おのおのの投稿が生きてくることになる。

 オンライン接客の売り上げへの貢献は多くの企業で認められ、比較的早く出やすいものだが、本質的なEX(従業員の成功体験)やOMO(オンラインとオフラインの融合)で大きな成果を上げるには相応の時間がかかる。過度な即効性への期待は店舗スタッフが疲弊して投稿が続かなくなることになりかねない。半年から1年は腰を据えて継続していくことが必要になる。

② 「ブランドの世界観が崩れる」はもう古い

 いまだに「投稿者数を増やすと、ブランドの世界観が崩れる」と懸念する声も聞く。これは、そもそも自社の店舗スタッフを信用しておらず、ブランドと店舗スタッフのミスマッチを放置していることにもなるので、そちらのほうがよっぽど問題かもしれない。しかも、「ブランドの世界観」を打ち出すとか保つといったブランディングは、すでに各企業が取り組んできたことのはず。その範囲でとどまっていたのでは、EXやスタッフコマース、そしてOMOの本質的な実現はできないし、売り上げの大きな伸びも期待できない。

 リアル店舗のスタッフや、今まで表に出ていないスタッフが、デジタルのツールを使うことでエンパワーメントされ、活躍して活気あるコミュニティーをつくることが、令和の時代はブランディングにつながる。お客さまと一番近いところでブランドを体現するのはデジタル時代も店舗スタッフであり、それ以外の何物でもない

 例えば、セレクトショップの「トゥモローランド」のコーディネート投稿は、投稿スタイルを定めることで統一感を高め、比較購買をしやすくしつつ、ブランドの特性が如実に表れるようなつくりになっている。「店舗検索」によって店舗スタッフの投稿がズラリと一覧で見られるようにしたうえで、撮影の背景やポーズを統一し、カタログのような機能や美しさを実現している。こうすると店舗スタッフも投稿しやすいので、1平均3~4投稿、月に100投稿するスタッフもいて、効率よく成果につなげられているという。

トゥモローランドのECサイト
トゥモローランドのECサイト

③ フォロワー数が多い人、個性的な人だけを投稿者に選ぶ

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